「8月、君に会いたい」
暑いなぁ、ここ最近。クーラー無しじゃ過ごして行けないや。そんなことを思いながら布団に包まる。結局のところ、クーラーガンガンの部屋で布団に包まるのが一番幸せなのだ。
ただ、そんな幸せも長くは続かない。
冷凍庫にあったはずのアイスが一つもないのだ。しょうがない、今日一日中外にも出てないし買いに行きますか…。
外にでると夏らしい、眩しい日差しが目に刺さる。もう8月、次期にお盆だ。お墓参り行かないとな。
…アイス、もう自分で買わないとないのか。
「おーい。帰ったぞー!」
「おかえりー!会いたかったよぉ!!」
「なに。おばあちゃんが居なくてそんなに寂しかったんか?」
「会いたかったよー!私のアイス!」
「なんだい、そっちかい。寂しい子だねぇ。」
小学生の頃の夏休みかな。そんなことを言っていた。おばあちゃんが私が暑かろうとわざわざ買いに行ってくれたあたり付きのアイス。どんな時でも冷凍庫を開けばそこにあった。
おばあちゃんはつい最近亡くなった。寿命で最後までピンピンしてたってね。
あの時は小っ恥ずかしくてアイスに会いたかったなんて言ったんだよな。今も、いや、今こそまた会いたいよ。おばあちゃん。アイスもそうだけど、それなんかより、ね。
アイスを買って家に帰る。ようやくありつける!と思って開けるとなんと!?アイスが溶けてるではありませんか!…流石にこの日差しでドライアイスなしじゃ溶けるかー。
「あ、当たり。」
もしかしたら、私が会いたいって思ったからおばあちゃんがアイスだけでもって思って当たりのにしてくれたのかな。
そんなこと思いながら私は溶けたアイスを一気に飲み込んだ。
「カーテン」
「もーいーよー!」
元気よく響く娘の声。家の中でかくれんぼなんて、いつも隠れる場所は決まってる癖に。
「みーつけた。」
「もー!お母さん見つけるの早い!」
隠れていたカーテンから顔を出してくる。まるでドレスのようだ。頬を膨らまして怒る娘。
あぁ。間違えなく貴方は天使なのだ。
「青く深く」
「世界で一番好まれている色は青なんだってさ。何でだと思う?」
「えー。分かんないな。空とか海とかが青だから親近感というか、そういうのが湧くんじゃない?」
「でも、今はどっちも茶色いよ?みんなの大好きな青はもうないよ?」
葵は突然クイズのようなものを尋ねたと思ったら高校生としては一丁前に地球の環境問題について訴えかけてきた。特に深い意味はない。私達にとっては雑談に過ぎない話だ。
「私達のも無くなるよ?」
「私達の?」
「うん。」
私達のってなんだろう。葵はいつも大切な部分だけ言ってくれない。私達の…。そういえばさっきまで私達、青春してるねなんて会話していたっけ。
きこうと思ったけどやめた。だってこの会話には特にそんな意味はない。深い意味なんて込められてない。青春が無くなろうとどうってことない。だって私達どうせ明日には別れるから。葵が引っ越すから。
青春の時期が終わっても無くなっても、深い私達の絆だもん。青いまま変わらないはずだから。
最近鬱っぽいのかなんなのか、会話も文章書くのも支離滅裂になってしまって単語でしかまとめられない。挨拶ですらうまく出来る自信がない。今文章書くのも何度も誤字をして何度もやり直してようやく書いてるから時間がかかりすぎる。落ち込んだ気持ちを抑えるための自分を傷付ける前の防波堤だったはずなのに今じゃもう書くことでもっと落ち込む。
毎朝頭痛で気持ち悪いし、何を食べても吐きそうになる。病院にいかないとまずいなとは思うけど相談できる相手なんかいないし。せめて文章だけでもいつも通り書ければいいのにな。
「もしも君が」
視界が揺らぐ。世界がモザイクがかる。現実感が消える。酷い幻覚が今日も私を襲う。
そんな時私は鏡をみる。そこだけくっきり世界が見えるから。
そこには私じゃない美女が映るから。
小学生の頃、私はクラスの男子にブスだと悪口を叩かれた。親からもウチの娘はむすったくれた表情ばっかしてるもんで。なんて何度も人前で言われた。私は不細工だと認識するのは遅くはなかった。寝る前はよく鏡を見ては落ち込んでいたものだ。
中学生くらいになると思春期で顔にニキビがたくさん出来て、もっと不細工になった私の顔。醜くて醜くて整形したいなんて言おうもんなら思春期なんだからと片付けられる。これは思春期以前の問題にも関わらず。
だんだんと人前に出るのが怖くなり、自然と不登校になっていた。精神が不安定になっていき、幻覚や幻聴が起こるようになった。精神科に行き、薬を貰ったが私は一切飲まなかった。
だって鏡を見ればそこにはくっきりと美女が映っているから。それは私だから。鏡だから。だから、何よりもの精神安定剤なの。これさえあれば私は生きていられるから。
幻覚が終わっていく。現実に戻っていく。そこにはいつのも不細工な私。本当は知ってる。あれも幻覚の一部だって。
ねぇ。もしも、もしも君がさ。私の鏡から出ていっちゃったら私、どうやってこの不細工な私から逃れればいいの?
「美琴!また鏡なんてものに縋るんじゃない!…こんなものっ!」
いつの間にか私の前にはお母さんがいて、その前には鏡の破片が転がっている。君が消えた。
…何言ってるんだろう。私。君なんて居ないよね。
だってそれは私だもんね。
私が割られた。じゃあもうこれは現実じゃないんだ。死んだんだ。私。
もしも君が私だったらなんて何処でそんなこと思ったんだろう。