2人の過去のことはほんの少しだけ
有名な噂となって国々に知られている
とある国に訪れたある日
2人をことをやけ優しくもてなしてくれた
警戒と、戸惑いを隠しつつ
その国での日々を過ごしていると
妹がいつも以上に口数少なくぼんやりしていることに
どうしたのかと思う兄
こういう場合
別のことで気分を変えようと
何かしらの事を妹にする兄だが
今回に関しては
そっとしておくのが1番だ
それは妹に限らず兄にも言える
この国の人々の態度
2人にとって
そんなもの優しさでもなんでもない
ただの同情、哀れみのもので
分かってはいても
そうとしか受け止めきれない
いずれは
そういった気持ちの自分と向き合い
受け入れる日が訪れるように
密かに願う
[優しくしないで―2人きりの旅より―]
―――――――――――――――――――――
ひづとひの
双子の男女
姉、ひの
弟、ひづ
2人はいつも夜に
家の隣にある離れの小屋から
夜空を見ながら話をすることが大好きだった
そしてこの2人は
育ての親に知らせていない秘密があった
赤ん坊の頃に
置き去りにされていたという2人
しかしそれは置き去りではなく
別の星から2人は自らやってきたのだった
赤ん坊と言うのは偽りの姿であり
本来は15歳くらいだ
小屋からの夜空は
元の星たちとの交流の時間でもある
あの星にはない
この星は本当に楽しい
離れるのはまだまだ考えていない
もっと大きくなったら
知らないことをもっと知って
あの星に持って帰るんだ
2人の夢は
とても広大である
[二人だけの秘密]
老爺の姿になっている俺は
なんとしてでも
呪いをかけたアイツを見つけて
呪いを解かせる
それがどんなに残酷な手段だと言われようと…
この手をどんなに血に染めようと…
アイツが俺たち家族、俺たちの国に
したことに比べれば
“小さいこと“だろう?
復讐なんて思いは捨てろ
そう何度も言い聞かせてきた
妹と今を生きる。そう胸に刻んだ時から
ただ、
夕日に染まる空や光景
脳裏に蘇る火と血…
赤と黒…
もう1人の俺が
“捨てずにアイツらの思い知らせてやれ
アイツらの死をもって――“
これは間違いか
間違いではないか
いや
正解なんてない
俺が選ぶのは
なにか――――――――――――
“そんなの簡単だろ?“
“生きて苦しませろ“
“なぁ?そうだろう?
“もう1人の俺“
[たとえ間違いだったとしても―2人きりの旅より 「2つの兄」―]
この国には
水と強く縁のある人間が生まれるという
言い伝えがあった
強く縁のあると言われても
具体的なことを、知ることは出来ない
それを知るのは
縁のある人間、本人のみ
そのため、誰がそう言う人間なのかを
容易に見つけることも出来ない
ただし
水と強く縁のある人間同士であれば
すれ違った時、出会った時…
より近くに感じた時にだけ
お互いの耳元で“ポチャン“という
ひとつの雫が水に落ちる音が聞こえる
そして自然とその人間を見つけることができると
水と強く縁のある人間―
一体なんのために生まれるようになったのか―
それを知るのは
幼い頃から少しずつ身につける力と
彼らが成人して
力が覚醒する時
水の声が聞こえ
それは分かるー
[雫―スイ国のミズビト―]
ピンクの花咲く木があると言う噂を
人づてに聞いてやってきた国
今までに見た事のない景色が広がっている
老爺姿の兄とその妹は
景色を見ながら歩いていると
教えてもらった満開に咲いている場所が見えてきて
妹が走り出す
たくさんの木々あるためか
地面がピンクの花弁で
絨毯が広げられているように染っている
妹の感動する声が兄の耳に届くと
兄もその景色に驚きのあまり目を見開いてしまう
あぁ、この景色を絵におさめられたらと
はしゃいでいる妹の声と心地よく吹く風に
撫でられながらひと時の時間を過ごす
こんなに満開で綺麗でも
あっという間に散ってしまうと聞いて
少しばかり哀しい気持ちにもなるが
それがいいのかもしれないとも思うのだった
[桜散る]
今日は妹と一緒に依頼を終えた
魔物と遭遇したこともあり
妹は少し疲れたように見える
早めに報酬受け取って
宿に戻るか
―宿に戻る途中
妹が あ…っ! と声を上げる
街の広間の方へ視線を向けている妹の視線を追えば
そこには何やら芸をしている人達が数人
旅芸人だろうか…
この街の人たちを前に芸を披露している
盛り上がりを見せ始めたのは
街の人たちが楽器を持ってきて
楽しいそうな音色に街が包まれた頃だ
隣の妹が袖を引いて
もっと近くに行こうと笑顔を見せる
―小さい時からこういうのが好きだったな、と
懐かしい気持ちになりながら頷き
賑わっている輪に加わる
父と母に特別にと、こっそり街へと降りて
こうして2人で旅芸人の催しを見に出かけたこともあった
あの時も
こうして俺の隣で楽しそう笑っていた
落ち着いていられてなくなったのか
音楽に合わせて妹の体が動いているのが分かる
すると、その妹の姿を見た旅芸人の一人の女性が妹へ
こっちくるよう声をかけ、手を差し出していた
ぱあぁっと表情を明るくして
弾かれるように走り出し
女性の手を握る
街の人たちも妹に続いて踊り出す
俺はそれを嬉しく、幸せな感情が胸に溢れ
笑みを浮かべてしまっていた
普段笑うことが少ない妹が
もっと笑っていて欲しい
どんなに今が暗い道が目の前にあったとしても
楽しいことには心から楽しいと、笑っていてくれ―
[これからも、ずっと―「2人きりの旅」老爺(兄)視点―]