父さん、ありがとう。
あの街から私を助け出してくれて。
7年と17年、私は本当に幸せだった。
父さんは、世界一の父さんだよ。
父さん、いかないで。
私、父さんにまだ何も返せてないよ。
ずっと父さんと一緒に居たかった。
父さん、ごめんね。
優しい父さんは、復讐なんて望んでないかもしれないけど。
でも、私は決着をつけにあの街に行く。
この道の先の、霧の街に。
愛してるよ、父さん。
~ SILENT HILL 3 20th Anniversary ~
刺すような日差しを避けるように、街路樹の多い道を貴方と並んで歩く。
風がさわさわと木の葉が揺らす。
他愛ない話をしながら、二人で並んで歩く。
この道が永遠に続けばいいのに。
私は密かにそう願う。
そんな願いが叶うはずもなく、道は終わり目的地に着いた。
「おはよう!」
貴方は校門に立つ私の親友の姿を見かけると、私に「それじゃ」と早口で言って彼女の元に駆けていく。
貴方は彼女と手を繋ぐ。彼は私には見せない嬉しそうな笑顔を彼女に贈る。
彼女は私に3人で教室に行こうと誘うが、私は適当な理由をつけてその場に残る。
貴方と彼女は笑い合いながら、校舎へと入っていく。
日差しが立ち尽くす私を刺す。
顔を上げると、窓越しに見えるのは煙草を呑む貴方の姿。
雲ひとつない青い空の下、紫煙がまっすぐに空へ上っていく。
まったく、皆が貴方を待っているのに、いつまで休憩してるつもりなんだろう。
文句のひとつでも言ってやろうかと、席を立って窓に近づく。
窓に手をかけ、貴方の顔を見たときに初めて気づいた。
貴方の瞳から一筋の涙が流れていることに。
…ああ、そうか。
今日はあの日からちょうど1年。
私が、この世界に、貴方の前にいられなくなってしまってから1年経った日だ。
黒い喪服を着た皆は、貴方のことを探してる。
貴方は戻らずに、一人で煙草を燻らせている。
ごめんね。貴方を悲しませてしまって。
ありがとう。そんなに私のことを想ってくれて。
姿が見えなくても、声が届かなくても、私はずっと貴方の幸せを祈っているよ。
初めて出会ったその瞬間から、貴方のことが気になって仕方がなかった。
気がつくと、常に貴方を目で追っていた。
貴方と過ごす他愛ない日々。貴方は気づいていなかったかも知れないけど、私にとっては特別な日々だった。
そんな日々は突然終わりを迎えた。
貴方は私たちを裏切って、私の前から消えてしまった。
私たちは貴方を追った。仲間としてではなく、敵として。
貴方と私は久しぶりに向かい合っていた。
互いに銃を向け合いながら。
貴方と私はほぼ同時に引き金を引いた。
私の放った銃弾は貴方の胸を貫いた。
同時に、貴方の放った銃弾も私の胸を貫いた。
胸を押さえながらゆっくりと倒れる貴方。
私はゆっくりと貴方に歩み寄り、貴方に折り重なるように倒れる。
紅く染まった貴方の手に、手を重ねる。
「やっぱり貴方だったんだね」
互いの血で紅く染まった手。小指に絡み付いた紅が、私たちを繋ぐ、赤い糸。
夏(初夏の方が適切かも)といえば、蛍を見に行ったことを思い出す。
小川と呼ぶにも小さな清流で淡い光がいくつも浮かんで明滅する様は、月並みな表現だけど儚く美しかった。
儚いものは、どうしてあんなに美しく見えるんだろうか。
年に一回花を咲かせ、すぐに散ってしまう桜の花。
晩夏になると聞こえだし、短い秋と共に消えてしまう虫の声。
空からヒラヒラと舞い降りてきて、掌の上ですぐに溶けてしまう雪片。
どの季節にも儚く美しいものが存在する。
そんな美しいものたちに想いを馳せることが出来るだけのゆとりを
ガラス細工のように脆く儚い心に残しておきたい。