「貴方の隣で。」
涙が枯れてなにも感じなくなったら消えてしまえるのかもしれない。
貴方からの「愛してる。」という言葉が無くなって
生きることに執着し、醜くなれなくなった私はもう。
「おかえり。」
その言葉を言うだけで幸せだった。
「ただいま。」と疲れたように言う貴方を抱き締めたら
あらかじめ沸かしておいたお風呂に貴方を詰め込む。
そしたら机に貴方の大好きな鮭と味噌汁と気持ち多めに盛ったお米を並べる。
お箸は貴方が好きな落ち着いた赤色で白色の箸置きにそっと置いておく。
貴方と私の好きなビールを缶のまま机に2本並べてガラスのコップに氷を5つ入れたものを2つ並べる。
後は貴方が来るのをまっておくだけ。
もう6年目の結婚生活で大分慣れた。
付き合いたて、新婚のときとは比べて多少触れ合う時間は減ったけれどご飯を2人で食べて、暇なときは
映画でも見る。
休日には出掛けるのもよし、ダラダラ過ごすのもよし。2人で過ごせることが何よりも嬉しくて幸せだった。
ある朝身体が重くて頭がいたくて胸が激しく痛んだ。
病院に行き、診断を受けた。
私は極めて珍しい病になった。
この病気になった人の7割は病が原因で亡くなったそうだ。
さらに完治は難しく、治ったと思ってもすぐに再発するらしい。私は生きられるのだろうか。
病が見つかってから入院生活が始まった。
帰ってきた貴方に「おかえり。」と言う日常はなくなってしまった。
けれどいつかはまた家に帰れると信じて生きていこう。
彼が事故に遭った。
トラックが歩道に突っ込んできて彼は即死だったらしい。
その話を聞いた私は悪い噂話だと思い切りどうにか彼が生きていることを信じていた。
本当は分かっていたんだ。あの噂が本当で彼が私のお見舞いに来なくなったのはもう死んだからなんだって。
私は泣いた。泣いた。
ずっと泣いて泣いて。
言葉がでないほど喉が乾いて水分が足りなくなっても
涙が止まることはなかった。
ある朝目が覚めると涙が止まっていた。
鏡に写る私は彼の隣に居た私ではなかった。
頬が痩けて目が真っ赤に染まり醜く見えた。
あぁ。涙は枯れ果てたんだ。
涙が枯れるほど苦しんで、なにも感じなくなった。
こんなに生きたんだからもういいじゃないの。
貴方の隣に行っては行けないの?
時間が来れば私も死ぬのだろう。
私の一生は病院のベットの上で終わるのだろうか。
私は頑張った。頑張った。
だからどうか貴方の隣に行かせてください。
貴方の隣に逝かせて。
瞼が重くなってきた。2度と目が覚めないような予感がした。
それでも抗うことなく、私はそっと瞼をとじた。
「愛していましたよ。」心のなかでそっと唱えた。
「貴方の隣に行く私をどうか許してくださいね。」
私の目からは涙が少し滲んだ気がした。
花が枯れても心は枯らさずに貴方の隣で生きていた私が枯れるのだから、少しぐらい泣いてもいいでしょ。
涙が枯れても、もう少し泣いていたい。
貴方の隣で笑い合っていたい。
確かに貴方の隣で生きていた私の存在を証明するために。
「貴方の隣で。」
1/7/2026, 10:15:26 AM