「雨上がり」
雨が上がった。雲の隙間から青空が覗き、地面が水の反射できらきら光る。
あぁ。なんで雨なんか上がってしまったの。私が惨めに見えるじゃない。
仕事帰りだった。私の仕事は研究職で宇宙の研究をしていた。でも、ついさっき辞めた。私の研究テーマはとことん否定された。でも、最初のうちなんて否定されるのは当たり前だし、気にしないようにして研究を進めた。そして気づいたんだ。無謀なことだったことに。
否定の言葉が頭をよぎる。
「そんな研究うまくいくわけがない。」
実際そうだったんだ。ずっと周りの人間はおかしい。私が正しいと思っていた。ただの勘違いだった。
研究所を辞めてきて、外に出ると雨が降っていた。私の心のようとはまさにこの事で、傘もささずずぶ濡れで帰った。好都合だ。だって、泣いてることが雨でわからないから。
天気は、世間は前に進もうと輝いているのに私は進んでいない。世界に取り残されてしまった。
ふらふらと歩いているとちゃぽ。と足元で音がなった。どうやら水たまりに引っかかってしまったらしい。最悪だ。と足元を見ると、
宇宙が広がっていた。
嘘だと思った。ただの幻覚なんだと。でも引き寄せられてしまった。水たまりを1人、じーっと眺めた。そこには私はいっさい写っておらず、だだ星空が反射しているのみ。夜でも無いのに。
空を見上げた。青い青い何処までも広がる空だった。水たまりはどす黒い私の感情を混ぜたような色なのに。
足がひんやりとしたので自分の靴を見ると、私の足は宇宙に侵食されていた。どんどん広がる宇宙。私の足にされもどす黒く広がっていた。
怖かった。今まで溶け入るように見つめていた水たまりから離れ、必死に遠くへ走った。
気づけばまた雨が降り出した。足元の宇宙はだんだん溶け落ちていく。足が軽くなる。雨のおかげで私は宇宙に取り込まれずに済んだ。
もしかしたら雨は、世間は私の涙も失敗も全部隠して洗い落としてくれる存在なのかもしれない。いい意味でも、悪い意味でも。でも世間に取り残された水たまりたちはただただ私を引き摺り込む。取り残そうとする。
どちらも同じ存在で変わりないはずなのに。寧ろ雨上がりの方が進み出すイメージが強いのに。
雨上がりという爽快な存在は陥った私の敵なのかもしれない。
「酸素」
私の周りは空気で溢れている。人と同じだなと思う。
特に酸素はすぐに誰かとくっつき、そんでもって割とすぐに離れる。所謂、酸化とか還元。人間関係もそんな感じの人が多い。みんな上辺だけで仲間だと思ったらすぐ離れていっちゃう。みんな酸素みたいなもの。
の癖に酸素がないと人間、生きていけないんだよなぁ。とも思う。変な感じ。考えれば気軽に人と繋がれるって言うのはいい点ではある。
空気中の78%くらいは窒素。窒素は安定していてガッチリと窒素で結びついている。めったに分解されることもないってね。理想の人間関係って感じ。
でも窒素は濃度が高いと最終的には死ぬことだってあるみたい。窒素のみ、吸い続けることは出来ないなんてなんだか悲しい。
酸素はって言うと生きていく上で吸わないといけないもの。
でもおかしいな、なんだか吸いづらいんだ。苦しくなってしまう。上辺だけの人間関係ってやっぱり必要な物?理想の人間関係を求めると死んでしまう物?
