『子供のように』
黄昏時の西日が差し込む、ホテルの一室で。
俺は、隣で笑う彼を見つめる。
大人びた上品な笑みの中に、ごくたまに混じる、子供のような屈託のない笑顔。
俺はそれを見ると、少しだけ頬が緩む。
幼少の頃から、家の名に恥じない才能と風格を求められてきたであろう、彼の。
必死に努力して手に入れた成績と、自信に満ちたふるまいの端に滲む不安。
数多の罪を犯し、何人もの命を背負ってさえ、彼の奥底にある純粋さ。
それらが、その表情ひとつに現れているような気がして。
彼から俺に向けられた、かなり歪んだ好意も相まって、なおさら子供のように見えた。
20代って意外と、大人じゃないのかな。
そんなことを考えながら、彼と過ごす黄昏色の午後。
これは二次創作なのですが、元のゲーム分かる人いるといいなあ……😭
『放課後』
放課後に友達とスイーツ食べたりだとか、恋人とデートしたりするのって、憧れるよね。
まあ、友達も恋人もいない受験生の私には、縁の無い話だけどね!!
私だって、青春したいよ!!
勉強なんてしたくないよぉ!
塾行くのだるいし、成績どんどん落ちてくしさ!!
楽しみといったら、スマホ開いて動画見たり小説書くぐらいだよ!
まあ楽しいけどね!!
数年後には、優しい友達と恋人ができますように!!
『カーテン』
AM 6:08
俺は、パソコンの前で伸びをした。
カーテンの隙間から差す朝日が鬱陶しい。
徹夜明けで気怠い体を横たえる。
レポート提出したし、もう少し寝るか。
そう思って、目を閉じた時。
ピンポーン
家のインターホンが鳴り響いた。
こんな時間に誰だよ。
まあ、家に来るやつなんて一人しかいないけど。
はーい、といかにも面倒そうに返事をした。
扉の向こうから、聞き慣れた関西弁が答える。
『邪魔するでー』
「本当に邪魔だから帰れ」
こいつはほぼ毎日、俺の家の前に現れる。
来る時間はバラバラ。
今日みたいな早朝や、ド深夜でもおかまいなしだ。
こんな非常識なやつと友達になった覚えはない。
でも何故か、いつも一緒にいる。
不思議なやつ。
今日もこいつは案の定、勝手に家の中に上がりこんできた。
しかし何をするでもなく、気まぐれに寝転がったり、スマホを眺めていたり、時にちょっかいをかけてきたりする。
お前、なんのために来てんの?とたずねても、いや別にー、とはぐらかされた。
ふと、そいつは窓の前に立って、カーテンを開ける。
眩しい朝日が、暗い部屋の中を照らした。
「おいやめろよ、俺が明るいの嫌いなの知ってんだろ」
部屋着のフードを深く被って抗議する。
でもそいつは、『こんな暗い部屋にいたら鬱になるで』
と笑いながら返すだけ。
嫌なやつ。本当に、鬱陶しい。
鬱陶しいけど、今は何故か。
部屋の中でキラキラと輝く日差しと、その光の中で屈託なく笑うそいつの笑顔が、少しだけ眩しく見えた。
『涙の理由』
初めて、彼女が泣いている所を見た。
静かに肩を震わせて。
辛そうに。
私は柱の影から見ていることしかできなかった。
泣いている彼女を前にして。
どうしても罪悪感のようなものがあって、一歩踏み出すことができなかった。
わからなかった。
知らなかった。
彼女が辛い思いをしているなんて。
さっき会ったときも、彼女は悲しむ素振りなんて一切見せなかった。
いつものように笑っていた。
友達も、先輩も、彼氏でさえも彼女の笑顔に騙されていた。
そして私も。
たとえ彼氏ができたって、彼女の一番近くにいるのは私だと思っていた。
私が一番彼女を理解していると思っていた。
でも違った。
気づけなかった。
私は、何も見なかったことにして、その場を去った。
自分が許せなかった。
いまとなってはもう、彼女の涙の理由すら分からない。
『秋恋』
秋恋とは、秋という季節に置ける恋らしい。
なんとなくお洒落な言葉で気に入ったから、調べてみた。
今は9月。
秋というには少し早いかもしれないけれど、寒がりな同居人はもう長袖を着ている。
私が彼女をじっと見つめていると、何?と煩わしそうな視線を向けられた。
黒いパーカーの袖から覗く、白く細い指先。
陽の光を受けて柔らかく光る長い髪。
どうしても見てしまう。
だって彼女がすごく綺麗だから。
好きと伝えたら、彼女はどんな顔をするのだろうか。
怒られるかな。それか、馬鹿にされるかも。
でも、もしかしたら
なんて。
私の気持ちを伝えるのはまだ先。
面倒なことは、先送りにすればいい。
いつか雪が溶けて、春になったら。
好きの代わりに、彼女の肩に顔をうずめた。
ほのかに香る、柑橘系の香水。
あったかくて、心地いい。
私の恋は、まだまだ続く。
木の葉が散って、秋が終わっても。