『涙の理由』
初めて、彼女が泣いている所を見た。
静かに肩を震わせて。
辛そうに。
私は柱の影から見ていることしかできなかった。
泣いている彼女を前にして。
どうしても罪悪感のようなものがあって、一歩踏み出すことができなかった。
わからなかった。
知らなかった。
彼女が辛い思いをしているなんて。
さっき会ったときも、彼女は悲しむ素振りなんて一切見せなかった。
いつものように笑っていた。
友達も、先輩も、彼氏でさえも彼女の笑顔に騙されていた。
そして私も。
たとえ彼氏ができたって、彼女の一番近くにいるのは私だと思っていた。
私が一番彼女を理解していると思っていた。
でも違った。
気づけなかった。
私は、何も見なかったことにして、その場を去った。
自分が許せなかった。
いまとなってはもう、彼女の涙の理由すら分からない。
10/11/2024, 4:19:49 AM