ゆじび

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1/18/2026, 10:10:51 AM

「さよなら」


影の濃い夏に「さようなら。」
春風が頬を引っ掻くような日に「さようなら。」
冷たく凍てつくような日に「さようなら。」
木々が紅く染め上げられた日に「さようなら。」

どれも同じ別れの挨拶でも、また明日。と言葉は続いた。
それでも、きっと。今日の「さようなら」は明日が無いだろう。
いつまでも貴方を愛することは私にとって、難ではない。でも貴方にとって私と紡ぐ日々はきっと苦しいかったのだろう。

「さようなら」
荷物をたくさん抱えて、こちらを振り向くことなく
玄関を開け歩いていった。
その時の貴方の背中は、少し小さく見えた。
貴方から言い出したことなのに、寂しそうにしないでほしい。
私の方が何倍も何倍も貴方のことが大好きで、今日という日が寂しかった。
だから。
早く、歩いていって。
私が過去の女になるように、早く時間が過ぎますように。貴女の記憶の私が、嫌いな女から愛おしかった人になりますように。
2度と逢うことがありませんように。


荷物を抱えた貴方は「さようなら」と言った。
この先に続く言葉は無く、ただ沈黙が続いた。
目頭を紅く染めた私と貴方はきっと、別れる者に見えないだろう。
貴方の愛が他人に注がれるのは嫌だけど、私を愛してくれる貴方がいたことは確か。

ねぇ。じゃあね。

遠くの小さな貴方の背中にそっと呟いた。
貴方に届くことはなくてもこの言葉は私の心に強く、
強く残ることだろう。


「さようなら。」いつまでも恋しく思うことはやめておこう。


やめて居れたのならばこの胸は痛くなかったのだろうか。

1/16/2026, 11:27:25 AM

「椿が美しく散ったのならば。」



貴女は美しかった。
誇りを持ち誰にも負けない魅力を放つ。
貴女は演者だった。比喩とかそんなんじゃなくて貴女は演者として舞台に何度も立っていた。
その姿は美しく誇らしかった。

彼女は言った。
『世界はどうしてこんなにも美しいのかしら。』
彼女は泣いていた。1人で苦しみながらそれでも愛を探し抗った。そして彼女は運命の人を見つけた。
その相手が男でも女でも構わないほど彼女は愛らしそうに相手の頬を触った。
世界に絶望し泣いていた彼女の世界が美しく咲いた。
彼女は現在この世界に存在しない。
なぜ?
それは単純だ。理由は「彼女」は貴女が舞台の上でのみ作り出した。
「彼女」は物語の登場人物でたった一人の貴女が演じきった人物だった。
この舞台を見て僕は何度も何度も泣いた。


貴女が歩いていた。
劇の登場人物の仮面を脱いで。
黒色の長い髪が夕日に照らされ輝いていた。
白色に似た肌に椿のように紅い口紅をつけている。
「先輩。」
僕が言った。
貴女は僕の演技の先輩だったから。
「どしたのぉ?」
貴女は言った。
舞台の上の彼女とは一風変わったおっとりとした人だ。
「少し話しませんか」
僕は今日の劇の感想でも話そうとしていた。
全く下心がなかったわけではない。

僕と貴女はこじんまりとしたカフェに入った。
少し古びていて客は少なく店長は僕たちの座った席からかなり離れたカウンターで新聞を読んでいる。
「先輩。今日も凄かったですよ。」
「なにがぁ?」
「先輩の演技がです。」
「ならよかったなぁ。」
沈黙が少し続いた。
先輩が口を開いた。
「この世界ってさ醜いと思わなぁい?」
僕は何を言ってるのか分からなかった。
「だってさぁ。...みんな私が凄いとか言うけどそれって私のスタートラインがみんなよりもすこぉし進んでただけじゃないのぉ?」
また僕はなにも言えなかった。
「才能とか顔とかそんなの産まれもっただけじゃん。
本当に凄いのは私じゃくて私を産んだ母さんなのかもねぇ。」
先輩はカフェの窓からそとを見た。
まるでこんな世界から逃げたしたいと思ってるように。
「なぁんで私はちょっとフライングしちゃったのかなぁ。みんなと一緒に身の丈にあった生活をしたかっただけなのにぃ。」
僕はなにも言えなかった。
「...ごめんねぇ。こんなこと言うつもりなかったんだぁ。」
先輩は席を立ってお金を机の上に置いた。
「先に帰るねぇ。お疲れ様ぁ。」
僕はなにも言えなかった。


