シオン

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1/6/2026, 9:20:48 AM

 冬のイメージはどう考えても雪なのに、今日の空は雲一つない晴天だった。いわゆる冬晴れってやつ。
 日本の四季ってやつはどうも上手くいかない。青い空と白い入道雲をイメージされている夏は雨降りまくりだし、紅葉に映える青空を連想される秋は台風ばっかだし、雪が降る唯一の季節である冬は晴天だらけ。もちろん豪雪地帯的なのは降っているんだろうけど、こっちは冬の間に一回でも雪が降れば大騒ぎになるんだぞ……。
『現実逃避は済んだかい、カオル』
 あたしの思考の隙間にマスコットが潜り込んできてそんな言葉を吐いた。
「まだ」
『そうかい。まぁ済んでなくてもそろそろ戻ってこないと非常にマズイんじゃないかい?』
「分かってる!!」
 あたしは悠長に言ってくるマスコットに対してつい声を荒らげてしまった。その瞬間怪物の咆哮が耳に入ってくる。
「ヒッ、バレた……」
『全く、キミが大きい声を出すからだよ』
「あたしのせいじゃないでしょ、今のは!」
 バクバクと心臓が大きな音を立てる。今日の怪物は等身約二十メートルほど。とんでもなくデカくて、あたしの銃じゃ一発や二発当てても全く動揺なんかしてなかった。それに慌てたあたしが攻撃の手を辞めた途端に怪物がガンと床を叩いて、叩かれた箇所は一メートルほどえぐれてしまった。だからすっかり戦意喪失、あたしは逃亡を図って物陰に隠れていた、のに。
 今、少し離れたところからズルズルと引きずられてる音がするのは多分全部敵の音。あたしを仕留める為に近づいてきている音で。
「どうしたらいいの! 急所とかどこなの!」
『急所? 人間とかその他動物と同じ場所、心臓だよ』
「でも胸を狙っても全然なんでもなかったじゃん!」
 いつもいつもあたしは胸を狙ってる。なぜならそこを撃てば大抵の敵は死ぬから。でも、今日の敵は二発弾を撃ち込んで、確かに穴は空いたのに痛くもかゆくも無さそうだったのだ。
『だから心臓が胸にあるなんて誰も言っていない。固定概念ってやつを捨てた方がいいんじゃないか?』
「そんなこと言われても」
 その瞬間に視界に影が入った。誰かが何も言わなくても怪物が目の前まで迫ってる、ということなんて分かった。
 急所は分かってない。それでもどうにか倒さなきゃいけない。あたしは自身を奮い立たせて銃を構えようとしたところで誤って引き金を引いてしまった。
「あ」
 弾に残量なんてものはない。無限に出てくるそれが一つくらい誤発射されてもなんてことはないのに、なんとなく『しまった』という心持ちでそんな声が出た。
 誤発射の弾は敵の右足首に当たった。これで敵が体勢を崩したらいいな、なんて思考が回った直後、怪物は地面に倒れて消失した。辺りも結界内特有のもやもやとした紫の空気を纏った神社から住宅街へと戻った。
「え…………」
『なるほど、足首なら謝発射じゃない限り攻撃されない。効率のいい身体だね』
 呆気に取られてるあたしの横でマスコットはそう呟いた。

