ももく

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9/3/2024, 9:33:47 AM

 心に火がつくというのは、こういう感じを言うのだろうか。
 否、少し違うだろう。わたしが彼女と向き合ったときに感じたのは、例えるなら滝に打たれるだとか、大樹の前に立つだとか、そういったときに身を貫くような感情に近しいものだろう。
 しかし、以後、わたしの心は彼女らとの再会を望むように生にしがみつき始めた。
 これを火がつくと例えるのも妥当と思える。
 近いうちに必ずまた会える。
 わたしはそう確信している。


『心の灯火』

8/30/2024, 9:11:15 AM

 彼⸺彼女かもしれないし、そもそもそういう呼び方をするのは間違っているかもしれないが、ここでは彼としよう⸺は、初めから、恐らく招かれざる客である少女たちに対して、敵対する気はなかったのだろう。
 彼が少女たちを、墓標に案内したのは、彼女ら帰還者だと判断したためなのだろうか。
 彼は、たくさんいた仲間を少しずつ、少しずつ失いながら、ずっとこの場所を守ってきたのだ。
 あの墓は、ここで暮らしたすべての命のあるものたち墓であってほしい。
 少女たちが花を手向け、手を合わせることで、多くのものが救われることを願う。



『言葉はいらない、ただ…』

8/29/2024, 6:41:32 AM

 まあまあの長い年月、我々はここで暮らしてきた。
 ま、間借りではあるんだが。
 大家がたまに風を入れに来るくらい以外は静かで、暮らしぶりも気に入ってた。
 我々にとっては快適な住まいだったわけさ。
 それが、急にがたがたと窓が開け放たれて、人が入り込んできた。
 どうやら久し振りにこの家の主が定まったらしい。
 いつかはこんな日が来るとわかってはいたんだけどね。
 仕方ないから、今夜、ひっそりと引越し作業だ。
 夜逃げとか言わないでくれよ。
 我々は明るいところは苦手なんだからさ。



『突然の君の訪問。』

8/28/2024, 7:29:13 AM

 手ごたえは、まあ、半々ってところかな。
 でも半分も可能性があるなら、挑戦する価値はある。
 急に雨が降ってきたけど、出かける前に降り出してくれたからツイてる。傘をさして行けるからね。
 一張羅の足元を汚すと怒られるから、そこだけは気をつけないといけない。

 約束の時間の少し前に着いて、おばさんに聞くと、あの子はまだ帰ってきてないらしい。
 なので、軒下で待たせてもらうことにした。

 傘を、持っていないだろうな。
 濡れていないだろうか。
 どこかで雨宿りしているといいけど。
 それで遅くなってるなら、全然かまわないんだけどな。



『雨に佇む』

8/26/2024, 9:15:07 AM

 メカにしか興味がないクソ爺ではあるが、最も古い一味で、自分が駆け出しの頃からよく知ってる、言わば持ちつ持たれつの関係ってわけだ。
 たまにこうして酒を片手にチェスを打つのも、そうできるのは奴しかいないってわけじゃないが、そうするのは奴が最も適当だっていう寸法さ。
 チェスの実力は拮抗してるはずだが、今日はどうも読み違いが多い。
 安ワインに酔ったのか、はたまた、おたからにありつけるかもしれない幸運に酔ったのか。はたまた。
 爺はそういう、細かいところを突っついてくるから気に食わない。
 あたしの正面にこうして座ってくる奴は、今じゃこいつだけだからな。



『向かい合わせ』

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