深夜徘徊猫

Open App
3/26/2025, 3:26:45 PM

「七色」

「みんなで画用紙に虹がかかったお空を描きましょう!」

 僕はすぐにクレヨンを手に取った。僕はお絵描きが大好き。画用紙いっぱいにお空と虹を描く。僕が想像する限りの大きい虹。あっという間に僕の画用紙はカラフルになった。描き終えて先生に僕の自信作を見せに行く。

「せんせい!みて!じょうずにかけたよ!」

「どれどれ。…翔くん、虹がおかしいよ?」

「え?おかしくないよ?」

「虹に黒や茶色はありません。しかもこれ十色じゃない。虹は七色。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫だよ。」

「…でも!いろがいっぱいのほうがたのしいよ?」

「虹に黒や茶色は出来ないものです。しかも、絵が汚くなるじゃない。もう一枚画用紙あげるから、もう一回描いてきなさい。」

「…はい。」

 その後言われた通りの色で虹を描いた。正直納得がいかなかった。みんなおんなじ色でつまらなく感じた。

 子供たちの個性はカラフルというけど、僕たちは虹のたった七色にも成れず、一色だけに染め上げられてく。
ただの白色に僕たちはなっていく。

………
白って何にでも染まる色ですよね。

3/23/2025, 3:45:27 PM

「雲り」

 私は最近思うことがある。

 友達と呼べる人、私にはいるのかな。

 いや、多分いるんだとは思う。ゲームに誘ってくれる人は居るし、ご飯を一緒に食べに行く人、誕生日を祝ってくれる人もいる。でも、何か違う。

 小学5年生くらいの時、私は本が好きで昼休みに1人本を読んでいた。そしたら当時の先生に1人でいないで昼休みは友達と遊びなさいと怒られた。さらにその先生はどうやらクラスの人にあの子はボッチみたいだから遊んであげて?と言い回していたそう。

 クラスの人は優しくて先生の言われた通り私に関わってくれた。でも、これって本当に私の望んだ友情なのかな?私の心に一つ雲がかかる。

 その後、仲良くなった子がいた。その子は少し嫌われていたというか、まぁそんな感じ。だから私なりに解決しようとクラスの人との取り次ぎを何度もしていた。

 そのうちその子は保健室登校になってしまって話す機会が減ってしまった。次会った時は他の保健室登校の子とすごく仲良くなった。そうしたら私に愛想つかしたと言わんばかりに離れられた。さらにもっと経つと、その子たちは喧嘩して私に助けを求めてきた。

 わかっている。その子が誰と関わろうと勝手だ。でも、私はこの子と「友達」なのかな。また雲がかかる。

 他にももっとたくさんの雲がかかっていく。雲の中に私の友情が生まれる。きっと私が考えすぎなだけ、これは友達なんだ。そう思うしかない。

 雲ってくっついて、大きくなって、別れて、雨になって…。人の心をよく表せる。曇りは天気のもや。雲りは心のもやを表す言葉にでもしようかな。

 雲がなくなればきっとそれが本当の友情なんだろう。

 あーしたてんきになーぁれ。

…でも雲を無くすとするなら、私の友情は全部なくなるってことなんだろうな。

 結局また雲り続ける。

3/10/2025, 3:35:57 PM

「願いが1つ叶うならば」

 私は小さい頃から願望が少なかった。元の性格が消極的なのだ。私の親は私のやりたいことをなんでもやらせてくれて、なんでも物を買ってくれて全て叶ってしまう。それはそれでいい人生なのかもしれない。

 親は私によく問う。

「やりたいこととか、お願いごととかないの?」

 私のやりたいことはなんでも叶えないと気が済まないらしい。それでも私は何にも思いつくことは無かった。

「何にもないよ。」

「何かしらはあるでしょ?」

 そう問われるのが嫌いで仕方なかった。みんな私くらいの年齢の子は、生き生きとしていて、アイドルになりたいとか、プロのスポーツ選手になりたいとか願っているのに私は何にもない。

 まるで私の心だけがすっぽ抜けているみたいだから。

 七夕の短冊も、誕生日プレゼントも、どうでもよかった。だって、私の周りには全て欲しいのものが転がり込んでくるから。私の親がそうするから。願う暇もないから。

 でも最近、願いを見つけたんだ。

 もしも、願いが1つ叶うのならば、

 私はもう願わなくても良い存在になりたい。

3/6/2025, 3:46:15 PM

「風が運ぶもの」

 今日は雨の中の出勤。上司に腹を立てつつ家を飛び出す。遅刻しつつもなんとか会社についていつも通りに仕事をする。朝から叱られるなんて私の気持ちは地の底だ。

 子供の頃は台風が近くなると嬉しくなったことを思い出す。明日休校にならないかなぁと何度も思った。そのくせ学校があると文句を言いつつも笑顔でずぶ濡れで帰ってきたっけ。

 少し暗くなった帰路につく。雨は上がっていてただ強い風だけが残っていて、今となっては傘が邪魔だ。少しでも早く帰りたいため近道の駐輪場を抜けようとする。

 直後、ガタガタともの凄い音が鳴った。その音の中に私の傘が巻き込まれ、折れた音が混じっていた。風で自転車がドミノ倒しになったようだ。もう傘はどうしようもないので周りの人と協力して自転車をもとに戻す。

 全て立て直し、折れた傘を抱え帰ろうとすると低い位置から声をかけられた。小学生くらいの男の子だった。

「お姉さん。僕の自転車のせいで傘壊れちゃった?」

「そんなことないよ。風のせいだよ。」

 そういうと男の子はランドセルから折り畳み傘を取り出して私に押し付けた。大丈夫と言って返そうとしたら、もう既に走り出していて返すにも出来なかった。

 名前などついていないかなと傘を開くと驚いた。

 油性マーカーで落書きがしてあったのだ。雲の模様やドラゴンと思われるものが主でただ一言文字が書いてあった。

「空飛ぶ傘」

 みた途端、頭の中が晴れるような気持ちだった。思い出したのだ。昔、風の中傘を広げるのが大好きだった。どこかへ飛んでいけそうだったから。

 私自身は飛ぶことは叶わなかった。夢を見ることも忘れていた。でも、少しだけ取り戻した気がする。あの男の子のおかげだ。

 もしかしたら、風があの子を運んできたのかもしれない。

 そう思いながら男の子の自転車のカゴに折り畳み傘を入れた。雲の形のグミを添えて。

2/28/2025, 3:21:44 PM

「あの日の温もり」

 思い浮かぶことはたくさんある。母親のハグとか、友達に貰ったプレゼントとか、猫の体温とか。

 最近暖かくなってきた。私の肌をなぞる風に春の香りがする。でも、その温もりが気持ち悪かった。

 最近家庭環境が少し悪くなったもので、明日からの休日が少し怖かった。だから、時の移ろいを喜べなかったのだと思う。

 今日もいつかは「あの日」になる。そして、冷たい日としても記録されていく。こんなに暖かかったのにね。

あの日の温もりにまた出会える日はいつなのだろうか。

Next