大好きな貴方。
貴方を愛するために沢山の犠牲を払った。
媚を売ってると陰口をたたかれ失ったプライド。
貴方のための時間。
貴方に向けたお金。
貴方に向けた瞳。
全部全部私にとって特別で、有限だった。
でも貴方のために。貴方のためだけに。
あぁ馬鹿みたい。
空を見上げる。
視界が歪んだ。
海のなかにいるみたいだ。
瞬きをすると海がなくなった。
と思ったらまたできた。
空はまだまだ冬色で、貴方の冷たい心を思い出す。
それでもたまに吹く暖かい風が
貴方の微かな暖かみを感じさせる。
昔の男を考えるなんて。
馬鹿みたい。
「 」
淡い光が瞳を掠めた。
その光をこの手に納めることができたなら。
少し未来に夢を抱けるのだろうか。
確証のない希望をつかみとることができるのではないか。
空へまた羽ばたけるのではないだろうか。
微かな期待。
淡い心持ち。
誰かが言った。
私を愛していると。
その言葉を嘘か否か考えてしまう。
本当に?本当は。何?
いつの間にかなにも信じらなくなった。
その時。光が瞳を掠めた。
淡い淡いなくなりそうな光。
手を伸ばした。
完全には伸びきらなかった。
でも少し腕を伸ばした。
光を手に掴んだ。
光を掴んだ手のひらを胸の前でそっと開いた。
なにもなかった。
そこにはただの生暖かい空気。
あの光が本当にあって自分がつかみそこなったのか。
あの光すら嘘だったのか。
分からない。
分からないけど。
自分はまだこの暗闇で歩かなければならない。
きっとそうなのだろう?
「夢心地」
あなたがまだ私の側にいたあの頃の夢。
今は居なくなったあなたが私の側で笑う。
それだけで私の頬は優しく蕩け、赤く染める。
そんなあの頃の私だけの夢。
夢に堕ちる。
身体から力が抜け意識が朦朧とする。
夢に魅了され眠る時間が長くなった。
それでも夢に堕ちていく。
貴方に堕ちていく。
「おはよう。今日はいい天気だね。」
目を開けるとあなたがいた。
笑うと目の端に小さく笑い皺ができる。
校舎裏の端に誇らしく咲き誇る桜の木。
その下で私は寝息をたてて寝ていた。
授業をサボるのは悪いこと。分かってはいたがついつい4時間目を丸々この木の下で過ごしてしまった。
そこに購買のパンを2つ持ったあなたがやって来た。
毎日毎日ご苦労なことだ。
「どうせご飯持ってきてないんでしょ。はい。
メロンパン好きでしょ。」
イタズラっぽく微笑んだあなた。
当たり前のように私の隣に座った。
あなたはチョココロネを取り出し、食べ始めた。
何気無い会話をする。
パンはうまいのか。今度の週末遊ぼう。
ハマっているバンドがある。とか。
チャイムがなった。
「あっ。あと10分で授業はじまっちゃう。行こう?」
私に手を差し出した。
私は手を握り、立つ。
座ってばっかりだったからかスカートに少しシワがついた。
そのスカートが風に揺れた。
貴方の頭には桜の花びらが乗っていた。
思わず微かに笑い声が漏れた。
「付いてる。」私は言った。
貴方の頭に手を伸ばし優しくとった。
私よりも高い背。
甘いものが好きな貴方。
お節介な貴方。
全てが大好きだ。
照れたように頬を赤らめ頬を指で軽くかく貴方。
桜の木下2人で笑いあった。
その週の週末。
貴方と遊ぶ。
学校の最寄駅から3つほど離れた駅で待ち合わせた。
駅の端の柱。そこに身体を任せ空をみながら待った。
心が踊った。
「ごめん。待った?」
そこにあなたがやって来た。
走ってきたようで息を切らし、頬が淡く染まり、
おでこにうっすらと汗がにじんでいる。
「今来たところ。」
本当は20分早く来てしまって、少し待ったことは言わない。楽しみすぎてその間の時間も早く過ぎてしまったから。
