木枯らし/熱燗で
木枯らしのような強い北風
の吹く日、退勤後手を擦り
こんな夜は酒が飲みたい、
と通い慣れた居酒屋の暖簾
をくぐると暖かいざわめき
と酒の匂いが満ちて一人
だが寂しさは感じない。
熱燗と、と言いつつ今日は
どんな魚が上がったかいと
尋ねると、今日は良い型の
鰤が入ったと大将の声がし
た。
任せるよとコートを脱ぎ、
カウンターの席に当たり前
のように座れば、ほんわり
と肩の力が抜けて、運ばれ
てきた徳利とぐい呑みで、
おつかれさまと一人ごち、
ふうふういってすする酒が
胸を温かく流れていくのが
私の楽しみだ。
日々ぐったりするまで働く
ことも当たり前の国では、
同じような時間を過ごす人
は少なくないだろう。
何時まで、が空虚な時間の
うら寂しさはひとり酒では
晴れないな
という夕べである。
美しい/雪中の馬
ユルリ島の白馬たちが
雪の上で立っている姿は
海風に負けない強さと
生き抜く美しい魂を持っている
断崖の島に残された白馬たちは
無人の地で
雪を掘って草を食べる強さと
自立を持っている
冬のユルリ島は白い城
今日も人を寄せ付けない
4頭の白馬たちだけが住んでいる
隔絶された島
この世界は/人の世界で
陽の当たる輝きは
コントラストの影を連れて
ふたつの世界をかたどる朝(あした)へ
花の季節の不安定、
若さが作る無軌道と夢
風に吹かれた大人への初め
強烈に照りつける光と輪郭
カットの角強く表れ
嬉しさと悲しさを迷う季節
枯葉が円を描く様
大人が愛でる風景に
色とりどりの生き様を思う
寒さ厳しい季節では
ストーブに手をかざし
ケトルの湯気に思い出映し
椅子に座って膝掛け乗せて
巡る世界の表裏
光はのぼり暮れていく
いつの間にか眠ってしまった
どうして/問う答えは明日がない
寒風吹き荒び瞼を叩く。
足は痺れ覚束ない足取り
で進むのは、山中の神社
へ向かう道だ。
どうして、と問うことは
ことごとく散らす事が
ようやくできて、
肺は自由の空気に晴れて
両腕も解放している。
それなのに空は荒れて、
唇から熱を奪おうと、雪
の礫で顔を激しく叩く。
足は凍り、辿々しく踏ん
で、長い道程を明日へと
ようやく石段の麓へ辿り
着いた。
手摺が頼みの急な石段は
、どうしてと問う答えの
無い、明日を捨て去って
ゆこうとする気持ちを削
ぐかのように、雪がまた
待ち構えている。
雪が覆う石段を一歩、
また一歩と牛歩の如く
登っていくが、滑る。
かじかんだ手が貼りつく
手摺を頼りに登る石段は
、本当の自分が求める事
を試されているのだろう
か。
本当の自由とは、何かを
、受け入れた先にあるの
かもしれない。
苦難を、悲しみを、全て
。
夢を見てたい/イマジナリーな声
落ちる感覚のあとに辿り着いた森に、細い道が登り坂で緩くくねっている。
遠くから声が聞こえた気がして、目を細めて道の先を望むと、大樹が両翼を広げて、遠くから呼んでいる声が届いた。
ーヤ、ヤット、ト、キタカ。
ーサ、サアア、コチラ、ラ、ニ
カサ、と足元の草の音。呼ばれるままに一歩一歩進むうちに樹の根本が見えてきた。
森から開けた大地に広く根を張る樹から、空に向かって放たれる光が見える。
惹かれるように駆け出した私は、思い出した。遠い昔に出会っていた存在、懐かしい気配を纏っている存在を。
意識の中に表れ、話す相手の姿。
兄のような、いつも側に感じた存在と時々話していた幼い日の、遠い記憶が掘り起こされる。
辿り着いた幹に触れ、何度も撫でた。
あなたは居たのね。本当に居たのね。
涙が落ちた、愛おしいという感情に近い、思いが溢れ、
タイマーの音色が聞こえた。
私は軽い頭痛と目眩を感じて、
鳴っているメロディをオフにした。
触れるスマホの固さが、夢だと告げた。
私の頬を涙が流れていた。
このまま見ていたかった。
時間を超えてやっと見つけた便りが、消えてしまった。
何故今朝なのかは分からないけれど、温かいぬくもりに触れていた幸せが、夢の中で泡が膨らむように表れたのを、離すのが辛くて、少しだけぼんやりしたあと、
諦めて起き上がった。
今日は水曜日、まだ平日だから出る支度しなくちゃ。