私の書く文章は何処までも空っぽだ。
最近、本を読む機会が減っていた。ましてや、書くことも。忙しくなったと言うのも一つの理由だが、一番は自分には芯がないと気付かされてしまうから。
元々、小学生の私は本を読むのは好まず、寧ろ嫌いで、苦痛であった。だが、優等生としていたかった自分は興味もない小難しそうな小説を手に広げはするが、まともに読むことはしなかった。
本は自分をよく見せるための一つの道具程度にしか思わなかった。内容なんてどうでもよかった。だがある日、図書カードをもらったが持て余していたところ、運命かのような本に出会った。表紙の絵が可愛かった。それだけの理由で買ったつもりだった。
内容は小学生低学年から中学年くらいの子が読むようなもので、高学年の自分には合わない本だなと思いつつ広げる。途端に大きめの文字が目に飛び込んでくる。この程度なら読んでもいいかも。そう思って読んだ。
いつの間にか物語にのめり込んでいる自分がいた。何故その本だったのかは分からないが初めて本を「道具」としてではなく、「好き」として受け入れられた瞬間だった。
それからというもの、本をよく読むようになった。それも本を取り上げられて苦しむくらいには。そのうちだんだんと自分も物語を書きたいと思うようになり、将来は小説家になりたいと願うようになった。
ただ、本好きの母は気づいていたのだ。私が私自身をよく見せようとするために本を読んでいたと言うことが。実際、小さな頃の癖は中々抜けないもので、自分をよく見せるため本を読むこともまだザラにある。だからその夢は反対され、自分も諦めるようになった。
今日、本を読んでいて思う。あぁ、この作者は「物語」が書けるのだと。自分をよく見せるための道具として物語達を扱ってきた私には空っぽの文章しか書けない。本当に小説家を目指していた身として最低だと思う。
でも、どうしても書きたい自分がいる。自分をよく見せたいかなのは自分にもよく分かっていない。私は物語が好きなのか、物語を書く自分が好きなのか分からないまままた文章を書く。私には全て抜け殻のように見えてしまう文章を。いつか、空っぽが埋まるまで。ずっと。
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テーマに関係ない上に自分語りですみません。今日読んだ本が私に物語を書くことについて問われているように感じてつい書きたくなってしまいました。伝えたいことを伝えられる小説家になってみたいものです。
「風と」
小さな頃、近所の公園で紙飛行機を飛ばした。私の小学校の伝統で紙飛行機の大会が毎年行われていて、それへ向けての猛特訓。暗くなるまで1人で何枚もの紙飛行機を折って何枚も飛ばしたものだ。
大人になってからは当然といえば当然で、紙飛行機なんて飛ばさないし、そもそも、その単語を聞く機会すら無くなっていった。
会社からの帰りがたまたま早かった日。春らしさが徐々に消え始め、すっかり葉桜になった頃に公園にふと寄ってみた。
公園には紙飛行機を飛ばす少年たちがいた。私の母校に通っている子たちなのかななんて思い、ベンチに、座りながらぼーっと眺めていた。何枚もの紙飛行機が空を舞う。関係ないはずなのにどうも春を感じている自分がいる。
流石にずっと子供達を眺めていて、不審者にでも思われたら困るので帰ることにした。帰りにコンビニでスイーツでも買おうかと考えながら公園の出口に向かっていたところ、背中に小さく、とん。と感覚がした。
振り返ると紙飛行機が落ちていた。まずここまで飛んできたことに驚いた。拾い上げると少年が駆け寄ってきた。
「ごめんなさい。思ったより飛んじゃって…。」
「大丈夫だよ。それよりすごいね!よく飛ぶ様になったじゃん!」
「本当ですか!折り方工夫したんで飛ぶようなったのかな。もっと飛ぶようになる折り方見つけたいんすけど…。」
「あるよ!教えようか?」
はっと気がつく。急に紙飛行機の折り方を教えるなんて不審者も同然では?ついつい血が騒いで口走ってしまった。
「本当ですか!?教え下さい!大会で勝ちたいんです!」
案外寛大に受け入れられ少し驚いたも束の間、手を引かれ、いつのまにか少年たちと沢山紙飛行機を飛ばしている自分がいた。最近の中で自分が最も生き生きしていた。
風によってなにか、大人になってから飛んでいったものが戻ってきたみたい。
翌日、目が覚めると体が熱い。なるほど、風と共に風邪にかかってしまったようだ。そりゃ久しぶりに動き回ったらそうなるな。そういえば、小さな頃も同じく翌日風邪になったような…。
風と私は案外何も変わっていないのかもしれない。
「影絵」
「ねぇ、あの子の絵綺麗じゃない?」
「本当だ!みよ見よ!」
絵を描くのが好きだった。でも、正直自分でも思うくらいには下手。僕とは別の子は上手くていいなぁと嫉妬してしまう。いっぱい褒められて、賞なんかも貰っちゃったりして。
影がひとつかかる。
将来、絵を仕事にしたい。小さい頃よくそう謳っていた。僕は世界一の画家になるんだって。いつのまにか言えなくなっていった。現実的じゃないから。それに僕、才能だってないし。
影がまた増える。
絵を描いていて馬鹿にされたことがある。気色悪いとか下手くそとか。まぁ、実際その通りだから僕は何も言い返せない。なんだか申し訳なくなっていく。
影が、ふえる。
中学生の作品コンクール。とは言っても小さなコンクールだから応募したら必ず展示される。僕の絵も例外ではなかった。
「ねぇあの子の絵、なんか汚くない?」
「なんと言うか、暗いと言うか…。」
僕の絵に指が刺さる。指の影がかかる。暗くなる。
小さな頃の絵は色彩豊かだった。でも気づけば暗くてもやがかかるようになった。それは、僕の心に影がかかるたび増えていった。影のように付き纏って、離れなくて、飲み込まれた様。
あの子の方が綺麗と呼ばれた絵を見た。綺麗で確かに輝いていた。
まるで彼方だけスポットライトが当たったかのように。僕の絵はスポットライトの影のように。