青のケンキュウジョ 「あの夢のつづきを」
私は青が好きだった。海、空、きっとみんなも好きだよね。でも私が一番好きなのは夜の海の青さ。夜なんて特に全てが青いからね。私が夜の海が好きなのはあの日からだと思う。
ある時、全てが青く見える日があった。
それは暑い夏の日。親がいなくなってしまった日。
少し夜が深くなった帰り道。私はおばあちゃんに引き取られ、車に揺られていた。ぼーっと外を眺めると街の光が強くて、イルミネーションに包まれているようだった。それでも私は綺麗と思えなかった。ただただ悲しかったからだ。
おばあちゃん家についたはいいものの、ショックが大きかったようで食欲が湧かず、そのままおばあちゃんと一緒に眠った。
大分夜が更けた頃、私は目覚めてしまった。かといっておばあちゃんを起こすのも申し訳なくて、ぽやっとしていた。ふと、聞こえてきた。
さらさら。ざぁ。ざぁ。
海の波の音。そういえば近くに海があったなと思い外を見る。見に行きたい。今行かないと後悔する気がする。幼いながらにそう思って、パジャマでサンダルのまま海まで歩き出した。そこまで距離がなかったからよいものの、危険な行動だったとは思う。でも、そんなの今はどうでもよくて_
波打ち際。海が私の足をなでる。海に落とし込まれるような風が緩やかに吹く。目をしっかり開けて捉えた先は全てが青い世界だった。
ただの海ではなくて、たくさんの青が入り混じった空間が、私の周りから広がる。私の心の中心から。
気づいたんだ。青は感情としては確かにネガティブなイメージが強いしそれは否定しない。むしろ肯定する。
だって、その心の内から青でいるから青の空間に包まれると安心できると思うから。私は1人じゃないって。
こんなに美しい青を見られたことはない。その青は、人の心をそのまま表したような青だった。だから、その時だけは見えたんだ。
この青さを辛い人にこそ味わってもらいたい。その人たちはみんな心が青いから。君だけが青いわけじゃ無いって伝えたい。
だから私は青を研究することにした。辛い人が軽くなるよう。そして、
私がまたあの日、あの夢のような瞬間のつづきを私の努力で見れるように。
「青のケンキュウジョ。研究委員0号。」
青のケンキュウジョは今日も皆様に青を授けます。またお会いしましょう。
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このお話は同じ題名の青のケンキュウジョの少女のお話です。少し長くなりますが、よければ合わせて読んでみてくださいね。ここまで読んでくださりありがとうございました!ではまた。
「あたたかいね」
この言葉で私が思い出すのはとある冬、小さな頃におばあちゃん家に帰省したこと。お布団の数が足りなかったからおばあちゃんと一緒のお布団で寝た。
おばあちゃんはいつも湯たんぽを仕込んでおいてくれた。それも、もう沸騰直前のお湯。熱かったけどおかげで朝まで暖かい。
おばあちゃんが先に入ったお布団に私も潜り込む。するとおばあちゃんは湯たんぽを私の足元の方にやってぎゅっと抱きしめてきた。
「あんたはあたしの湯たんぽだよぉ。」
そういってお腹のウエストがモデルさんになるくらい強く抱きしめた。
「じゃあ、私はずっとおばあちゃんの湯たんぽでいるね!」
私はそう言っておばあちゃんを抱きしめ返した。湯たんぽより何倍もあたたかく感じた。
今度帰る時はまた湯たんぽになってあげようかな。
青のケンキュウジョ 「星のかけら」
「こんばんはー。かき氷いかがです?」
深夜、仕事帰りふらっと寄った海近くの道路。青いエプロンが可愛らしい少女にそう言われた。
「かき氷?こんな深夜に?」
「まぁまぁ。お代は取りませんのでおひとつどうです?」
