「cute!」
可愛いものは独り占めしたい。だって私は宇宙一可愛いのだから!
なんて言ってみたいものだ。
実際私の顔は中の下…いや、下の上か?だからメイクしないとお外に出られたもんじゃない。体型は可もなく不可もなく。どちらかと言えばあと少し落とした方がいいくらい。声も、仕草も可愛いとは思えない。
可愛いものは好きだけどそれになりきれていない感じ。「かわいい」のではなく、「可愛い」という感じ。
いつからこんなに自己肯定感が低くなってしまったの?いつから「かわいい」になりきれなくなったの?あの子はもっと「かわいい」のに。
考えると、私が一番可愛かったのは小学校低学年くらいの頃。
「cute!」なんて英字で書かれた今となってはだっさいTシャツ。クラスで一番「かわいい」と言われていた子が着ていて駄々こねて買って貰ったのをよく覚えている。大事なのは素材なのに。
それを着て外に出て自分の「可愛い」をひけらかそうとしたら雨が相反して降ってきた。転んで、泥だらけになった。せっかくの「可愛い」お洋服が見るもの無惨な姿になった。どうでもいいやと思って水たまりに飛び込んだ。可愛さのかけらもない行動だった。
「cute!」の文字も見えなくなって顔も泥だらけだったけど、それでも、
もしかしたら、あの時だけは、誰かの殻をかぶったのではない、私だけの「かわいい」で全てが満たされていたのかな。
「さぁ冒険だ」
今日も変わらずコンビニで適当に買ったつまみと共に酒でも飲んで適当に寝ようとした。ただ、今日はいつもよりもその時間が遅い。
今、いとこの子供をうちで預かっているのだ。なんでもこの子の妹さんの方が入院中らしく、そちらの付き添いに両親が行かなくてはならないそう。せめてもの協力だ。
俺は前文でお察しだと思うが奥さんも、ましてや彼女なんて居ない。そのため一人で面倒を見ているのだがそれはそれは手こずる。それでも子供がゲームを持っていて助かったと思った。やっているゲームはRPG。将来の夢は勇者なんだと。
飲むかと冷蔵庫を開けると酒のストックがない。ちょうど昨日切らしてしまったのだ。仕方がないのでつまみだけは食べるかと準備をする。
「おじさん…。寝れない。」
惣菜を電子レンジで温めていたところ子供が起きてきてしまった。まてよ?子供と共に車でドライブをしつつ、酒を買って帰れば一石二鳥では?
「じゃあ、夜のドライブに行こうか。さぁ、冒険しに行こう。」
「なにそれ!たのしそう!」
目を宝石のように輝かせている姿を見るとさっきの考えが恥ずかしくなる。子供心を利用して酒を買う。まったく酷い大人だもんだなぁ。
冷えないようにコートを着させ車に乗って走り出す。
「おじさんおじさん!窓開けてもいい?」
頷くと窓を全開にして外に顔を乗り出す。シートベルトはしているしと少し見逃してやる。なんでもその笑顔はどの星より輝いていたから。
しばらくすると疲れて寝てしまった。まったく助手席で寝るなんて彼女に嫌われるぞなんて冗談混じりに思いつつコンビニにたどり着く。
空気が澄んで雲一つない夜空を見上げる。この子くらいの時は俺もこの瞬間は冒険していた。冒険心を無くすなんて勇者失格だな。そう思いながら酒ではなくサイダーを買う。これはふっかつのくすりだ!これで冒険を再開しよう!なんて思いながら。
「一輪の花」
「あの子って高嶺の花よね。」
もっと褒めてほしい。私の花は素晴らしいのだから。
この世界の人々はみんな「花」を持っている。複数の人もいれば、一輪だけの人もいる。勉強の花。スポーツ選手の花。大金持ちの花。
最初はつぼみ。でもその才能が咲くと花も同じように咲く。才能が花開く。
基本的に複数花を持っている人にばかりみんな寄りつく。
残念ながら、私はどの中でも例外で花を持っていない。でも、今は一輪持っている。私はこの花の名前を知らない。でも、名前がないということは名もなき才能。なんだかすごそうじゃぁないか。
私のお友達がくれた一輪の花。その友達はそこまで凄くもない花ばかりだったけれど私にくれたのはありがたい。彼女はこの花の凄さをわかっていない。
私の花は世界一なのだ。
花が腐った。訳がわからず友達に問い詰めた。気づいたんだ。私の周りにいた人々が全員持っていた花は口車の花。乗せられた。一輪の花達は私の性格も共に腐らせたのだ。
………
口車は口先だけの言葉という意味だったはず…。
「夜空を駆ける」
家族がみんな寝静まった夜。誰も起こさないようにそっとドアを閉める。
今日は二月の満月。スノームーンだ。
家の庭に立つとこの時だけ田舎に生まれてきたことを感謝する。電灯もなんにもないから透き通るような夜空がそこには広がっている。風で木に積もった雪が落ちてきているのかな。星が落ちてきているみたい。
星のかけらは私に向かって降ってきて体温を奪ってゆく。マフラーくらいはしても良かったかも。
夜空の中を駆けれたらどんなに素敵なのだろう。気づいたら月の近くに行こうと走り出していた。近くになんて行けないのに。
それでも、今の私の鼓動は身体中を駆け巡っている。
「手紙の行方」
私はよく手紙を出す。友達にも自分宛にも。
自分宛に出す手紙というのはまぁ、いわば日記みたいなもので、楽しかったこともあれば、誰かの愚痴、辛かったこと、考えたことなど様々。
特に精神的にきている日々が続くとよく書く気がする。誰かに相談する行為は基本的に苦手なので紙に気持ちを吐き出す。でもその手紙は基本的に読み返すことはなくて、溜まりすぎたら燃えるごみとなっている。
私のあの気持ちの数々は一体どこへいってしまうんだろう。