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5/10/2026, 1:36:57 PM

春の終わり、花壇の土はまだ少し冷たかった。

四年二組の

モンシロチョウ

みたいに落ち着きのない風に、白い花びらが揺れていた。

「なんで私がやらなきゃいけないの……」

佐倉ひなのは、じょうろを両手で持ちながら小さくため息をついた。
担任の先生に「しばらく花壇係お願いね」と言われたのは、ほんの三日前。
本当は放課後なんて、友達と帰って、アイスでも食べていたかった。

なのに毎日、校庭の端っこの花壇。

夕陽。
湿った土の匂い。
濡れたスニーカー。

「お姉ちゃん、そこ、かわくよ」

突然、後ろから声がした。

振り返ると、小さな男の子が立っていた。
まだ制服もぶかぶかで、名札には「朝倉 湊」と書いてある。

一年生だった。

「……別に、お姉ちゃんじゃないし」

「でも四年生でしょ?」

湊は笑った。
その笑顔は、白い蝶みたいにふわっと軽かった。

次の日も、彼は来た。

「お水、ぼく持つ」

「重いよ?」

「へーき」

全然へーきじゃなかった。
じょうろを抱えたままふらついて、危うく転びそうになっている。

「ちょ、貸して!」

ひなが慌てて支えると、湊は嬉しそうに笑った。

「ありがとう」

ありがとうを言いたいのは、こっちなのに。

それから毎日、二人は花壇にいた。

最初はただの暇つぶしだった。
でも、気づけばひなは放課後を待つようになっていた。

湊は、なんでも楽しそうに話した。

校庭で見つけた四つ葉のクローバー。
給食のプリン。
空の雲がクジラに見えたこと。

小さいくせに、変に大人びた顔をするときもあった。

「ひなちゃんは、海すき?」

「え?」

「ぼく、海行ってみたい」

その願いは、夏休みに叶った。

ひなの母が車を出してくれて、四人で小さな海へ行った。
湊は波を怖がりながら、それでも笑っていた。

「しょっぱい!」

「海なんだから当たり前でしょ!」

二人でびしょ濡れになって笑った。

秋にはゲームセンター。
冬には映画館。
水族館では、クラゲを見ながら湊が言った。

「死んだら、こんなふうに漂うのかな」

「なにそれ、気持ち悪い」

ひなはそう言って笑ったけれど、胸の奥がざわついた。

湊は、病気だった。

重い心臓の病気。

それを知ったのは、クリスマスの少し前だった。

病院の白い廊下で、ひなは偶然聞いてしまった。

「次の冬を越せるかは……」

大人たちの声は小さかったのに、世界が壊れる音みたいに響いた。

どうして。

どうして、この子なの。

ひなは病室に入れなかった。
泣きそうになる顔を見られたくなくて、廊下の椅子に座り込んだ。

しばらくして、扉が開いた。

「ひなちゃん」

湊だった。

点滴をつけたまま、それでも笑っていた。

「……来てたんだ」

「うん」

「ねえ」

彼は窓の外を見た。

冬空を、一匹の

モンシロチョウ

が飛んでいた。
季節外れの、弱々しい蝶。

「ぼくね、一年だけでよかった」

「なにが」

「ひなちゃんと遊べたから」

その瞬間、ひなの中で何かが壊れた。

「よくない!」

思わず叫んでいた。

「一年じゃ足りないよ……! 全然足りない……!」

涙が止まらなかった。

湊は少し困った顔をして、それから静かに笑った。

「でも、ぼく、すごく楽しかった」

春になる前、湊は亡くなった。

二年生の教科書は、一度も開かれなかった。

葬儀の日。
ひなは泣かなかった。

泣いたら、本当に終わる気がしたから。

数日後、学校の花壇へ行った。

去年植えたパンジーが咲いていた。
じょうろを持つ手は、少しだけ大人になっていた。

水を撒いていると、白い蝶が一匹、花の上に止まった。

ひなは小さく笑った。

「……また手伝いに来たの?」

蝶は答えない。

ただ春の風に揺れて、空へ飛び立っていった。

5/9/2026, 10:38:11 AM

放課後の踏切は、いつも同じ音を鳴らしていた。

カン、カン、カン――と、ゆっくり世界を閉じ込めるような音。

制服姿のまま、自転車を押して立ち止まるたび、遥は思い出す。

「また明日」

あの人が最後に笑った日のことを。



高校二年の春、遥は同じクラスの朝比奈 恒一と出会った。

窓際の席で、いつも眠たそうに空を見ている人だった。

話しかけても反応は薄いし、体育は見学ばかり。給食も半分くらい残していた。

けれど、夕暮れの帰り道だけは不思議とよく笑った。

「遥って、なんでそんな毎日急いでるの」

