『命が燃え尽きるまで』
ふとした時に、考える。
私っていつまで、小説書いてるんだろうとか、
いつまで絵描いてるんだろうとか。
大人にならないうちに、死んじゃうかもしれないし。
今日の帰り道に事故に遭うかも。
旅行先の夜道で刺されるかも。
ご飯が喉に詰まるかも。
眠れない夜に、死んだらどんな感じなんだろうって、考える。
何も感じなくなって、
意識がなくなって、
自分が死んだことにも気づかない。
そう思うと、目の前が真っ暗になって、息が苦しくなる。
だって、必ずその時が来るんだから。
誰かじゃない、自分自身に。
だからこそ私は、この命が燃え尽きる瞬間まで、
絵が描きたい。小説が書きたい。
好きな服を身にまとって、好きなメイクをして。
そうやって死にたい。
まあ、まだ何十年も先の話だけど、お題に合ってるかなー
と思って書いた。
『夜明け前』
夜明け前、いつもと同じように家を出た。
朝日が昇る前に散歩をするのは僕の日課だ。
なぜこの時間帯を選んで歩いているかというと、単純に人が少ないからだ。
対人恐怖症の僕は、人混みが苦手なのだ。
黒いパーカーのフードを被って、うつむくように歩く。
まだ暗い道路に、白いスニーカーが映えた。
イヤホンが周囲の音を遮断して、音楽だけが聞こえる。
静かで、唯一心が休まる時間。
僕はスマホを持つと、少し明るくなってきた空に向けて一枚撮る。
それから信号、街路樹、遠くのビル群。
順番にシャッターを切った。
スマホのデジタル時計がAM 5:30 と表示している。
もう家に帰ったほうがいいかな。
僕は靴ひもを結びなおすと、朝日が差す道路を歩いていった。
『世界に一つだけ』
土曜日の午後。
私は壁に飾ってある一枚の絵を眺めながら、紅茶を飲む。
手元のグラスが夕日を反射して綺麗だった。
絵の中には、夜空を走る列車が描かれている。
銀河鉄道。
いつか彼が言っていたのを思い出した。
繊細なタッチと鮮やかな色使いは、彼の絵の魅力だ。
***
2年前の夏、この絵みたいな満天の星空の下、私は彼にプロポーズされた。
指輪の入ったケースを私の手に乗せて、恥ずかしそうに笑う彼。
私は、彼と結ばれることが信じられないほど、幸せだった。
彼は私の、最初で最後の運命のひとだった。
その数ヶ月後、彼は事故にあった。
即死だった。
私は目の前が真っ暗になった。
なんで。なんで彼なの。
やっと幸せになれたのに。
誰にも愛されたことのない私に愛を教えてくれた、唯一のひとだったのに。
私はまた空っぽになった。
そんな時、彼の遺品整理をするために、足を踏み入れたアトリエで見つけたのが、この絵だった。
アトリエに一枚だけ飾ってあったそれを
一目見てすぐ、目が釘付けになった。
きれい。
絵のあまりの美しさと、彼を失った悲しみで、初めて涙が溢れだした。
この絵だけは一生大切にすると決めた。
彼が遺した、世界に一つだけの絵なのだから。
***
いつの間にか、日が暮れていた。窓の外はもう真っ暗だ。
たくさんの星たちが、宝石のようにきらきらと輝いている。
空になったグラスを片付けて、カーテンを閉めようとした
そのとき
ガタンゴトン、と音を立てて、1本の列車が星の間を走り去った。
目を擦ってもう一度見ると、列車はもうなかった。
でも確かにこの目で見たのだ。
列車の窓の向こうで微笑む彼を。
『空模様』
うだるような暑さ
セミの鳴き声
揺れる向日葵
木漏れ日の中で、あなたとアイスをかじりながら
はしゃぎあったのは、いつのことだっけ。
今年も夏がやってきた。
私はあの日と同じ道を一人で歩く。
「__ここ、置いとくね」
掠れる声でつぶやいて、
遮断機の下りる踏切に花束を置いた。
真っ青な空模様の下、涙を手で拭い走った。
__ばいばい、来年の夏にまた来るから。
『鏡』
私は自分の容姿が嫌いだ。
不健康そうな、暗い表情。
私はいつものように鏡で自分の姿を眺めてから、出かける準備をする。
ベースメイクをして、アイシャドウを手に取る。
少し濃いピンクのアイシャドウで、私の顔はどんどん輝いていく。
アイライナーで目の周りを囲むように線を引く。
赤いリップを唇に滑らせる。
鏡に映る私は、絶世の美少女だ。
好きなメイクは自分を変えてくれる。
私、今日も可愛い。
鏡の前でそうつぶやいてから、大好きな服に袖を通した。