「秘密の手紙」
最近はなんでもスマホで連絡してばっかり。でも小さな頃は手紙で連絡をしてた。どうせ明日また会う友達なのにそれでも手紙を書いて、ポストに入れる。その行為自体が単純に好きだったんだと思う。
私は今荷造り中。もう後2日ほどでこの生まれ育った町から出ていく。どんどん思い出の品も、あまり見たくない黒歴史もダンボールの中に詰めていく。
「あおいー!これ忘れてるわよー!ほら、小学生のときあんたハマってたじゃない?ほとんど毎日手紙出すもんだからびっくりしたわよー。」
お母さんが抱えていたのはパンパンに手紙が詰められたチョコレートの缶。大事なものはこれにしまうんだって言ってこの缶にいれてたっけ。開けてみると小学生の頃の友達の名前がずらりと出てくる。懐かしい。この子は確か今は東京とかだっけ。あぁ、こっちの子は確か保育士になるって言って今実際なってるんだっけ。
思い出に浸りながら何枚か手紙を読んでいるといくつか住所の無い手紙が出てきた。開けてみると自分の拙い字。どうやら出すタイミングを見失ったり、上手に絵が描けなかったとかで出しそびれた手紙だったらしい。
友達のはともかく、失敗した手紙はな。別にもういらないか。
ゴミ箱にまとめて全部捨てようと思った時、手が止まった。そういえばこれ書いた時も捨てようとしてそれでどうしたんだっけ?
「あら、あんたそれ出しそびれた手紙?大事にとってたのねー。何、なんか大事なことでも書いてたの?もしかして、カレシとかそういう話?」
そんなの書いてるわけないじゃんと言い返そうと思った時、突然思い出した。どの手紙だったか、読み返せてないけど昔友達からこう来てた気がする。
「私も送りそびれた手紙、いっぱいあるなー。でも、なんで言うか、捨てるのってなんかヤダなーって。その子と私だけの秘密だったはずのお話が私だけのになって、それなのに捨てるってなんだか罪悪感っての?まぁなんかぬいぐるみ捨てちゃうのと同じ感覚って感じ!だから私は捨てない!」
この内容が届いた時、雷が落ちたみたいだった。言いたいこと全部言葉にしてるって感じがして見透かされてるみたいだった。それ以来、手紙を捨てたらこの書いていた時の自分とこの内容の秘密、どっちも捨てちゃいそうでとっとくようにしたんだっけ。
「ねー。なんで無反応なん?やっぱ図星なん?」
「いや、うーん。まぁ秘密ってとこかな。」
秘密を捨てるのも安売りするのもやめた。それが私とあの子の秘密。まぁ、あっちも同じくしてたらね。
「贈り物の中身」
「やっぱりさ、プレゼントってその人の人柄めっちゃ出るじゃん?その中身とか、ラッピングの仕方とか!ほら!どう?」
そう言って友達は私の顔面目の前に袋を突き出してきた。
「その通りかも。あんたらしいガサツな感じが出てる。」
「なんですと!?めっちゃセンスいいと思ったのにー!」
突き出されたのはまさかのコンビニのレジ袋。こんなのでセンスどうこう語れるのは逆にセンスがある。そもそもノートを何度かうつさせてやった程度でそんな大層なものをもらえるとは思ってないけど。
「まーまー、とりあえずもらってよ!あんたの好きなお菓子入れといたし。んじゃ、また明日ねー!」
見送った後プレゼントなるものの中身を見てみた。中には適当にぶち込まれたようなお菓子とやたら綺麗に包まれた小さめの箱が入っていた。お菓子は幼馴染らしい小さい頃好きだったお菓子が入っていて流石だと思ったが、この箱はなんだろう?手に取ろうとした瞬間スマホが鳴った。友達からの着信だ。
「ごめん!袋の中になんかこう箱入ってなかった?」
「あるよ。何、もしかして彼氏かなんかでも出来てたのー?」
「あーもう!その聞き方ウザい!とにかく明日それ回収するから大事に大事に傷一つつけないようにしてね!」
はいはい分かった。と返事をして通話を切った。彼氏かぁ、あいつみたいなのでも出来るんだな。まさか贈り物の中身にこんな大事なのいれるなんて。なんだか人の違う顔みたいなのが二つも見れてお得感を感じてしまう。
