『魔法少女に新年休みなんてものはね、ないんだよ』
近くにいたマスコットがそう言った。もちろん頭にはボールチェーンも紐も付いていない。
「……休みたい。せめてお正月くらいは」
『別に休んでも構わないよ。でもね、出現する敵は……』
「あーはいはい、分かった分かった。狙うのはみんなじゃなくてあたしなんでしょ」
いつもいつも言われるその文言にはとっくに聞き飽きているんだ。そう再三再四言ってくれなくてもいいじゃないか……。
『うんうん、分かってくれて何よりだよ、カオル』
あたしの心情はすっかり無視した様子でマスコットは頷いた。
化け物に襲われそうだった時に契約をもちかけていたコイツの言われるがままに魔法少女になってからもうすぐ一ヶ月が経とうとしてるけど、未だにあたしはコイツにも、そして戦いにも慣れそうにはない。
「でもでも、パトロールなんてしなくてよくない? 敵はぼーっとしててもあっちから来るんだから」
『それは正義の味方の自覚が足りないよ。どうするんだい? もし神社でお参りしてる時に襲われたら』
「敵と遭遇したらなんかRPGのゲームみたいに自動で結界みたいなのに入るんだからいいんじゃない? みんなに迷惑だってかからないし」
どういうシステムかだって把握はできないけど、とにかく戦ってるとこは誰からも認知されない。で、みんなを襲う訳でもないからさっきマスコットが言った『正義の味方』の自覚なんて湧きっこない。全く、ないものに対して足りないなんて言わないで欲しい限りだ。
ところがマスコットは、あたしの答えに一つため息をついた。
『キミは本当に魔法少女の戦いについて何にも知らないね。結界内の出来事は確かに外の世界に影響を及ぼすことは基本的に無い。例外として結界内でキミが死んだら結界が壊れると同時に次なる魔法少女を探して辺りを攻撃するモンスターとなる場合があるけどね』
「分かってるって。あんま同じこと言わないでくれないかな」
『いーや、分かってないね。結界はキミがモンスターと何らかの方法で接触した瞬間にキミが触れてるものを巻き込んで制作される。つまりね、キミがうっかりモンスターと接触ーー視線が合うなんて行為をした時にキミが人に触れてたらその人も結界内に入れる羽目になるんだよ?』
マジで知らない新事実。でも、どうしたってパトロールなんてこんなクソ寒い中したくないから苦し紛れに言い訳をしてみる。
「……そんなこと無かったじゃん」
『そもそもそんなパターンがなかったからだよ。キミがアイスを食べてた時に接触した際はアイスも一緒に結界内に巻き込まれてだろう? バッグを背負ってた時はバッグも巻き込まれてた。それだけパターンがあればキミだって分かると思ったんだけど』
「経験則が無ければそれが普通か普通じゃないのかだって分かんないけど」
『じゃあこれで分かっただろう?』
「屁理屈だ」
そうボヤいてもマスコットはいつもの顔で笑うだけだった。いつだってコイツは後出しジャンケン。先に説明なんて一ミリだってしてくれない。こんなに身をこにして戦ってる魔法少女に労いの一つも掛けてくれない。
『とりあえずパトロールをして敵を倒せばいいんだよ。そしたらキミだってこの新年を満喫することが出来る』
「新年はゴロゴロしたいのに〜。せっかく2026年になったんだよ?」
『勝手に決めた暦で勝手に一年を区切ってるだけで暦がなかったらどこからどこまで一年かだって分からなくなる。そんなに大事にするものかい?』
「うわ出た、人外ムーブ」
『事実だからね』
マスコットはそう笑った。相変わらず優しくない。そんなんだから魔法少女の契約だって土壇場に無理やりじゃないと契約できないんだ。
新年を迎えた街はキラキラと輝いているように見える。家が立ち並ぶここら辺は門松なんかが置いてあって新年ムード満載だ。
あたしも早く初詣に行きたいし、と少しだけ気合いを入れて街を歩くことにした。
第一話『新年』
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あけましておめでとうございます。
今年は魔法少女カオルちゃんの話を書いていくことにしました。
今度はちゃんと毎日書きたい……!
1/1/2026, 4:30:36 PM