深夜徘徊猫

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「もしも君が」

 視界が揺らぐ。世界がモザイクがかる。現実感が消える。酷い幻覚が今日も私を襲う。

 そんな時私は鏡をみる。そこだけくっきり世界が見えるから。

 そこには私じゃない美女が映るから。

 小学生の頃、私はクラスの男子にブスだと悪口を叩かれた。親からもウチの娘はむすったくれた表情ばっかしてるもんで。なんて何度も人前で言われた。私は不細工だと認識するのは遅くはなかった。寝る前はよく鏡を見ては落ち込んでいたものだ。

 中学生くらいになると思春期で顔にニキビがたくさん出来て、もっと不細工になった私の顔。醜くて醜くて整形したいなんて言おうもんなら思春期なんだからと片付けられる。これは思春期以前の問題にも関わらず。

 だんだんと人前に出るのが怖くなり、自然と不登校になっていた。精神が不安定になっていき、幻覚や幻聴が起こるようになった。精神科に行き、薬を貰ったが私は一切飲まなかった。

 だって鏡を見ればそこにはくっきりと美女が映っているから。それは私だから。鏡だから。だから、何よりもの精神安定剤なの。これさえあれば私は生きていられるから。

 幻覚が終わっていく。現実に戻っていく。そこにはいつのも不細工な私。本当は知ってる。あれも幻覚の一部だって。

 ねぇ。もしも、もしも君がさ。私の鏡から出ていっちゃったら私、どうやってこの不細工な私から逃れればいいの?

 「美琴!また鏡なんてものに縋るんじゃない!…こんなものっ!」

 いつの間にか私の前にはお母さんがいて、その前には鏡の破片が転がっている。君が消えた。

 …何言ってるんだろう。私。君なんて居ないよね。

 だってそれは私だもんね。

 私が割られた。じゃあもうこれは現実じゃないんだ。死んだんだ。私。

 もしも君が私だったらなんて何処でそんなこと思ったんだろう。
 

6/14/2025, 2:42:39 PM