「行こっ。」
その日行ったのは動物園。
あなたは動物が好き。特に白熊。
私も好き。ペンギンも。
動物園内の小さなお店でラムネ味のアイスクリームを食べた。まだ肌寒い春の日少し凍えながら、赤らんだ頬を少し冷やすためにアイスクリームを頬張った。
動物園を回りきり、最後にお土産やさんにやって来た。
そこでしばらく悩んだ結果。
白熊のキーホルダー。ペンギンのキーホルダーをお揃いで買った。
動物と氷とか魚の小さなキーホルダーが一つになっているやつだ。
一人だったら絶対買わなかったな。
とか思いながら2人で鞄につけた。
「お揃いっ」て嬉しそうに見せつけるあなたに私は
やっぱり好きだなぁ。って思わされる。
帰り道。すっかり暗くなった街。
駅まで歩いていく。
「楽しかったぁー」
「ね」
「今日はありがとね」
「こちらこそ。」
少し冷たいと思われてしまいそうな相槌を打った。
照れていてちゃんと話せないんだ。
私はキーホルダーに目を落とした。
揺れるたびにキーホルダー同士がぶつかり微かに音を立てる。
可愛い。
思い出だなぁ。とか思う。
「危ないっ!」
突然響いた貴方の声と同時に背中を押される感覚があった。
振り替えると少し微笑んだあなたがいた。
「え?」
そういった瞬間あなたが視界から消えていった。
いや正しく言えば横から大型の車が突っ込んできたのだ。
あなたは遠くに飛ばされて行った。
「ねぇ。ねぇ?」
そう言って私は走った。
走っている間、あなたが微笑んだ顔、声が脳裏を掠めた。なにより、振り返った瞬間に見えたお揃いのキーホルダーの激しく揺れ月明かりを反射した光景が目から離れなかった。
貴方の側についた。
「ねぇ。ねぇ!」
私は言ったもう下半身は血で見えない。
「あぁ。…無事でよかったぁ」
あなたが掠れた声で行った。
私の頬に血で濡れた貴方の手が優しく触れた。
「…ごめんね。楽しかったのに、嫌な、思い出に、なっちゃ、た?
私は頬に涙を伝わせ言った。
いや声になっていなかったかもしれない。
いやだ。そう言った。
あなたが私の涙に触れいつもの笑顔で言った。
「あったかいなぁ」
貴方の身体は冷たく冷えていった。
貴方の血は熱く流れていくのに。
貴方の涙も暖かかった。
白熊のキーホルダー。白熊かどうか分からないほど赤く染まっていった。
まぶたに少しずつ力が入った。
誰かが言った。起きるときだと。
気付けば手の先に力がこもっていた。
あの事故は私の最愛の人を連れ去った。
車は居眠り運転。これを聞いたとき怒りと呆れで何も言えなかった。
瞳を閉じると煌めき赤に染まる白熊のキーホルダーが頭に浮かぶ。
私のベットの下に小さな箱がある。
そこにはあのペンギンのキーホルダーが丁寧におかれている。
動物園。楽しかったなぁ。そんな思い出を感じる。
それと同時に貴方の掠れた声が浮かぶ。
「あったかいなぁ。」あなたは確かにそう言った。
夢が醒める前に。
あなたがいなくなる前に何か貴方に言えばよかった。
「好き」とか。なんでもいい。
今年も桜が咲く季節になった。
こんな日にはメロンパンを食べながら思い出に浸るのも悪くないのかもしれない。
「あったかいなぁ」
春の気温を感じ取った私の唇から微かに声が漏れでた。
「泣かないよ」
おかあさん。おかあさん。泣き声まじりに縋るように
子供の声が聞こえた。
「ここにいるよ。泣かないよ」
そんな子供を慰めるように優しく包み込む声で女の人が呼び掛けた。
子供は安心しきったように泣きつかれ母親の胸の中で微かに寝息をたて寝てしまった。
子は親を欲し、親は子をあやす。
