「8月31日、午後5時」
公園に夕方のチャイムが鳴り響く。
「もう今日で夏終わりだね。明日からは学校かぁ。」
「ねぇねぇ。このまま家に帰らなかったらさ、まだ夏休み続くのかな。」
あのチャイムの音で帰っちゃうことで夏は終わるなら帰らなかったらきっと夏は終わらない。
「何バカ言ってんのさ。俺そろそろ帰んないとかーちゃんに怒られる。じゃあな、また明日。」
公園には私1人だけぽつんと残された。まだチャイムが鳴っている。地面には影が滲んで家の方向に向いている。
私だけ夏に取り残されてるみたい。
最近というかちょっと前に自分の誕生日だった。信じられないくらい酷い一日で終わっちゃったんだけどね。午前までは友達に祝ってもらえて幸せだったのになぁ。兄は帰ってこないし、母はそのせいで不機嫌だし。家族にまともに祝われずに1人寂しく寝た。まぁ友達に祝われただけマシではあるけどね。
何故か分からないが、私の誕生日の日は必ず酷い一日になる。夫婦喧嘩が起きたり、祖母がヒステリック気味になったり、父が出て行ったり。せめてその日だけでもみんな我慢してくれたらいいのにって毎年思ってしまう。同時に私が産まれたとかみんなどうでもいいんだなと思う。誕生日前に居なくなろうと思ったけど踏みとどまったのにな。誰も褒めてはくれないんだよな。
暗い話で申し訳ない。思い出してどうしても吐き出したくなってしまったもので…。でも最近は悪いことばかりではないですよ!珍しくやりたいゲームが出来て、買いに行く予定。店舗でわざわざ買いに行くなんて久しぶりでそれだけで楽しみになってます。
「Midnight Blue」
子供の頃って大抵みんな夜が怖いはず。寝る時布団から足が出てると幽霊に掴まれるなんて思って隠したり、夜中トイレに行く時に親についてきてもらったり。
あのどす黒い青さに飲み込まれそうで怖かった。
でも次第に、大きくなるごとにそんなの気にならなくなった。むしろ夜が好きになっていく。みんないっぱいに夜、あの青さを吸い込んでゆく。
青に染まる。そうやって青年になってゆく。
真夜中のようなMidnight Blue。ほとんど黒に近い青色だそう。
大きくなるごとに夜更かしの時間は長くなり、真夜中に近づいてその黒さを吸い込んでしまう。子供の頃の恐怖を忘れ、だんだん黒ずんでしまう。
だから、あの時の恐怖は正しかったのかもしれない。あの青さが無くなる前に早めに寝てしまわないとね。
「きっと忘れない」
私は昔から割と記憶力がいい。小さな頃の記憶もわりかし覚えている。
思い返せば、小さな頃は「きっと」とか、「絶対」とかそんな言葉を言うことが多かったと思う。それは周りも同じ。そしてそれらは本当にその言葉のままだったと思う。
大きくなるにつれ、当時使っていたそれらの言葉が胡散臭く見えてくるんだ。まぁこれがきっと大人になるってこと。
大きくなるにつれ、小さな頃に交わした大切な約束も薄れていく。どうでもよくなってくる。
あぁ、大丈夫。きっと覚えてられるよ。きっとね。
「8月、君に会いたい」
暑いなぁ、ここ最近。クーラー無しじゃ過ごして行けないや。そんなことを思いながら布団に包まる。結局のところ、クーラーガンガンの部屋で布団に包まるのが一番幸せなのだ。
ただ、そんな幸せも長くは続かない。
冷凍庫にあったはずのアイスが一つもないのだ。しょうがない、今日一日中外にも出てないし買いに行きますか…。
外にでると夏らしい、眩しい日差しが目に刺さる。もう8月、次期にお盆だ。お墓参り行かないとな。
…アイス、もう自分で買わないとないのか。
「おーい。帰ったぞー!」
「おかえりー!会いたかったよぉ!!」
「なに。おばあちゃんが居なくてそんなに寂しかったんか?」
「会いたかったよー!私のアイス!」
「なんだい、そっちかい。寂しい子だねぇ。」
小学生の頃の夏休みかな。そんなことを言っていた。おばあちゃんが私が暑かろうとわざわざ買いに行ってくれたあたり付きのアイス。どんな時でも冷凍庫を開けばそこにあった。
おばあちゃんはつい最近亡くなった。寿命で最後までピンピンしてたってね。
あの時は小っ恥ずかしくてアイスに会いたかったなんて言ったんだよな。今も、いや、今こそまた会いたいよ。おばあちゃん。アイスもそうだけど、それなんかより、ね。
アイスを買って家に帰る。ようやくありつける!と思って開けるとなんと!?アイスが溶けてるではありませんか!…流石にこの日差しでドライアイスなしじゃ溶けるかー。
「あ、当たり。」
もしかしたら、私が会いたいって思ったからおばあちゃんがアイスだけでもって思って当たりのにしてくれたのかな。
そんなこと思いながら私は溶けたアイスを一気に飲み込んだ。