(執筆中…)
「真紀ちゃんの夢はなぁに?」
そう無邪気に姪っ子に聞かれ、頭がフリーズした。
私の夢ってなに?いつから夢を描かなくなったんだっけ?
「ちぃちゃんはアイドルになるの!」
大好きな水色のドレス風のワンピースの裾をふわっとなびかせ姪の千明は言った。良いね良いね!と返しながら、かつて私も同じようなことを言っていたなぁなんてぼんやり思い出していた。
小学校の頃だったか人気のアイドルグループがいて、親友とダンスの練習をしたり一番好きなメンバーの髪型を真似してみたりしていた。
中学生になってから大々的に新メンバー募集オーディションがあって、親友とどうするなんて話したけど、別世界のことのように話していた。だから、隣のクラスの子が応募したのだと聞いた時私は夢に生きることが出来ないのだと悟ってしまったように思う。
隣のクラスの子は第一次を通過したのかも分からないけど、結局新メンバーは知らない子になったけど、自分よりひとつ学年が下の子がいたこともショックだった。
それからも平凡な学生生活を送って、会社に入ってからもすこしの不満はあれどたまに同僚と愚痴を共有しながら美味しいお酒を飲んだりするような、なんてことない日常をすごしている。
「コンサートしたら真紀ちゃんも呼んであげるね!」
芽吹きはじめていたことに気づかぬふりをしていた。大きく育ってしまう前に、摘んでしまっていたらこんなに振り回されることもなかったのかも知れない。
見たことがない花が咲いていた。どこかから何かによって種が運ばれてきたのだろう。知らず知らずに花を咲かせていたそれはほんの少しだけ周りから浮いて見えて目立っていて、視界に入るといつも誇らしげに存在を訴えかけてきた。
昔から好きなのは明るい太陽みたいな花。元気な爽やかな気持ちにしてくれる存在に憧れた。私の「好き」はそうだったはずなのに。
ずっと自分の好みとはちがうのだと思っていたのに、日に日に存在を大きく感じるようになったことに戸惑いがあった。だから、誰にも好きだとは言わずに自分の心の中だけで大事にして、見かけるたび存在していることに安堵して、癒やされていた。それだけで幸せだった。自分だけのとっておきのものだと思っていた。
ある時友だちに話したとき、彼女もよく知っているのだと分かって勝手に落胆した。確かにそうだ。素晴らしいものは必ず多くの人の目を引くし、愛されるものだ。当たり前の事だ。
好きだと思うものはいつだってほかの誰かも好きで、自分が一方的にひっそり好きでいる間に自分以外の誰かが愛情を注いでより美しく存在感を増していたりする。
大切にする方法も知らずに自分も好きだとどうして言えるだろうか。まめに愛情をそそぐ覚悟もないのに自分のものにしたいとどうして言えるだろう。
「あまり話せなかったけど、元気でね」
卒業式の打ち上げの帰りにそう言われて、ああもうこれで会えなくなるんだと気づいた。分かっていたのに、手を伸ばすことが出来なかった。
好きだと思わずにいられたならもっと楽しく話せたのかな。仲良くなれたかな。それでも気づたことに後悔はない。思いがけない「好き」に自分を見失いそうなっても美しいものに気づけたことは他の誰も、あの人さえも知らなくても、私はずっと忘れない。
自分のものに出来なくても、美しい花が咲くことを知ってしまったらその蕾を摘むことは出来ないだろう。そしてたとえ季節がすぎても目を奪う美しさに出会ったことは私を豊かにしてくれる。
(執筆中…)
現実が自分を殺しにくる前に逃げたらいい、と先生は言った。逃げるっていったいどこへ。
私の現実へのかすかな抵抗は週に一回塾をサボって先生の経営する喫茶店にくること。結局課題を開いているのだけど、周りの穏やかな談笑の音にかえって集中出来る気がしている。
「おかわりいかがですか。」
難しい問題につまづいているところだった。おかわりをお願いして、先生の相変わらずのタイミングの良さを言ったら、所謂職業病の後遺症だと笑って返された。
「親御さんとはどう。話せたか。」
「まだ。」
人を好きになったのはあの時が初めてではなかった。それでも淡い青春の想い出といえば君が思い浮かぶ。
初めて話したのは休み時間。友達と話している時「お菓子いる?」と、君からだった。その時お菓子をもらったのかそれとも戸惑ってもらわなかったのか、なんのお菓子だったのか忘れてしまったけれど、あの笑顔はずっと忘れられない。
朝に「おはよう」、帰りに「さようなら」。友達と呼ぶにはすこし距離があって、君との間にはいつも何人か友達がいた。
初めて二人で話したのは、友達のバンドがライブに出た時。門限があって打ち上げに参加出来ない私を駅まで送ってくれた。かっこよかったね、なんて話しながら駅までの道が少しでも長くなるように願ってた。
ある日、君と仲の良いひとから、君のことをどう思ってるのか聞かれたことがあったよ。どう答えたら正解だったのかな。正解からきっと一番遠い答えを選んでしまう私の天邪鬼な性格をなにより悔やんだのはこの時だった。
決定的な言葉は私も君も言わなかった。それでも只のクラスメイトとも友達ともちがうくすぐったくなる距離感に、たまに目を合わせて笑った時、伝わる気持ちがあったこと。
卒業前にみんなで遠出しようと話していた時、一緒に行くよねと念をおすように誘ってくれたのに、そのあと都合がつかなくなってしまった時に直接言えなくて、そのまま会う機会がなくなってしまったことがずっと心に残っている。
一緒に行ったイルミネーションはあれから随分壮大で人気スポットになったけど、君はまた誰かと行くのかな。いつかもっと大人になってどこかで会う日まで、相変わらずな笑顔でいて欲しいと思う。
分厚い重たそうな雲
冷たく湿った空気
唸るような風
今日は外に出るのはやめよう
温かくしてとっておきの紅茶を準備しよう
山積みにしている本のタイトルを指でなぞる
どんな曲をあわせようか