(演奏者くんが天使だと分かったあと)
「…………演奏者くんが天使様なの?」
「そう」
演奏者くんは無表情で頷いた。
「……空から降りてきたの?」
「そう」
「…………凄い」
「そうかな」
平然と言うのは多分自分のことだからあんまり凄いって感覚がないんだろうなって感じだろう。
「人間じゃなくて、色んなことが出来るんでしょ。尊敬する」
「…………そっか」
ふわっと微笑んだ演奏者くんは不意に立ち上がって僕の顔をそっと上に向けさせた。演奏者くんの方しか見れない形にされる。
「…………どうしたの」
「………………僕は確かに人間じゃなくて色々できるけどね、守りたいと思うのはきみだけだよ」
あまりにも直球で、それがどういう意味だかが鮮明に分かって。だから思わず目を逸らしてしまった。
「逸らさないで。こっち見て」
優しく紡がれるその言葉はとても甘い響きをしていて、そんな声でそんなことをボクに言われると思ってなくて心臓がバクバクと音を立てる。
「ねぇ、僕はきみだけが特別だけど、きみは誰のことを特別だと思っているんだい?」
ボクだけが特別。
そんな言葉を片思いしていると思っていた相手から言われるなんて思ってなくて。
甘い毒が回ってきたボクは、まるで熱に浮かされたような顔で答えた。
「…………演奏者くんが、好きだよ」
「そっか」
天使様とは思えないような、まるで悪魔のような顔で彼が微笑んだのが見えた。
7/18/2024, 11:46:18 AM