深夜徘徊猫

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「風と」

 小さな頃、近所の公園で紙飛行機を飛ばした。私の小学校の伝統で紙飛行機の大会が毎年行われていて、それへ向けての猛特訓。暗くなるまで1人で何枚もの紙飛行機を折って何枚も飛ばしたものだ。

 大人になってからは当然といえば当然で、紙飛行機なんて飛ばさないし、そもそも、その単語を聞く機会すら無くなっていった。

 会社からの帰りがたまたま早かった日。春らしさが徐々に消え始め、すっかり葉桜になった頃に公園にふと寄ってみた。

 公園には紙飛行機を飛ばす少年たちがいた。私の母校に通っている子たちなのかななんて思い、ベンチに、座りながらぼーっと眺めていた。何枚もの紙飛行機が空を舞う。関係ないはずなのにどうも春を感じている自分がいる。

 流石にずっと子供達を眺めていて、不審者にでも思われたら困るので帰ることにした。帰りにコンビニでスイーツでも買おうかと考えながら公園の出口に向かっていたところ、背中に小さく、とん。と感覚がした。

 振り返ると紙飛行機が落ちていた。まずここまで飛んできたことに驚いた。拾い上げると少年が駆け寄ってきた。

「ごめんなさい。思ったより飛んじゃって…。」

「大丈夫だよ。それよりすごいね!よく飛ぶ様になったじゃん!」

「本当ですか!折り方工夫したんで飛ぶようなったのかな。もっと飛ぶようになる折り方見つけたいんすけど…。」

「あるよ!教えようか?」

 はっと気がつく。急に紙飛行機の折り方を教えるなんて不審者も同然では?ついつい血が騒いで口走ってしまった。

「本当ですか!?教え下さい!大会で勝ちたいんです!」

 案外寛大に受け入れられ少し驚いたも束の間、手を引かれ、いつのまにか少年たちと沢山紙飛行機を飛ばしている自分がいた。最近の中で自分が最も生き生きしていた。

 風によってなにか、大人になってから飛んでいったものが戻ってきたみたい。

 翌日、目が覚めると体が熱い。なるほど、風と共に風邪にかかってしまったようだ。そりゃ久しぶりに動き回ったらそうなるな。そういえば、小さな頃も同じく翌日風邪になったような…。

 風と私は案外何も変わっていないのかもしれない。

5/1/2025, 4:06:07 PM