「椿が美しく散ったのならば。」
貴女は美しかった。
誇りを持ち誰にも負けない魅力を放つ。
貴女は演者だった。比喩とかそんなんじゃなくて貴女は演者として舞台に何度も立っていた。
その姿は美しく誇らしかった。
彼女は言った。
『世界はどうしてこんなにも美しいのかしら。』
彼女は泣いていた。1人で苦しみながらそれでも愛を探し抗った。そして彼女は運命の人を見つけた。
その相手が男でも女でも構わないほど彼女は愛らしそうに相手の頬を触った。
世界に絶望し泣いていた彼女の世界が美しく咲いた。
彼女は現在この世界に存在しない。
なぜ?
それは単純だ。理由は「彼女」は貴女が舞台の上でのみ作り出した。
「彼女」は物語の登場人物でたった一人の貴女が演じきった人物だった。
この舞台を見て僕は何度も何度も泣いた。
貴女が歩いていた。
劇の登場人物の仮面を脱いで。
黒色の長い髪が夕日に照らされ輝いていた。
白色に似た肌に椿のように紅い口紅をつけている。
「先輩。」
僕が言った。
貴女は僕の演技の先輩だったから。
「どしたのぉ?」
貴女は言った。
舞台の上の彼女とは一風変わったおっとりとした人だ。
「少し話しませんか」
僕は今日の劇の感想でも話そうとしていた。
全く下心がなかったわけではない。
僕と貴女はこじんまりとしたカフェに入った。
少し古びていて客は少なく店長は僕たちの座った席からかなり離れたカウンターで新聞を読んでいる。
「先輩。今日も凄かったですよ。」
「なにがぁ?」
「先輩の演技がです。」
「ならよかったなぁ。」
沈黙が少し続いた。
先輩が口を開いた。
「この世界ってさ醜いと思わなぁい?」
僕は何を言ってるのか分からなかった。
「だってさぁ。...みんな私が凄いとか言うけどそれって私のスタートラインがみんなよりもすこぉし進んでただけじゃないのぉ?」
また僕はなにも言えなかった。
「才能とか顔とかそんなの産まれもっただけじゃん。
本当に凄いのは私じゃくて私を産んだ母さんなのかもねぇ。」
先輩はカフェの窓からそとを見た。
まるでこんな世界から逃げたしたいと思ってるように。
「なぁんで私はちょっとフライングしちゃったのかなぁ。みんなと一緒に身の丈にあった生活をしたかっただけなのにぃ。」
僕はなにも言えなかった。
「...ごめんねぇ。こんなこと言うつもりなかったんだぁ。」
先輩は席を立ってお金を机の上に置いた。
「先に帰るねぇ。お疲れ様ぁ。」
僕はなにも言えなかった。
今日は先輩が「彼女」を演じる最後の舞台だ。
「彼女」は今日で死んでしまう。
名残惜しく思うものの先輩がただの先輩として戻ってくるそんなの日だった。
僕は裏方で照明を担当していた。
舞台が始まる少し前先輩が僕のもとにやってきた。
「お疲れ様ぁ。ラスト頑張ろうねぇ。」
僕は「はい」とだけ返した。
「ねぇ。世界ってさどうしてこんなにも美しいのかな」
僕は驚いた。前と言っていることが違ったから。
でもすぐに気がついた。
今の先輩は「彼女」なのだと。
「あのね。こんな私を愛してくれるのは君だけなんだよ。君が居るだけで私、少し生きていたいと思えるんだ。」
これは「彼女」のセリフだ。
でもこれは先輩の言葉でもあった。
先輩にとって演技とは「先輩」自身が少し死ねるそんな時間なのかもしれない。
椿のように誇り高い貴女が美しく散っていく。
椿の色が赤から茶色へ。
はたまた緑色から赤色へと変わっていく。
そのごとく貴女が美しく散ったのならば。
僕は散った花びらを眺めて涙でもながそう。
椿が美しく散ったのならば。
また新しい蕾が花になるように隣で支えていたい。
「なんて世界は美しいのだろうか。」
僕は心の奥底で小さく呟いた。
1/16/2026, 11:27:25 AM