ストック

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8/11/2023, 9:34:59 AM

余命宣告を受けた。
あと3ヶ月で俺の人生は終点に辿り着いてしまうらしい。

最初は受け入れられなかった。
俺はまだ17歳だ。
憧れのキャンパスライフも、酒の味も知らない。ギャンブルだって1回くらいやってみたかった。
悔しさと恐怖から俺は荒れた。
見舞いに来てくれる友人たちを罵倒し、見舞いの品を床に叩きつけたこともあった。
友人たちは、当然ながら段々俺から離れていった。
ただ一人、彼女を除いては。

俺の病室を訪れるのが家族と彼女だけになった頃、俺は人生の終点をようやく受け入れつつあった。
彼女とは思い出話をすることが増えた。
初めて会ったときに一目惚れしたこと、思いきって告白したときの彼女のはにかむような笑顔、初めてのデートで出かけた水族館、初めて唇を重ねた花火大会の夜…
話ながらいつの間にか流れていた涙を、彼女はそっと拭ってくれた。

ある日、俺は無理を言って外出した。どうしても欲しいものがあったからだ。
夕方になると、いつものように彼女が見舞いに来てくれた。
俺は彼女に綺麗にラッピングしてもらった小箱を渡す。
彼女は驚きながらも箱を開ける。中にはピンクコーラルをあしらったブレスレット。
「付き合って1年のお祝い、できそうにないからさ。先に渡しとこうと思って」
彼女は俺の手を握り、涙を流した。

そして、俺は今、人生の終点に辿り着いた。
未練がないといったら嘘になるが、それでも彼女に出会えただけでも幸せだった。
彼女が棺に入れてくれた翡翠の指輪を嵌めて、俺は人生の終点から彼岸への橋を渡っていった。

8/10/2023, 5:50:35 AM

いつも頑張っているあなたへ。

昨日も今日もお疲れさま。

どうしたの?なんだか落ち込んでいるように見えるけど…。
…そっか。仕事で失敗しちゃったのか。
とりあえず、ココアでも淹れようか。

…少しは落ち着いたかな?
いつも人いちばい頑張って仕事してるんだもん。
たまには失敗することだってあるよ。
完璧な人間なんていないんだから。

え?「でもミスなくやってる人だっていっぱいいる?」
そっかぁ。人のこと、気になっちゃうことだってあるよね。
でもさ、私はあなたほど努力して真摯に向き合ってる人は見たことないよ。

そんな毎回、上手く行かなくたっていいよ。
だって、あなたはいつも頑張ってるじゃない。それは私が誰よりも知ってる。
だから自分をそんなに責めないで。あなたは本当に頑張っているんだから。
頑張ることって誰もができるわけじゃないよ。


ほら、今日は月が綺麗だよ。ベランダに出て、ちょっとだけ眺めてみない?
…優しい光だね。
はい、ハンカチ。泣きたいときは泣いてほしい。泣きたいのに泣けなくなっちゃう方が私は怖いから。

いつも「明日が来るのが楽しみ」って生きられればそれは幸せだろうけど、そんな人ばっかりじゃない。
努力家で何にでも一生懸命で繊細なあなたが、私は好きだよ。

8/8/2023, 11:01:23 AM

「貴女のことは蝶よ花よと育てたんだから」
私の母はことあるごとにそう言う。
今でこそ苦笑いして流せるけれど、子どもの頃の私がどんなことを考えていたか、母は知らなかっただろう。


食事はいつも決まった時間に家族揃って食べる。
だから、私は遅くまで外に遊ぶことはできなかった。

身体に悪いからって買い食いは禁止。
身体に良いおやつは貰っていたけど、私はカラフルな駄菓子が輝いて見えた。


高校生になって通学時間が大幅に延びた。
遅くまで部活に励んで、帰りは皆でコンビニでアイスや肉まんなんて買ったっけ。
初めて買い食いしたソフトクリームの味は、大人になってもまだ覚えている。
部活がない日も「今日は臨時で部活だから」と嘘をついて、放課後飽きることなく友達と話をしていた。ドラマやマンガにゲーム、時には恋愛話で盛り上がるのは、今までに読んだどんな感動的な本よりも貴重な時間に思えた。


母にとっては「蝶よ花よ」と育てることが愛情だったのかもしれない。
育ててくれたことはありがたい。
でも「蝶よ花よ」以外に「イルカのように波に乗って」という生き方もあるって認めてほしかったな。

8/7/2023, 1:11:11 PM

15歳の誕生日、私は神への生贄として捧げられる。

この村で巫女として生まれたときから、私はそれはそれは大切に育てられてきた。
上等な着物や他の人々とは違った豪勢な食事。
家族も村人たちも、私に恭しく接してくれる。
幼い頃からずっとそうだったから、私は疑問にも思わなかった。

12歳になったとき、「あなたはいずれ龍神様のお嫁さんになるのよ」と言われた。
その言葉が意味することをそのときの私は理解できなかった。
しかし、子供心に「とても名誉ある役割なんだ」と誇らしく思った。

14歳になったとき、私は書物でその言葉に真意を知った。
龍神様に嫁入りするということは、私は生贄になるということ。
人々が私を大切にしてくれたのは、私が神様への供物だったから。

それを悟ったとき、静かな諦念とほんの少しの使命感。
すべては最初から決まっていたこと。私は15歳までしか生きられない。
でも、私が生贄になることで村に安寧がもたらされるのなら、それでいい。
それは私にしかできないこと。だから、私は運命を受け入れる。


15歳の誕生日を迎える1週間前の夜、幼馴染みの男の子がこっそり私を訪ねてきた。
小さい頃いつも遊んでいたっけ。
これが最後になるかもしれない。私は彼と話をしようとした。
窓に手を伸ばすと、彼の腕が私の手を掴む。
驚いてしまった固まってしまった私に、彼は言った。
「一緒に村を出よう」
彼の言葉に私は更に驚いた。
村を出る。
そんなことは考えたこともなかった。15歳より先のことなんて考えたこともなかった。
「こんな風習で君がいなくなっちゃうなんて嫌だ。だから、一緒に村を出よう」
彼が手を伸ばす。

私は彼の手を――。

8/6/2023, 2:25:55 PM

太陽には2つのイメージをもっている。

まず思い浮かぶイメージは「恵み」。
植物を育てるのには、水と同じくらい太陽の光が欠かせない。
植物が育つから、私たち人間も含めた動物たちは命を繋ぐことができる。
また、太陽を「生命の創造者」として信仰の対象とする「太陽崇拝」が古代文明ではあったという。
また、現代でも「ご来光」という形で、日の出をみることで様々なご利益があるとされている。
古代でも現代でも、太陽は私たちの生命や希望に恵みをもたらしてくれるものだと私は思う。

もうひとつのイメージは「孤高」だ。
太陽は恵みを与えるが、自らに誰も近づけることはない。
ギリシャ神話のひとつ「イカロスの翼」を初めとして、太陽は自分に触れようとするものを拒んでいるという印象がある。
また、私たちは太陽の恩恵を受けているにも関わらず、その姿を直視することはできない。

他者に「恵み」をもたらしながらも、他者を拒み「孤高」を貫く太陽。

眩しすぎて、近づけない。
ほんの少しでいい。光を和らげて、あなたに感謝を伝えたい。

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