シオン

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7/25/2024, 12:53:38 PM

 演奏者くんのことを閉じ込めてしまいたい。
 彼が傷つくことがないように。
 誰かに汚されることがないように。
 でも、それは到底無理な話なのだ。
 ボクはそもそもそんなことを出来るほど彼より強いわけでも、偉い人から彼を隠し通せるわけでもない。
 それでも少しだけもしかしたらを期待して、いつの間にか鳥かごを作ってしまっていた。人間が入るレベルの鳥かごを。
 で、見られた。
「………………なんだい、これ」
 引いてる、というより困惑しているような顔で問いかけられた。
「ん〜、鳥かごかな」
「それはそうだろうね。外からは鍵がかけられるけど…………中からはダメそうだね」
 演奏者くんは若干怪訝そうな顔をしながらあらかた見たあと言った。
「………………ちょっと入ってみてくれないかい?」
「いいよ〜」
 頷いて中に入る。格子状とはいえ、少しだけ圧迫感があって閉じ込められてる感があるな、と思った時、演奏者くんがカチャンと鍵を閉めた。
「………………え?」
「きみが僕のことを理解してなくて助かった」
 そう言った彼の顔は薄く微笑んでいた。
「僕はきみのことが好きだからね、どこにも行かないように閉じ込めておきたかった」
 歪んだ笑みを向けられて、ボクは閉じ込められてしまって、偉い人に見つかったら大変なことになる、まさに危機的状況だってのに、ボクは演奏者くんが同じ思考を持っていたという事実に、気持ちが舞い上がってしまっていた。

7/24/2024, 3:34:22 PM

「友達なのかな、ボクらって」
 彼女がそう呟いた時、僕はなんと答えたか、それだけが思い出せなかった。
 言われた時、何もかもがひっくり返りそうだった。
 友達なんじゃないの?
 敵対してるんだから友達なわけなくない?
 言葉で言い表せない関係だよ。
 そんな言葉が頭の中に浮かんでは消えて最終的に言葉にしたのは何だったのか。言われた彼女はなんと返したのか、そこら辺の記憶が曖昧だった。
 もちろん本心はどれでもない。
 『友達のままで終わりにしたくない』が本心だ。
 僕は彼女のことが好きで、あわよくばというより絶対に自分のモノにすると決めている。
 だから友達でいたくない。それ以上の関係性を求めている。
 でも、どう言ったっけ、どう返したんだっけ。
 僕の言葉を聞いて、なんと彼女は返してくれたんだっけ。
 そんな疑問を抱えながらいつもの演奏会の為にピアノに向かうと彼女が待っていた。
「やぁ、権力者」
 そう言って僕が微笑むと、少し面食らった顔をした後言った。
「……………………バカ」
「……何が」
「………………昨日自分が提案したくせに」
「…………何の、話だい」
「いいよ、君がそうならそれで。思い出すまで悶々としてろ」
 酷く不貞腐れた様子で彼女は言った。
 顔が赤いような、なんとなく拗ねているような態度の彼女を少し撫でると彼女は言った。
「…………友達のままじゃやだって。好きだって言ったくせに」
「…………………………え!?」

7/23/2024, 2:02:36 PM

 花が咲いていた。よく権力者がいるところを見かける、そんな場所で咲いていた。
 花は生えない土地だった。というより生きているもの自体をあまり見かけないような場所だ。
 住人はいるけれど、全員が自分の意思をなくした人形に成り果てていて。それは到底『生きている』と称することは難しいように感じていた。
 花は生えてない。木々もない。動物どころか虫さえも見かけられたらラッキーレベルの希少性だった。
 それだからきっと花を生やすのも大変だったのかもしれない。この世界に来た迷い子を全員意思のない人形にしてしまう彼女が甲斐甲斐しく花を育てる意味がよくわからないけれど。
 キレイな花だなと思いつつ、僕は広場にいくためにその場所を離れた。

 花が咲いていた。
 ボクが頑張ってお世話した花だった。
 この世界には花とか木々がない。それは偉い人の趣味というよりはこの世界を創造する時にそこまで手が回らなかったらしい。
 だから植物の面はボク等に一存されている。育ててもいいし、育てなくてもいい。個人の自由ってやつだ。
 でも、花を育てるような土地も、環境もなかった。
 綺麗な花を育てようと思ったら毎日毎日必ずしっかり水を上げて、日の光をずっと当たらないように調節して………………と、やることが多い。
 でも頑張った結果が出た。花が咲いていたのだから。
 頑張って良かった、とボクは微笑んだ。

7/21/2024, 2:19:18 PM

「今一番欲しいものはなんだい?」
 いつもの演奏者くんによるコンサートのあと、ボクはそんな言葉を演奏者くんに言われた。
「欲しいもの……?」
「そう。なにかあるかな、って」
 …………なんだろうか。
 というか、聞いてどうするつもりなんだ、彼は。
「ん〜、ないかな」
 なにか企んでいるような気配を感じたけど、問い詰める気にはならなくて、とりあえずそう返した
「ないのかい?」
「うん」
「何にも?」
「……うん」
「本当に?」
「しつこいなぁ!」
 ないって言ってるんだよ。というか、あったとしても君がどうこうできるようなものは別に欲しくはないんだよ。
「そうか…………困ったな」
「何が」
「好きな人にはなにか贈り物をしたいからね」
「ふーん……………………」
 そう言って聞き流したあと、なにか違和感を覚えた。演奏者くんはなんて言ったっけ?
「…………すきな、人?」
「うん。そうだよ。僕はきみが好きなんだ」
 なにか変なことでも言ったかい、とでも言いたげな顔で演奏者くんは言った。

7/20/2024, 2:09:59 PM

「そういえば名前、なんて言うんだい?」
 ふと気になったからそう聞くと、彼女はキョトンとした顔をした。
「…………言ってなかったっけ?」
「聞いてないね」
 そっかぁ……と声を漏らした彼女は、いたずらっ子のような笑みで言った。
「じゃあ、問題! ボクの名前は何でしょう!」
 これはまた突拍子もない。
 名前なんて数え切れないくらいある、せめてヒントがほしい。
「ヒントは?」
「ん〜じゃあ、一回間違える毎にヒントひとつ追加ってのは?」
「なるほど、それなら」
 とはいえ、全然分からない。最初にヒントが無いのは結構きつい。
 そもそも権力者がどこから生まれたのかとかそういう検討すらつかない。全くもって無理ゲーってやつだ。と、その時、頭の中に死んだのに死んでない、そんなやつの話を聞いたことを思い出した。確か名前は……。
「…………鈴木、美音?」
 まさかそんなはずはないけど、最初は当てずっぽうだから、なんて思いながらそう言うと彼女は酷い顔色をしていた。
「………どうしたんだい?」
 そっと彼女に触れると血の気が引いてるのが分かる。
「……権力者?」
「それは…………」
 喉から絞り出すような声がぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「…………ボクじゃなくて、『私の名前』」
 何を言ったか分からなくて、理解するために問い詰める気にもならなくて、僕はとんでもないことをしでかした事実を体で感じながら、彼女をそっと撫でた。

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