(現パロ、モブ視点)
俺の友達の名前は『フォルテ』という。もちろん本名じゃない、そういうあだ名だ。
そんな俺の友人フォルテは、いつも四限が終わって三学年だから帰れるはずなのに、わざわざ弁当もってまで残って勉強をしている。
いつもは付き合わない。勉強するのもめんどくさいし、そもそも残るために昼飯買うのもめんどい。
でもその日は、どうしても明日頑張らなきゃいけない小テストと課題があって、家ではどうも集中力できないからと、仕方なく残ることにした。
「ってことで、一緒に勉強していいか」
下の学年なら昼休みと呼べる時間帯も残り十分となった頃、俺はフォルテに声をかけた。
「……一緒にいてもいいけど、僕は次の時間は勉強しないよ」
「しないのかよ。じゃあなんでいつも残ってんだ?
「いや、いつもはしてる。ただ、今日の曜日はしないだけ。一週間のご褒美って感じかな」
そう言って笑った。
チャイムが鳴って五限が始まる。フォルテは窓の外を見つめ始めた。
俺らの教室の窓からは校庭が見える。どうやら二年のクラスが体育のようで外で集まってラジオ体操をしている。
そのうちの一人に向かって、まるで愛おしいものでも見るかのような視線をフォルテは送っていた。
「……好きなやつでもいんの?」
「いるよ。とても好きな子」
俺の方なんか目もくれずに彼はそう言った。
一時間、彼は見続けたあと、チャイムがなって五限が終わったと同時に流れるような速度でテキストとノートを取り出して勉強を始めた。
俺は、クールなフォルテがあんな優しい笑顔をすることに驚いて全く勉強に手がつかなかった。
(演奏者くんが天使だと分かったあと)
「…………演奏者くんが天使様なの?」
「そう」
演奏者くんは無表情で頷いた。
「……空から降りてきたの?」
「そう」
「…………凄い」
「そうかな」
平然と言うのは多分自分のことだからあんまり凄いって感覚がないんだろうなって感じだろう。
「人間じゃなくて、色んなことが出来るんでしょ。尊敬する」
「…………そっか」
ふわっと微笑んだ演奏者くんは不意に立ち上がって僕の顔をそっと上に向けさせた。演奏者くんの方しか見れない形にされる。
「…………どうしたの」
「………………僕は確かに人間じゃなくて色々できるけどね、守りたいと思うのはきみだけだよ」
あまりにも直球で、それがどういう意味だかが鮮明に分かって。だから思わず目を逸らしてしまった。
「逸らさないで。こっち見て」
優しく紡がれるその言葉はとても甘い響きをしていて、そんな声でそんなことをボクに言われると思ってなくて心臓がバクバクと音を立てる。
「ねぇ、僕はきみだけが特別だけど、きみは誰のことを特別だと思っているんだい?」
ボクだけが特別。
そんな言葉を片思いしていると思っていた相手から言われるなんて思ってなくて。
甘い毒が回ってきたボクは、まるで熱に浮かされたような顔で答えた。
「…………演奏者くんが、好きだよ」
「そっか」
天使様とは思えないような、まるで悪魔のような顔で彼が微笑んだのが見えた。
神様になりたかった。
なりたかったというよりは、ならざるを得なかったのほうかもしれない。
神様の子供として、神様になるべきものとして生まれた僕はそれなりにヤンチャしながら普通に生きた。
それで僕は間違えた。
神様になれる直前の現世渡航で間違えた。
僕はユートピアに来てしまったから。
あの地点から実に長い時間が流れた。僕はもう、とっくにこの生活に慣れてしまった。
だから後悔というよりも、遠い日にあったいつかの思い出みたいな感じであの時のことを思い出す。
今記憶を持ったままあの地点に戻っても、僕はまたユートピアに来るだろう。
あの世界よりも僕にとってはここの方が居心地がいいから。
空はいつも通りの晴れ模様だった。
毎日晴れている、どころかどんなタイミングでも絶対に晴れている、まさに晴天だった。
綺麗ではあるけど、少しだけ不気味でもある。
どんな時もどんな時も絶対に晴れている、なんて。
でも同時に、輝いている太陽の光が権力者に反射するのはとても綺麗で、晴天の下で弾くピアノもとても心地がいい。
悪くはないけどな、なんて思った。
ギュッと手を握ったら彼女を離さずにいられるのか。たまにそんなことを考える。
別に彼女がどこかに行きそうだとかそういうわけではない。ただ、なんとなく、そう考えるだけだ。
まぁ多分無理だろうと思う。
彼女の手をこちらが一方的に握ったとこで多分無駄だろう。
僕の手を振り払ってきっと逃げてしまうだろう。
だからやっぱり僕のとこまで落とさなきゃなぁなんて僕は思うわけである。