ももく

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9/15/2024, 8:44:18 AM

 あの子とおれは、一心同体となっちまった。
 あの子がおれをあわれんだからなんだろうが、何でだろうな。おれを助けることにあの子の利点はなかったはずだ。同情されたからとて、あの子がおれにそこまでする必要はなかったはずなんだ。
 そのせいで、おれは囚われ、簡単には死ねなくなっちまったわけだ。
 そしてそれは、あの子にとっても同じこと。
 はたから見たら、面倒くさい関係だ。
 仕方ないから、しばらくの間はあの子に協力してやる。
 俺にかけられた呪いが解けるか、おれの命が燃え尽きるまで。



『命が燃え尽きるまで』

9/5/2024, 6:34:35 AM

 毎日、楽しいけれど、どこか何か足りないような気がしていた。
 それは、この年の子どもにはまったく似つかわしくないこと⸺つまり、わたしは可愛くない子どもだったのかもしれないと今では思う。

 しかしあの時あの場所で、わたしは何かに吸い寄せられ、そこへ向かったのだ。
 何かに呼ばれた、という感覚のほうが正しいのかもしれない。
 そこが水が流れる場所だというのは、少しオーバーサイズの靴がさらわれてから気がついた。
 お母さんに怒られる!
 幼いわたしは我にかえって、流れる靴を拾おうとした。

 ずっと忘れていたこと。
 ⸺思い出したこと。


『きらめき』

9/3/2024, 9:33:47 AM

 心に火がつくというのは、こういう感じを言うのだろうか。
 否、少し違うだろう。わたしが彼女と向き合ったときに感じたのは、例えるなら滝に打たれるだとか、大樹の前に立つだとか、そういったときに身を貫くような感情に近しいものだろう。
 しかし、以後、わたしの心は彼女らとの再会を望むように生にしがみつき始めた。
 これを火がつくと例えるのも妥当と思える。
 近いうちに必ずまた会える。
 わたしはそう確信している。


『心の灯火』

8/30/2024, 9:11:15 AM

 彼⸺彼女かもしれないし、そもそもそういう呼び方をするのは間違っているかもしれないが、ここでは彼としよう⸺は、初めから、恐らく招かれざる客である少女たちに対して、敵対する気はなかったのだろう。
 彼が少女たちを、墓標に案内したのは、彼女ら帰還者だと判断したためなのだろうか。
 彼は、たくさんいた仲間を少しずつ、少しずつ失いながら、ずっとこの場所を守ってきたのだ。
 あの墓は、ここで暮らしたすべての命のあるものたち墓であってほしい。
 少女たちが花を手向け、手を合わせることで、多くのものが救われることを願う。



『言葉はいらない、ただ…』

8/29/2024, 6:41:32 AM

 まあまあの長い年月、我々はここで暮らしてきた。
 ま、間借りではあるんだが。
 大家がたまに風を入れに来るくらい以外は静かで、暮らしぶりも気に入ってた。
 我々にとっては快適な住まいだったわけさ。
 それが、急にがたがたと窓が開け放たれて、人が入り込んできた。
 どうやら久し振りにこの家の主が定まったらしい。
 いつかはこんな日が来るとわかってはいたんだけどね。
 仕方ないから、今夜、ひっそりと引越し作業だ。
 夜逃げとか言わないでくれよ。
 我々は明るいところは苦手なんだからさ。



『突然の君の訪問。』

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