現代社会ではありふれた日常だがその日常を失ったとき。どうしたら良いのだろうか。
おかあさん。おかあさん。泣き声まじりに縋るような声が聞こえる。
昔のような幼さは少し薄れ、ほんの少し大人びたように聞こえる。
「 」
昔は聞こえた一言は心電図の冷淡な音となり返ってきた。
ねぇ。おかあさん。
泣かないでと言って。
おかあさん。
日常が消え行くときは実に一瞬で子供が大人になったときには大昔の事のように感じるのかもしれない。
あるいは心にずっと負の気持ちとしてしがみつき記憶の中心にあり続けるのかもしれない。
時は流れた。
子供はすっかり今年の春から高校3年生になる。
子供は勉強、人間関係 さまざまな難問に悩まされる。
相談できる母親はいない。
思春期も終わりに近づいているとはいえ、まだまだ父親とは口を聞かない。
子供は胸がいたくなり、目の奥が張り裂けそうに熱いときそっと唱えた。
手を胸の上に撫でるように置き、「泣かないよ」と。
そういえば母が返ってきたように感じる。
そんなわけないのに。
でも少し現実から逃れることを許してほしい。
おかあさん。おかあさん。
まだ泣いてないよ。
まだ泣けていないよ。
少しだけ。ほんの少しだけ近くに来て欲しいよ。
背中を擦ってほしいよ。
愛してる。その一言をください。
「泣いていいんだよ。」
たったそれだけ。
だけど一番求めてやまないその一言を。
呼び掛けてくれる人はもういない。
呼び掛けてくれる人はきっとできやしない。
心の叫びに気付く人はきっといない。
あのね。いまだって、胸が張り裂けそうなんだ。
痛みをこらえることはきっと特技になってしまったよ。
自己暗示とは意外と効力のあるものだ。
泣かないよ。
泣けないよ。
いつか誰か、助けてね。
「僕なりのあいしかた。」
僕は一人。ひとりぼっち。
夜の寝静まった家の中で僕だけが目を開けて明日が来ない事を願ってる。
死にたくはない。ただ消えたいだけ。
僕には明るい日なんてきっと来ない。
明日が明るい日なのは少し眩しすぎないかと思う。
個人的にだけど。
部屋の角でイヤホンを耳に突き刺して曲を聞く。
強い曲を聞けば強くなれる。
悲しい曲を聞けば思いっきり泣ける。
いないはずの友達を想像して泣く。
言葉がやけに胸に刺さるときは少し嬉しい。
まだ僕は大丈夫だとおもえるから。
本当の僕を偽って生活する毎日。
少し家族の前で素の自分を出してみると。
今日のお前はちゃんとしていない。
もっと真面目になりなさい。
普段のお前はどうした。
今日のお前は普通じゃない。
ねぇ違うよ。
いつもの僕が僕じゃないだけ。
今日の僕が本当なんだよ。
でかかった言葉は喉の奥に突っかかって吐き気がした。
本当の僕は誰なんだろう。
僕はきっと僕が嫌いなんだ。
いや違うね。
僕は僕が大好きなんだ。
だから愛されたくて、僕を好いてほしくて、
僕は僕を偽った。
僕はこんなにも僕を愛していたらしい。
僕は僕が傷ついてほしくなかった。
だから偽ったのに。
わざわざ素を出して嫌われた。
だから僕は偽ったんだ。
本当の僕を隠したんだ。
僕は僕を大切にしている。
僕は僕を愛しているらしい。
部屋の角イヤホンを耳から外した。
曲は外したイヤホンから微かに漏れでていた。
耳を澄ました。
どこかで「君は君だ!!」 「私が来た!!」 「君は間違っている!!」とか僕を救う声が聞こえないのか、少し期待をした。
何も聞こえない。
誰も救ってくれない。
僕なりのSOSはきっととっくの昔に地に落ちでぐちゃぐちゃに踏み潰されている。
その日はやけにありふれた言葉が胸に刺さった。
今日は、今日だけはその痛みだけを感じていたかった。