「だって青春って短いじゃん」

「……そっか」

その言い方が妙に大人びていて、遥は少し悔しくなる。

同い年なのに、彼だけ遠くにいる気がした。



夏祭りの日、遥は浴衣の袖を掴まれた。

「来年も、一緒に行けるかな」

人混みの中で、恒一は珍しく弱い声を出した。

「当たり前じゃん」

遥が笑うと、彼も安心したみたいに笑った。

けれどその横顔は、花火の光に照らされるたび、少しずつ透けて見えた。



二学期に入ってから、恒一は学校を休みがちになった。

『今日は病院』

『また今度な』

短いメッセージばかり届く。

遥は何度も電話をかけた。

でも彼はいつも明るかった。

「大げさなんだよ、周りが」

「ほんとに?」

「うん。すぐ戻る」

だから遥は信じた。

信じたかった。



冬が来る頃には、恒一は制服を着なくなっていた。

病院の白い寝巻きばかり似合うようになった。

それでも彼は笑っていた。

「遥、高校卒業したら何したい?」

「えー、まだ決めてない」

「そっか」

「恒一は?」

少し沈黙してから、彼は窓の外を見た。

「俺は、先に大人になるよ」

意味が分からなくて、遥は笑った。

「何それ」

「そのままの意味」

彼は笑ったままだった。

泣きそうなくらい優しい顔で。



春になる前に、恒一はいなくなった。

遥には何も知らされなかった。

両親も、教師も、誰も。

「遠くへ治療に行った」

ただそれだけを聞かされた。

スマホは繋がらなくなり、アパートも空になっていた。

置いていかれたみたいで、遥は腹が立った。

「また明日って言ったくせに」

怒りながら、何度も帰り道を歩いた。

踏切の音だけが、あの日と同じだった。



それから六年が過ぎた。

社会人になった遥は、仕事帰りに昔の通学路を歩くことがあった。

古い駄菓子屋はなくなり、線路沿いの桜も少し減っていた。

けれど、あのベンチだけは残っていた。

そこに、一人の老婦人が座っていた。

「あの……遥ちゃん?」

優しい声だった。

どこか、懐かしい声。

「……朝比奈くんのおばあちゃん?」

老婦人はゆっくり頷いた。

「大きくなったねぇ」

その言葉に、遥は少し笑ってしまう。

自分だってもう大人なのに。



近くの喫茶店で、温くなったコーヒーを前にして。

老婦人は静かに話した。

恒一がずっと病気だったこと。

高校時代には、もう長くなかったこと。

遥にだけは最後まで知られたくなかったこと。

「かわいそうな顔をされたくないって、あの子、最後まで言ってた」

遥は何も言えなかった。

音だけが遠くなる。

世界が、水の底みたいにぼやけていく。

「亡くなる前の日ね、“遥は笑ってるかな”って聞いてたよ」

その瞬間、遥の中で止まっていた時間が、ようやく壊れた。



帰り道、踏切が鳴っていた。

高校生たちが笑いながら通り過ぎる。

制服の裾が春風に揺れていた。

遥は立ち止まり、目を閉じる。

――俺は、先に大人になるよ。

あの言葉の意味を、今になって知った。

知らないままでいたかったのに。

カン、カン、カン――

踏切の向こうに、制服姿の恒一が立っている気がした。

「また明日」

あの日と同じ声が、耳の奥で笑う。

遥は泣きながら、小さく頷く。

「うん。また明日」

もう二度と会えなくても。

忘れられないね、いつまでも。

5/8/2026, 2:34:09 PM

――あれは、ちょうど一年前のことだった。

春の終わりを告げる風が、制服の袖をやさしく揺らしていた。
放課後の教室には、オレンジ色の夕陽が差し込んでいて、世界が少しだけ特別に見えた。

「まだ帰らないの?」

後ろから聞こえた声に振り向くと、そこには君がいた。
窓辺にもたれながら、困ったみたいに笑うその顔を見た瞬間、胸が小さく跳ねる。

“まただ”
そう思った。

君と話すたび、心臓がうるさくなる。
名前を呼ばれるだけで、どうしてこんなに嬉しくなるんだろう。

「……別に。ただ、ちょっとぼーっとしてただけ」

強がって答えた私に、君は「ふーん?」なんて言いながら近づいてくる。
その距離に耐えきれなくて、思わず目を逸らした。

「一年前の今日、覚えてる?」

突然の言葉に、息が止まる。

もちろん覚えてる。
雨の中、傘も差さずに立っていた私に、君が「風邪ひくよ」って笑いながら傘を差し出してくれた日。
あの日から、私の世界は少しずつ変わっていった。

「忘れるわけないじゃん」

そう答えると、君はどこか安心したように笑った。

「よかった。俺だけ覚えてるのかと思った」

夕陽が沈みかける教室。