第五話 冬晴れ

1/4/2026, 3:54:43 PM

 夜も更けてきた二十二時、あたしは手を止めて口を開いた。
「ねぇ、マスコット」
『なんだい?』
 マスコットはあたしの突然の呼びかけに全く驚きもせずにそう返してきた。今まで何をしていたかは全く見てないけど、視界に映らないところにいたのだから、きっと何かはしてたであろうに、マスコットはあたしの前までふよふよと飛んできた。
「幸せってなんだと思う?」
『……あのね、カオル。キミがーー』
「待って! 先にあたしの意見を聞いて」
 そう言うとマスコットはとても嫌そうな顔をした。あたしから聞いといて意見は言わせないなんて酷く身勝手に見えたのかもしれない。でも、これは大事な話だから。
「魔法少女って力を持ってるでしょ。で、敵のことを倒す。つまりそれって正義の味方で、ヒーローってことでしょ」
『……ヒーローとは厳密に違う。キミの攻撃はヒーローの敵には入らないよ』
「…………いるの!?」
 あたしが前のめりになって尋ねれば、マスコットは頷いた。
『いるさ。しかも魔法少女の敵自体はキミ自身を危険にさらしていくだけだけれど、ヒーローの敵はむしろ一般市民を襲撃していく。キミももちろんそれの標的だ』
 じゃああんまりにも不利なんじゃない? という考えが頭の中に浮かんだ。あたしだけが二つの危険にさらされてる。一方はめちゃくちゃ強い上にあたしが倒さなきゃみんながピンチだし、もう一方はあたしの攻撃なんて通らない。じゃあ、不利ーーーーいや。
「ヒーローの敵の攻撃はあたしには通らないの、もしかして」
『いや?』
 あたしが閃いた考えは、何を言っているんだろうと言いたげな顔と共に首を振ったマスコットによって砕かれてしまった。
『というかなんでそんな考えになったんだい?』
「だってそうじゃなきゃ平等じゃないじゃん。あたしの攻撃は通らないのにあたしは攻撃に当たるなんて!」
 そんな不平等なことはない。今SNSに挙げられたら間違いなく炎上しちゃうだろう。
 ところがマスコットは首を振ってから言った。
『違うよ。キミが冬休みの宿題を突然放棄して幸せについて語り始めた理由さ』
「あ!!」
 言われてしまった。さっき言われそうだったのを無理やり止めたのに。
『さぁ、指摘されたら負けだよカオル。さっさと宿題に戻って』
 呆れたような顔をしながらマスコットはあたしの視界から消えた。
「…………じゃあ別の話にしようよ。何でハンバーグは美味しいのか、とかさ」
 あたしがそう言ってもマスコットは何も言わなかった。これは本当に話してくれないタイプだ。
 ため息をひとつつきながらあたしも宿題に戻ることにした。

第四話 幸せとは

1/3/2026, 4:44:27 PM

『カオル、カオル!!』
「え、何!?」
 そんな声で目が覚めた。あまりにも慌てた様子だったから急いで起き上がったけど、声を掛けたのはお母さんでもお父さんでもなくて、マスコットだった。
『起きたね、カオル』
「…………アラーム何回スヌーズにしてた?」
『いいや、まだアラームには三十分ほど早いね』
「………………早い?」
 言っていたことが信じられなくて問い返したけど、マスコットは深く頷いて言った。
『うん、早いね。今は六時。キミのアラームは確か半だったはずだろう?』
「そう、だけど………………」
 段々と頭が整理されてきた。じゃあつまり、あたしはアラーム前にコイツに起こされたって言いたいのか。最悪だ。何がしたくてそんな真似を。
 早く起きたあたしがバカだった。もういい。三十分でも寝た方が有用だ。朝早く起きるのは大切なことだけど、いつもより早いのは良くない。生活リズムってやつが崩れちゃう。
 いそいそと布団に潜り込む。冬休みに早く起きてるってだけでも偉いのに無理やり叩き起さないで欲しい。
『カオル、起きて欲しいな』
「なんで、何のために」
『いまさっき化け物が近くにいるのを検知した。つまりこっちに来るのも時間の問題だ。その時にキミが寝てたらキミが死ぬのは確定事項になるよ』
「…………眠いんだけど」
『……構わないよ。それが永遠の眠りでよければ』
 マスコットはしれっとそう言った。本当になんでコイツは正義の味方みたいな顔してるんだろう。どう考えても敵じゃない?
 眠い目をこすりながら起き上がる。着替えるのが至極面倒だからとパジャマのままで中指に付いているリングにキスを落とせば、そのまま変身できた。
『やる気になってくれて嬉しいよ』
「死にたくないからね」
『じゃあ戦おう。日の出、見れるといいね』
「…………何時なの」
『今日は七時近くだよ』
 なんともなんとも絶妙な時間。一時間でカタをつけなきゃいけないのは大変そうなような、そうでも無いような。
 眠過ぎて眠過ぎて死にそうなあたしのやる気はほぼ地についてると言ってもきっと過言じゃなかった。