今日は先輩が「彼女」を演じる最後の舞台だ。
「彼女」は今日で死んでしまう。
名残惜しく思うものの先輩がただの先輩として戻ってくるそんなの日だった。
僕は裏方で照明を担当していた。
舞台が始まる少し前先輩が僕のもとにやってきた。
「お疲れ様ぁ。ラスト頑張ろうねぇ。」
僕は「はい」とだけ返した。
「ねぇ。世界ってさどうしてこんなにも美しいのかな」
僕は驚いた。前と言っていることが違ったから。
でもすぐに気がついた。
今の先輩は「彼女」なのだと。
「あのね。こんな私を愛してくれるのは君だけなんだよ。君が居るだけで私、少し生きていたいと思えるんだ。」
これは「彼女」のセリフだ。
でもこれは先輩の言葉でもあった。
先輩にとって演技とは「先輩」自身が少し死ねるそんな時間なのかもしれない。

椿のように誇り高い貴女が美しく散っていく。
椿の色が赤から茶色へ。
はたまた緑色から赤色へと変わっていく。
そのごとく貴女が美しく散ったのならば。
僕は散った花びらを眺めて涙でもながそう。

椿が美しく散ったのならば。
また新しい蕾が花になるように隣で支えていたい。


「なんて世界は美しいのだろうか。」
僕は心の奥底で小さく呟いた。

1/15/2026, 3:16:50 PM

「誰も知らない片隅で。」



愛しているよ。
愛している。
誰も居ない日陰の片隅で2人きり。
貴方の瞳は確かに少し潤んでいた。
泣いてるの?苦しいの?
貴方はなにも答えない。
だって私はもう死んでいるんだものね。

愛しているの。
愛していたの。
私がまだ生きていたときま貴方は泣き虫だった。
泣いてると思って貴方の肩にそっと触れて大丈夫か
尋ねるとより一層泣き出してしまう。
困った奴だった。
それでも大好きだった。

愛しているのでしょうね。
私は貴方を。
それでももう私の声は届かないから。
泣かないで。たった一言を伝えられない。
泣かないで貴方の手をそっと降れようとしても触れない。そこにあるのに。そこに居るのに。
もうやだよ。
なにも出来ないのは苦しいだけなんだ。

愛しているから。
もう無理はやめて。
ベンチに座ってスマホをいじる貴方は何をして居るの?分からないね。
でも貴方は泣いている。なんで?楽しくないの。
...ねぇ疲れてるなら辞めれば。
貴方の隣に腰かけた。
貴方には見えないんでしょう。分かってるわ。
届かなくてもいくらでも言う。
『もう辞めてよ。こっち向いてよ。』



誰も知らない片隅で2人きり。
貴方の涙が少しでも枯れることを祈っている。


1/9/2026, 10:19:06 AM

「歩幅」


短い足を精一杯前に出して歩く私の可愛い子供。
この子に歩幅をあわせて歩く。
ゆったりとした坂をゆっくりと歩く。
「あのねぇ」と話しかけるこの子はきっと何よりも
可愛い。
「ふふっ」口を軽く押さえて笑う声はまだ幼さない声。
でも仕草は大人に憧れているみたい。

そういえば私も彼と歩くときは彼に歩幅をあわせてもらっていたなぁ。

彼の歩幅は大きくて、私は小さかった。
でも彼は私にあわせて歩幅を小さくして「遅い」とか言わずに笑って2人でよく歩いた。
そんな彼が大好きで付き合って結婚して子供もできて
幸せだ。

