芽吹きはじめていたことに気づかぬふりをしていた。大きく育ってしまう前に、摘んでしまっていたらこんなに振り回されることもなかったのかも知れない。
見たことがない花が咲いていた。どこかから何かによって種が運ばれてきたのだろう。知らず知らずに花を咲かせていたそれはほんの少しだけ周りから浮いて見えて目立っていて、視界に入るといつも誇らしげに存在を訴えかけてきた。
昔から好きなのは明るい太陽みたいな花。元気な爽やかな気持ちにしてくれる存在に憧れた。私の「好き」はそうだったはずなのに。
ずっと自分の好みとはちがうのだと思っていたのに、日に日に存在を大きく感じるようになったことに戸惑いがあった。だから、誰にも好きだとは言わずに自分の心の中だけで大事にして、見かけるたび存在していることに安堵して、癒やされていた。それだけで幸せだった。自分だけのとっておきのものだと思っていた。
ある時友だちに話したとき、彼女もよく知っているのだと分かって勝手に落胆した。確かにそうだ。素晴らしいものは必ず多くの人の目を引くし、愛されるものだ。当たり前の事だ。
好きだと思うものはいつだってほかの誰かも好きで、自分が一方的にひっそり好きでいる間に自分以外の誰かが愛情を注いでより美しく存在感を増していたりする。
大切にする方法も知らずに自分も好きだとどうして言えるだろうか。まめに愛情をそそぐ覚悟もないのに自分のものにしたいとどうして言えるだろう。
「あまり話せなかったけど、元気でね」
卒業式の打ち上げの帰りにそう言われて、ああもうこれで会えなくなるんだと気づいた。分かっていたのに、手を伸ばすことが出来なかった。
好きだと思わずにいられたならもっと楽しく話せたのかな。仲良くなれたかな。それでも気づたことに後悔はない。思いがけない「好き」に自分を見失いそうなっても美しいものに気づけたことは他の誰も、あの人さえも知らなくても、私はずっと忘れない。
自分のものに出来なくても、美しい花が咲くことを知ってしまったらその蕾を摘むことは出来ないだろう。そしてたとえ季節がすぎても目を奪う美しさに出会ったことは私を豊かにしてくれる。
4/15/2024, 5:24:17 PM