第三話 日の出

1/2/2026, 4:06:55 PM

『そういえば新年だけど抱負とかは決めたのかい?』
 あたしの方に飛び込んでくる怪物に固有武器である銃を向けて今まさに撃つぞと意気込んだところでそんな声を掛けられた。
 ここで動揺したらあたしが死んじゃう。だから答えを出さずに引き金を引いた。
 銃の反動を受けてあたしは少し後ろに重心が傾いた。それをどうにか耐え抜いてみせれば、弾が当たったのか飛び込んできていた怪物はあたしに当たることなく消え去って、そうして辺りは紫色のおどろおどろしい空間から路地裏へと姿を変えた。
「……ふぅ」
 軽く息をついて、胸元に付いているリボンをほどけば身体は光に包まれて、魔法少女の姿からいつものあたしの姿に戻った。
 今日も無事に倒せた。怪我はしちゃったけど結界内で受けた傷は致命傷じゃない限り全部治る、らしい。らしいってのは致命傷を受けたことがないから『限り』の部分が分からないだけ。傷自体は毎回治ってるからそこは安心できる……はず。
 それにしてもなんで固有武器が銃なんだろう。前にマスコットは個人個人の最も秀でた能力が魔法少女としての能力になるって言ってたけど。その理論からいくとあたしの最も秀でた能力が射撃能力とかになっちゃう。それはさ、結構嫌じゃない?
『ねぇ、カオル。話、聞いてたかい?』
 もっともっと出来れば可愛い戦い方したかったな。それこそ本当に魔法が使えるようになる、とか。銃を生み出すとかじゃなくて、リボンで敵を縛り付けたり、風とか生み出して攻撃したり。
 それじゃなかったらせめて可愛い銃が出せたら良かったのに。あたしが出せる銃ってぜーんぶ真っ黒。多分リアリティに溢れてるっていうか。魔法って感じ全然しない。
『カオル』
 話を無視してたらとうとうマスコットはあたしの顔面にへばりついてきた。
「……離れて」
『話を無視するからだろう?』
「戦闘中に関係ない話をして集中出来なくさせようとしてきた可能性があるマスコットの話を聞く必要はあるの?」
『あのね、ボクとキミは仲良くなっておかないと』
 当然でしょ、と言いたげな顔でマスコットはそう言った。理屈は全く分かんないけどそうだと言われればそうかもしれない。
「えっと、なんだっけ?」
『抱負だよ、抱負』
 ほーふ。一年の目標的なやつだっけ。
「でも、あれじゃない? 『死なないようにする』じゃない?」
『それは魔法少女が持つ抱負だろう? キミ自身の抱負を聞いてるんだよ』
 なかなかめんどくさいことを平気でマスコットは言ってきた。あたしは魔法少女なんだから、魔法少女が持つ抱負を言ったっていいじゃないか。
 とはいえ、それを主張したってマスコットは聞いてくれそうもないから。
「じゃあ、あれ。中学三年生になってからの定期テストで全部八割取る。もう二年生のうちは無理だから、来年度は頑張るぞ、みたいな。なかなか14歳としてマシな答えじゃない?」
『……………………それは、来年度の目標ってことかい?』
「は? そう言ったじゃん。なんで変な確認してくるの?」
『……いや、いいんだ。なかなか学生身分としていい抱負なんじゃないかい?』
「うわ、偉そー」
 一瞬だけほーふを言った時にマスコットは変な顔をした。悲しそうな苦しそうな顔。でもあたしには全く分からなかったし、なんとなくそれを追求する気にもなれなかった。
『さぁ、帰ろうか。そろそろ宿題に手を付けないとマズイ期間だろう?』
「うわ、嫌なこと思い出させて来た〜」
 まだ昼を少し過ぎたくらいだから今日が終わるまでまだまだある。少しゲームをしたりしてからやってもきっとバチは当たらないだろうなんて、あたしはそう思った。

