心に火がつくというのは、こういう感じを言うのだろうか。
否、少し違うだろう。わたしが彼女と向き合ったときに感じたのは、例えるなら滝に打たれるだとか、大樹の前に立つだとか、そういったときに身を貫くような感情に近しいものだろう。
しかし、以後、わたしの心は彼女らとの再会を望むように生にしがみつき始めた。
これを火がつくと例えるのも妥当と思える。
近いうちに必ずまた会える。
わたしはそう確信している。
『心の灯火』
彼⸺彼女かもしれないし、そもそもそういう呼び方をするのは間違っているかもしれないが、ここでは彼としよう⸺は、初めから、恐らく招かれざる客である少女たちに対して、敵対する気はなかったのだろう。
彼が少女たちを、墓標に案内したのは、彼女ら帰還者だと判断したためなのだろうか。
彼は、たくさんいた仲間を少しずつ、少しずつ失いながら、ずっとこの場所を守ってきたのだ。
あの墓は、ここで暮らしたすべての命のあるものたち墓であってほしい。
少女たちが花を手向け、手を合わせることで、多くのものが救われることを願う。
『言葉はいらない、ただ…』
まあまあの長い年月、我々はここで暮らしてきた。
ま、間借りではあるんだが。
大家がたまに風を入れに来るくらい以外は静かで、暮らしぶりも気に入ってた。
我々にとっては快適な住まいだったわけさ。
それが、急にがたがたと窓が開け放たれて、人が入り込んできた。
どうやら久し振りにこの家の主が定まったらしい。
いつかはこんな日が来るとわかってはいたんだけどね。
仕方ないから、今夜、ひっそりと引越し作業だ。
夜逃げとか言わないでくれよ。
我々は明るいところは苦手なんだからさ。
『突然の君の訪問。』
手ごたえは、まあ、半々ってところかな。
でも半分も可能性があるなら、挑戦する価値はある。
急に雨が降ってきたけど、出かける前に降り出してくれたからツイてる。傘をさして行けるからね。
一張羅の足元を汚すと怒られるから、そこだけは気をつけないといけない。
約束の時間の少し前に着いて、おばさんに聞くと、あの子はまだ帰ってきてないらしい。
なので、軒下で待たせてもらうことにした。
傘を、持っていないだろうな。
濡れていないだろうか。
どこかで雨宿りしているといいけど。
それで遅くなってるなら、全然かまわないんだけどな。
『雨に佇む』
メカにしか興味がないクソ爺ではあるが、最も古い一味で、自分が駆け出しの頃からよく知ってる、言わば持ちつ持たれつの関係ってわけだ。
たまにこうして酒を片手にチェスを打つのも、そうできるのは奴しかいないってわけじゃないが、そうするのは奴が最も適当だっていう寸法さ。
チェスの実力は拮抗してるはずだが、今日はどうも読み違いが多い。
安ワインに酔ったのか、はたまた、おたからにありつけるかもしれない幸運に酔ったのか。はたまた。
爺はそういう、細かいところを突っついてくるから気に食わない。
あたしの正面にこうして座ってくる奴は、今じゃこいつだけだからな。
『向かい合わせ』