正直いろいろ尋ねたいことはある。それを言葉にしようとしたらそこで留まった。なぜなら少女が取り出したびんの中には沢山の光り輝く【なにか】があったからだ。私はうっとり見惚れてしまった。
「それ、なんですか?」
「【星のかけら】です。今日の夜空は青が深いですからね。おかげでこんなにも綺麗な子たちが取れましたよ。」
「何に使うんですか?」
まず、星のかけらがあることについて尋ねるべきではあった。しかし、その子の目があまりに確実で、ついそのまま信じこんでしまうのだ。
「かき氷です。いかがです?」
その真っ直ぐで青の瞳に、私は頷いた。
するとその子は星のかけらをおそらくかき氷機と思われる物の中にそっと閉じ込めてハンドルを回した。
さらさら。
星とは思えない音と共にちょっと控えめな金色の細石が落ちてきた。そしてそっと、それらを小瓶の中に入れ込んだ。途端に、静かに青に煌めくのだ。なにか、そこに生命が宿ってうごめいているような、そんな感覚を覚えた。
綺麗。それ以上でもそれ以外でもない。青が深い日にはこんなにも星は綺麗になるのか。何故か納得してしまった。それと同時にまるで涙みたいだとも思った。
「どうぞ。これはあくまで本当のかき氷では無いのでそのまま持ち帰ってお守りとして使ってください。」
そう言って少女は細い青いリボンを小瓶につけて手渡してきた。
…一回本当に食べれると思った私が恥ずかしい。
「それではそろそろ店仕舞いとしましょうかね。」
「あの、貴方は何をしている方なんですか?ここに来たらまた、会えますか?」
また会いたい。ここは私を包み込む全てが青いけど、なぜだかどこよりも暖かくなるんだ。
それは多分は私が仕事で追い込まれているからだとは思っている。そう思っても、ここで、この少女と出会えたから暖かくなれると信じている自分がいる。
「私は青を研究しているんです。また会えるかは分かりませんが、青いところだったら会えるかもですね。」
「その、研究の名前とかは教えていただけませんか?」
「【青のケンキュウジョ】です。」
どこよりも冷たく、どこよりも暖かいただひとつの青を探して。青のケンキュウジョは今日も皆様に青を授けます。
またお会いしましょう。
「冬晴れ」
「なんで海?」
最近はずっと窓を覗くと真っ白。雪はずっとふわふわ人のことも気にせずに降りてくる。
突然鳴り響く一件の通知。それは親友の葵からのものだった。
「今から海にいこうよ。」
本音としては、こんな寒い日の中さらに海風にさらされるなんて勘弁だ。かといっても、やることはないので来てしまった。
「もう帰っちゃうの?伊織ちゃん。」
「うん。ごめんだけど帰りたいや。今日結構冷え込むし。」
「そっかぁ。」
こんな日に海に誘うのは流石に異常だとは自覚していたのかあっさりとした返事が返ってきた。
「でもさ、ちょっと見てよ。」
「なに?そっちまで行くともっと寒いよ。」
葵はちょっとした高台に登って海を指差した。
「あんなに白かったのに今じゃすごく青いよ。」
「そう?」
「うん。」
改めて海と向かい合った。
確かに雪ばかりで白くうつり過ぎていたこの風景は今はお日様に照らされてきらきら青に光っていた。
夏以外でもこんなに海に心奪われる日があるんだとなんだか私の心も照らされた気がした。
「で、もう帰っちゃうの?」
ここまで青い海を再認識した日はないだろう。
「幸せとは」
正直ぱっと書き出せることはなかった。
「じゃあ、私は今幸せなのかな?」
と言う問いしか思い浮かばなかった。
一度は考えることだと思うが、その度に答えは出ない。いつの間にかそんな考えすら忘れてしまう。
多分、それを忘れることが一番の幸せなんだとは思う。人生で直面するこういう問いはきっと答えはでないから。
だから、もう書くのはやめにして散歩にでも行こうと思う。