第二話 今年の抱負

1/1/2026, 4:30:36 PM

『魔法少女に新年休みなんてものはね、ないんだよ』
 近くにいたマスコットがそう言った。もちろん頭にはボールチェーンも紐も付いていない。
「……休みたい。せめてお正月くらいは」
『別に休んでも構わないよ。でもね、出現する敵は……』
「あーはいはい、分かった分かった。狙うのはみんなじゃなくてあたしなんでしょ」
 いつもいつも言われるその文言にはとっくに聞き飽きているんだ。そう再三再四言ってくれなくてもいいじゃないか……。
『うんうん、分かってくれて何よりだよ、カオル』
 あたしの心情はすっかり無視した様子でマスコットは頷いた。
 化け物に襲われそうだった時に契約をもちかけていたコイツの言われるがままに魔法少女になってからもうすぐ一ヶ月が経とうとしてるけど、未だにあたしはコイツにも、そして戦いにも慣れそうにはない。
「でもでも、パトロールなんてしなくてよくない? 敵はぼーっとしててもあっちから来るんだから」
『それは正義の味方の自覚が足りないよ。どうするんだい? もし神社でお参りしてる時に襲われたら』
「敵と遭遇したらなんかRPGのゲームみたいに自動で結界みたいなのに入るんだからいいんじゃない? みんなに迷惑だってかからないし」
 どういうシステムかだって把握はできないけど、とにかく戦ってるとこは誰からも認知されない。で、みんなを襲う訳でもないからさっきマスコットが言った『正義の味方』の自覚なんて湧きっこない。全く、ないものに対して足りないなんて言わないで欲しい限りだ。
 ところがマスコットは、あたしの答えに一つため息をついた。
『キミは本当に魔法少女の戦いについて何にも知らないね。結界内の出来事は確かに外の世界に影響を及ぼすことは基本的に無い。例外として結界内でキミが死んだら結界が壊れると同時に次なる魔法少女を探して辺りを攻撃するモンスターとなる場合があるけどね』
「分かってるって。あんま同じこと言わないでくれないかな」
『いーや、分かってないね。結界はキミがモンスターと何らかの方法で接触した瞬間にキミが触れてるものを巻き込んで制作される。つまりね、キミがうっかりモンスターと接触ーー視線が合うなんて行為をした時にキミが人に触れてたらその人も結界内に入れる羽目になるんだよ?』
 マジで知らない新事実。でも、どうしたってパトロールなんてこんなクソ寒い中したくないから苦し紛れに言い訳をしてみる。
「……そんなこと無かったじゃん」
『そもそもそんなパターンがなかったからだよ。キミがアイスを食べてた時に接触した際はアイスも一緒に結界内に巻き込まれてだろう? バッグを背負ってた時はバッグも巻き込まれてた。それだけパターンがあればキミだって分かると思ったんだけど』
「経験則が無ければそれが普通か普通じゃないのかだって分かんないけど」
『じゃあこれで分かっただろう?』
「屁理屈だ」
 そうボヤいてもマスコットはいつもの顔で笑うだけだった。いつだってコイツは後出しジャンケン。先に説明なんて一ミリだってしてくれない。こんなに身をこにして戦ってる魔法少女に労いの一つも掛けてくれない。
『とりあえずパトロールをして敵を倒せばいいんだよ。そしたらキミだってこの新年を満喫することが出来る』
「新年はゴロゴロしたいのに〜。せっかく2026年になったんだよ?」
『勝手に決めた暦で勝手に一年を区切ってるだけで暦がなかったらどこからどこまで一年かだって分からなくなる。そんなに大事にするものかい?』
「うわ出た、人外ムーブ」
『事実だからね』
 マスコットはそう笑った。相変わらず優しくない。そんなんだから魔法少女の契約だって土壇場に無理やりじゃないと契約できないんだ。
 新年を迎えた街はキラキラと輝いているように見える。家が立ち並ぶここら辺は門松なんかが置いてあって新年ムード満載だ。
 あたしも早く初詣に行きたいし、と少しだけ気合いを入れて街を歩くことにした。

第一話『新年』

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あけましておめでとうございます。
今年は魔法少女カオルちゃんの話を書いていくことにしました。
今度はちゃんと毎日書きたい……!

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