シオン

Open App

 冬のイメージはどう考えても雪なのに、今日の空は雲一つない晴天だった。いわゆる冬晴れってやつ。
 日本の四季ってやつはどうも上手くいかない。青い空と白い入道雲をイメージされている夏は雨降りまくりだし、紅葉に映える青空を連想される秋は台風ばっかだし、雪が降る唯一の季節である冬は晴天だらけ。もちろん豪雪地帯的なのは降っているんだろうけど、こっちは冬の間に一回でも雪が降れば大騒ぎになるんだぞ……。
『現実逃避は済んだかい、カオル』
 あたしの思考の隙間にマスコットが潜り込んできてそんな言葉を吐いた。
「まだ」
『そうかい。まぁ済んでなくてもそろそろ戻ってこないと非常にマズイんじゃないかい?』
「分かってる!!」
 あたしは悠長に言ってくるマスコットに対してつい声を荒らげてしまった。その瞬間怪物の咆哮が耳に入ってくる。
「ヒッ、バレた……」
『全く、キミが大きい声を出すからだよ』
「あたしのせいじゃないでしょ、今のは!」
 バクバクと心臓が大きな音を立てる。今日の怪物は等身約二十メートルほど。とんでもなくデカくて、あたしの銃じゃ一発や二発当てても全く動揺なんかしてなかった。それに慌てたあたしが攻撃の手を辞めた途端に怪物がガンと床を叩いて、叩かれた箇所は一メートルほどえぐれてしまった。だからすっかり戦意喪失、あたしは逃亡を図って物陰に隠れていた、のに。
 今、少し離れたところからズルズルと引きずられてる音がするのは多分全部敵の音。あたしを仕留める為に近づいてきている音で。
「どうしたらいいの! 急所とかどこなの!」
『急所? 人間とかその他動物と同じ場所、心臓だよ』
「でも胸を狙っても全然なんでもなかったじゃん!」
 いつもいつもあたしは胸を狙ってる。なぜならそこを撃てば大抵の敵は死ぬから。でも、今日の敵は二発弾を撃ち込んで、確かに穴は空いたのに痛くもかゆくも無さそうだったのだ。
『だから心臓が胸にあるなんて誰も言っていない。固定概念ってやつを捨てた方がいいんじゃないか?』
「そんなこと言われても」
 その瞬間に視界に影が入った。誰かが何も言わなくても怪物が目の前まで迫ってる、ということなんて分かった。
 急所は分かってない。それでもどうにか倒さなきゃいけない。あたしは自身を奮い立たせて銃を構えようとしたところで誤って引き金を引いてしまった。
「あ」
 弾に残量なんてものはない。無限に出てくるそれが一つくらい誤発射されてもなんてことはないのに、なんとなく『しまった』という心持ちでそんな声が出た。
 誤発射の弾は敵の右足首に当たった。これで敵が体勢を崩したらいいな、なんて思考が回った直後、怪物は地面に倒れて消失した。辺りも結界内特有のもやもやとした紫の空気を纏った神社から住宅街へと戻った。
「え…………」
『なるほど、足首なら謝発射じゃない限り攻撃されない。効率のいい身体だね』
 呆気に取られてるあたしの横でマスコットはそう呟いた。

第五話 冬晴れ

1/6/2026, 9:20:48 AM