贈り物はその人の人柄がよく出るって自分で証明しちゃってるじゃん。中身にはその人の人生とか思いとかが詰まったものだって。
たまに散歩をしているのだが、最近、猫3匹と連続であったことには驚いた。しかも逃げないで、ずっと目を合わせてくれた。あと、どこかの家から突然犬が出てきて後をつけられたことかな。さらに、散歩コースに少しばかり牧場を入れて歩いていたのだがいつもは居ない馬にも会った。
その日は想像するような秋らしい日で葉は色づき、夕暮れが赤っぽくて色んな家からの夕飯の匂いが漂ってくる。動物達にもこんなにあって、これから物語が始まるみたいと思った。
なんやかんや、秋の散歩が一番好き。今度はキンモクセイの匂いでも探しに行こうかな。そうしたら今度こそ物語でも始まるかもね。
「moonlight」
深夜2時頃、ようやく課題が一区切りついた。描いていたのは油絵。高校の美術科の生徒として展示会に絵をみんな出すことが決まった。
正直言えばこんな絵描きたくも展示されたくもない。
親の反対を押し切ってようやく入った美術科。最初の頃は毎日楽しかった。使ったこともないような画材に囲まれ、見たこともないような素晴らしい感性の同級生、それをひとまとめに確実な知識を与えてくれる先生。私がようやく美術の中で生きていることを実感出来た。みんなにならって素晴らしい作品をいくつも描いた。
でもそのうちぶつかるのは才能の壁。よくある。私の心は油絵の具のようにキャンバスに溶け込んでくれるわけもなく、ただただどす黒く渦巻いた。
正直、描ける描けないはどうでもよくて、周りの期待をキャンバスと同じように私がドロドロに塗り替えてくことが苦しかった。そんなことを思う時点で私は美術にはむいていないのだろうけど。
まだ入学して半年。自分には可能性があると思いながら展示用の作品を描くなんて吐き気がしてくる。
「あ…。」
ふっと部屋の明かりが消えた。電池切れだろうか。デスクライトでの光源を頼りに描いていたものだから暗くなって怖くなった。自分みたいに思えたから。
あーもう今日は寝ちゃおうかな。このまま描いてもな、また描き直すことになるだろうし。
ベットに向かうと部屋にまさに一筋の光が入った。光の方をみると昼頃から開けっぱなしにしていた窓から月明かりが差し込んでいたみたいだ。
光が当たる先は私のキャンバス。しかし、まるでアニメのように私の絵に光が差し込んでいるわけでもなく、キャンバスの背、イーゼルの方に光が当たっていて私の絵は影でなにも見えなかった。
作品が、完成したと思った。
そのキャンバスと月明かりはまさに私そのもので私の描きたかったものだと思った。だが、当たり前にこの光景を作品としては出せるわけない。
でも、描ける気がした。私はこのキャンバスにそのまま私の心を描けばいい。これをみてはっきり分かった。私が描きたいのは唯一向かい合い続けた私の鏡みたいなキャンバス。気まぐれな光ではない。
そんな気まぐれな、私とは別世界な光がキャンバスという名の私自身を背中から暖かく支えて続けてくれた。
タイトルは「moonlight」きっと、誰よりもいい作品になるだろう。
「既読がつかないメッセージ」
ある日突然、何気なく送っていた友へのメッセージに既読がつかなくなった。前までは割とすぐ、遅くても1時間で返ってきていたのにもう一日が過ぎた。
忙しいだけならいいけど、事故とか事件だったらと頭に不安がよぎる。最近物騒な事件も多いわけだし。そんな状態でスマホを眺めていると電話が鳴った。
「もしもし?ごめん。メッセージ見れてなくて。急な出張で返してる暇なかったわー。」
安堵した。とりあえず元気ならいいか。
「そっか。でもなんで電話?いつもメッセージで返してたでしょ?」
「あー。それなんだけどさ。今度から電話でいい?その方楽じゃん。」
「なんでさ。いっつも恋人とくらいしか電話してなかったのに。」
懐かしいな。こいつが恋人とラブラブだった頃はほんと話してもくれなかったのに。
「覚えてたんだ。じゃあメッセージにする必要はないでしょ?」
その日からもう「友」からは既読がつかなくなった。