静かな空気の中、君がそっと私の名前を呼ぶ。

その声が、ずるいくらい優しくて――

「一年前から、ずっと好きだった」

世界が止まった気がした。
でも、本当は止まったんじゃない。

きっとこの瞬間から、
私たちの時間が動き始めたんだ。

5/7/2026, 12:36:44 PM

「初恋の日」

その日はいつもとは違う

貴方を見た時、

チャイムがなる音も
先生のデカイ声も
皆がわちゃわちゃ騒ぐ声も

耳に通らない…聞こえない。

時間が止まる、私は彼の所に向かう

人混みを避けて群がらず単独行動で彼の目の前に行く

その時、彼が私を見る

その目が愛おしくて、愛おしくて堪んない

彼の瞳に私が映る
それだけで胸が弾む

彼に「どうしたの?」と声を掛けられるが
私は言葉が出ない

「(この思いはなんだ、言葉に出来ないいや、この気持ち、習った事が無い心臓がやけに激しく弾む、体が熱い、彼か今…目が入らない何だこの気持ち)」

その日の夜

私はお姉ちゃんの部屋に入って相談した

「…今日、男の子に声をかけられたんだけどね」

「うん」

「返事出来なかった、」

「え?どうして〜?」

「胸がギュッと苦しくてでも、でも痛くないの」

「……」

「お姉ちゃん、これってなんて言うのこの気持ちは、」

「…その気持ちはね、誰もが経験するんだけど答えは無いの」

「……え!?な、なんで!?」

「んー?…だってね、その気持ちに言葉なんて必要無いの」

「…そ、それじゃあ分かんないよ……。」

「…んー……分かりやすく言うとその気持ちはね」


“恋だよ“

私は姉のその一言を言い返せなかった

“これが…恋…“

それ以上言う言葉なんて無かった
その日から君と私の新たな“縁“が結ばれた始めた

5/6/2026, 11:02:15 AM

「明日世界が変わるなら……」

明日、世界が変わってしまう、それなら
いつも気を使ってたけどもういいよね
その時間が来るまで来る前に


私は君と最後の世界のタイムミットの時間を共に過ごすそう


私は今まで出来なかった“お誘い“をした
出来なかった事、やりたい事に付き合ってよ
私のヒーロー

君と行きたかった学校

君と行きたかった映画館

君と行きたかったゲーセン

君と行きたかった水族館

君と行きたかった動物園

君と行きたかった遊園地

君と行きたかったデートスポット

ヒーローは全部付き合ってくれた。

まるでシンデレラの魔法が解ける12時になるまで全てやり尽くす、執着してる気分…怖い女だな私

え?なんで嫌な気分しながら、してるの何故かって?
…あの人が私のヒーローだからだよ

この世界で世界一、大好きな君と忘れられなぐらい
死んでも忘れられないぐらいの

最後の世界なら皆どーでもいいよね
だから、刻みたいんだこの世界に、君を愛した証拠を

最後にするって
勇気の無いやり方だよね

けど、忘れられない程、楽しい時間にしてあげるよ

そして、時計が11時59分をさす

「…もう時間だねシンデレラ」

君の為にボケる

「俺がシンデレラ訳あるかお前だろ」

「あぁ、そうだった私がシンデレラだ(?)」

「……本家の物語がおかしくなるw」

もうこれで最後なのに
君が笑ってくれると胸が弾む

「ハハw…ところで」

「なんだ?」

複雑な思いを胸に私は口を開く

「ヒーローはなんで私の“欲望“に付き合ってくれたの?」

「…何と無く、深い意味は無いな」

と彼はいつも通りに言う
君の大好きな世界が終わるのに
君は何も変わらない

「……本当に…意識してないなぁ……」

「…なんだ?泣いてるのか?」

こういう時だけ優しくしてくれる貴方
時計の針が動き出すと同時に


最後ならこれぐらい良いよね


私は今まで抑えていた行動を示す
彼の両頬を添えて軽く口付けをする

…最後なのに君は……平然とするんだね
そういう所…ずっと“好きだよ“

私は汗をかきながら布団からバッと起き上がり目を覚ます
もう…君と会えない朝の学校、

見る世界は変わってしまったけど

君がこの変わってしまった世界の空を見て呟く

「ねぇヒーロー…この世界……君は愛せてるかな?」

もし、今も君が…変わってしまった世界が好きなのなら…
変わってしまった世界がどんなに残酷でも

“私もこの世界を愛そう“

シンデレラは魔法が解けても、やった事実は消えない
私が君にした事は罪深い消えない

その行為に後悔は無い悔いも何も無い、ありがとう、ヒーロー…。


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