仕事が終わって
ビルが立ち並んでいた道を抜け
公園の開けた場所に出てくると
俯いて歩いていた道を
照らすオレンジの光に顔を上げる
あ…………
曇ったりした日々が続いていて
こうして見る夕日は久しぶり
そして思い出す
家で待っている愛猫の瞳
あの子の瞳は
黄色に近いけど
夕日の指す窓辺で眠っているあの子が
寝ぼけ眼で起きた時の瞳は
とても好き
―早く会いたい。早く帰ろう
毎日帰りがこうであったらいいな
[沈む夕日]
最近雨が続いて
夜に月や星が見えない日々が続いていた
やっと雨雲はなくなり
晴天になったその日の夜
宿の窓から見上げた夜空一面に
久しぶりに姿を見る星々
少女の顔は月明かりに照らされている
―――母は星のことに詳しかった
夜眠れない時
王宮の図書館から持ってきた星図鑑を広げ
星座のことを教えてもらったことを
いまでも覚えている
あの時見ていた図鑑は
火に焼かれてもう無くなっているだろう…
少しだけ悲しい気持ちになったけど
母が残してくれた知識は確かに
私の中にある
胸に手を置き、深呼吸して
再び星を見つめれば
優しい声音で寄り添い
笑いかけてくれる母が傍にいるようで―…
どんな場所に居ようと
必ず夜の空を見上げる
時が戻らずとも
必ず―……
[星空の下で―「2人きりの旅」妹視点より―]
私がまだ小さい時
自分で決断できなかった頃に
家族を酷く怒らせたことがある
はっきりとしたものを知らなかったりで
家族が挙げたことに対して
「うん、それでいいよ」
と返せば、
“それで“ってなに?
そう
きっと、その時の家族の怒りは
積もり積もったものが溢れてしまったんだって
大人になったこの歳になって気づく
それも
接客業していた時の仕事を通してだったり
知り合いが増えてから
私がしていたことを後悔、反省することができた
家族に
あの時は意見ちゃんと言えなくて
ごめんねって言っても今更って
笑いながら返されちゃうかな…
[それでいい]
ついていい日に限って
毎回つかない
[エイプリルフール]
宿の外が騒がしい
依頼を終えてやっと休めると思い
ベッドに身を沈め
意識を手放そうとした時のことだ
妹はどこでもすぐ眠ってしまう体質のため
もう既に隣から寝息が聞こえている
そして外も騒がしい
脇に置いていた杖を手に取り
ベッドから降りて、窓から外を見ると
5人くらいの男女に向かって
街の住民たちが歓声を送っている様子が目に入る
この街に訪れて何日か経ったとある日に
勇者一行の話を耳にしたような気がする
「……魔族の王倒しに行ったって話だったか?」
独り言を呟く兄は
城のある方へと顔を向ける
この歓声から察するに
無事に倒すことが出来たってことだろう
大体は後日ここの王から
この一行に報酬が与えられるはずだ
自分たちには関係ないがと
ため息をついて再びベッドへと
身を沈めたのだった
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次の日の朝
しっかり眠ったおかげで
兄妹はスッキリした目覚めで宿を後にする
もう少し手持ちを増やすために
新たな依頼を受けに行こうとしていたところで
広間の方から昨日宿から見た
勇者一行の姿があることに気付く
「王女が勇者と婚約するんだって!早く行ってみよ!!」
隣をかけていく子供たちの後ろ姿を見ては
妹が兄顔を向ける
「―すごいね、勇者って。けど、旅してるのに婚約とかあるの?」
「長い間ここに居て…傍に居ることが多かったのなら、そういう関係になっていてもおかしくは無いのかもな」
「ふーん」
広間の方は
2人の瞳にはとても明るい場所に見えていた
何度かこう言った“ハッピーエンド“の場面は
目にしたことがある
だが、何度経験しても
2人は他人事と遠くから眺めているだけなのだ
実際に手を貸したこともあった
それもまた
2人には小さい事でしかない主役は彼らだ
気付かれない内に姿を消し
“ハッピーエンド“は
光の下を歩けない2人には――――
まだ訪れることはない
[ハッピーエンド―「2人きりの旅」より―]