シオン

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 夜も更けてきた二十二時、あたしは手を止めて口を開いた。
「ねぇ、マスコット」
『なんだい?』
 マスコットはあたしの突然の呼びかけに全く驚きもせずにそう返してきた。今まで何をしていたかは全く見てないけど、視界に映らないところにいたのだから、きっと何かはしてたであろうに、マスコットはあたしの前までふよふよと飛んできた。
「幸せってなんだと思う?」
『……あのね、カオル。キミがーー』
「待って! 先にあたしの意見を聞いて」
 そう言うとマスコットはとても嫌そうな顔をした。あたしから聞いといて意見は言わせないなんて酷く身勝手に見えたのかもしれない。でも、これは大事な話だから。
「魔法少女って力を持ってるでしょ。で、敵のことを倒す。つまりそれって正義の味方で、ヒーローってことでしょ」
『……ヒーローとは厳密に違う。キミの攻撃はヒーローの敵には入らないよ』
「…………いるの!?」
 あたしが前のめりになって尋ねれば、マスコットは頷いた。
『いるさ。しかも魔法少女の敵自体はキミ自身を危険にさらしていくだけだけれど、ヒーローの敵はむしろ一般市民を襲撃していく。キミももちろんそれの標的だ』
 じゃああんまりにも不利なんじゃない? という考えが頭の中に浮かんだ。あたしだけが二つの危険にさらされてる。一方はめちゃくちゃ強い上にあたしが倒さなきゃみんながピンチだし、もう一方はあたしの攻撃なんて通らない。じゃあ、不利ーーーーいや。
「ヒーローの敵の攻撃はあたしには通らないの、もしかして」
『いや?』
 あたしが閃いた考えは、何を言っているんだろうと言いたげな顔と共に首を振ったマスコットによって砕かれてしまった。
『というかなんでそんな考えになったんだい?』
「だってそうじゃなきゃ平等じゃないじゃん。あたしの攻撃は通らないのにあたしは攻撃に当たるなんて!」
 そんな不平等なことはない。今SNSに挙げられたら間違いなく炎上しちゃうだろう。
 ところがマスコットは首を振ってから言った。
『違うよ。キミが冬休みの宿題を突然放棄して幸せについて語り始めた理由さ』
「あ!!」
 言われてしまった。さっき言われそうだったのを無理やり止めたのに。
『さぁ、指摘されたら負けだよカオル。さっさと宿題に戻って』
 呆れたような顔をしながらマスコットはあたしの視界から消えた。
「…………じゃあ別の話にしようよ。何でハンバーグは美味しいのか、とかさ」
 あたしがそう言ってもマスコットは何も言わなかった。これは本当に話してくれないタイプだ。
 ため息をひとつつきながらあたしも宿題に戻ることにした。

第四話 幸せとは

1/4/2026, 3:54:43 PM