私の人生は幸せで溢れている。
彼とこの子と歩幅を合わせて人生を歩んでいこう。

小さく可愛いうちの子はこれからどんどん大きく成長していくんだろうな。
この子が大きくなったら私の歩幅よりもこの子の歩幅が大きくなるのかな。

未来をしばし夢に見る。
愛しているよ。
何度も何度も伝えていきたい。

1/7/2026, 10:15:26 AM

「貴方の隣で。」


涙が枯れてなにも感じなくなったら消えてしまえるのかもしれない。
貴方からの「愛してる。」という言葉が無くなって
生きることに執着し、醜くなれなくなった私はもう。


「おかえり。」
その言葉を言うだけで幸せだった。
「ただいま。」と疲れたように言う貴方を抱き締めたら
あらかじめ沸かしておいたお風呂に貴方を詰め込む。
そしたら机に貴方の大好きな鮭と味噌汁と気持ち多めに盛ったお米を並べる。
お箸は貴方が好きな落ち着いた赤色で白色の箸置きにそっと置いておく。
貴方と私の好きなビールを缶のまま机に2本並べてガラスのコップに氷を5つ入れたものを2つ並べる。
後は貴方が来るのをまっておくだけ。
もう6年目の結婚生活で大分慣れた。
付き合いたて、新婚のときとは比べて多少触れ合う時間は減ったけれどご飯を2人で食べて、暇なときは
映画でも見る。
休日には出掛けるのもよし、ダラダラ過ごすのもよし。2人で過ごせることが何よりも嬉しくて幸せだった。


ある朝身体が重くて頭がいたくて胸が激しく痛んだ。
病院に行き、診断を受けた。
私は極めて珍しい病になった。
この病気になった人の7割は病が原因で亡くなったそうだ。
さらに完治は難しく、治ったと思ってもすぐに再発するらしい。私は生きられるのだろうか。

病が見つかってから入院生活が始まった。
帰ってきた貴方に「おかえり。」と言う日常はなくなってしまった。
けれどいつかはまた家に帰れると信じて生きていこう。


彼が事故に遭った。
トラックが歩道に突っ込んできて彼は即死だったらしい。
その話を聞いた私は悪い噂話だと思い切りどうにか彼が生きていることを信じていた。
本当は分かっていたんだ。あの噂が本当で彼が私のお見舞いに来なくなったのはもう死んだからなんだって。


私は泣いた。泣いた。
ずっと泣いて泣いて。
言葉がでないほど喉が乾いて水分が足りなくなっても
涙が止まることはなかった。
ある朝目が覚めると涙が止まっていた。
鏡に写る私は彼の隣に居た私ではなかった。
頬が痩けて目が真っ赤に染まり醜く見えた。
あぁ。涙は枯れ果てたんだ。

涙が枯れるほど苦しんで、なにも感じなくなった。
こんなに生きたんだからもういいじゃないの。
貴方の隣に行っては行けないの?
時間が来れば私も死ぬのだろう。
私の一生は病院のベットの上で終わるのだろうか。

私は頑張った。頑張った。
だからどうか貴方の隣に行かせてください。
貴方の隣に逝かせて。
瞼が重くなってきた。2度と目が覚めないような予感がした。
それでも抗うことなく、私はそっと瞼をとじた。
「愛していましたよ。」心のなかでそっと唱えた。
「貴方の隣に行く私をどうか許してくださいね。」
私の目からは涙が少し滲んだ気がした。
花が枯れても心は枯らさずに貴方の隣で生きていた私が枯れるのだから、少しぐらい泣いてもいいでしょ。


涙が枯れても、もう少し泣いていたい。
貴方の隣で笑い合っていたい。

確かに貴方の隣で生きていた私の存在を証明するために。






「貴方の隣で。」

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