ストック

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6/27/2023, 10:34:46 AM

「異世界へ行く方法」という都市伝説が少し前に流行っていたことを思い出した。
やり方は何種類かあって「あるおまじないをして眠って、目が覚めたら異世界にいる」「ある特定の場所で特定の行動をしてから、自分が最もやりたいことを念じながら電車に乗る」「身近なものである呪術的な行為をすると異世界に行ける」などなどバリエーションがいくつもあったことを覚えている。
しかし、その「異世界」がどんなところかは深く語られていなかったように思う。

共通していたのは「やろうと思えばできる方法」であったということ。
そして「異世界から帰ってくる方法は語られていない」ということ。

都市伝説がどうやって生まれるのかは分からないが、広く伝播されるということは、きっと「ここではないどこか」へ行ってしまいたい、ここにはもう戻りたくないという顕在的か潜在的な願望をもつ人々が大勢いたのかもしれない。
そう考えると、なんだかもの悲しい。

まあ、私もその一人なのだが。

6/26/2023, 11:16:52 AM

君と最後に会った日のことは、今でもはっきり覚えてる。

あの日、珍しく君から「今日は神社で遊ぼうよ」って声をかけてくれたよね。
君の家で本を読んで過ごすのが僕たちの放課後だったから、ちょっと驚いたよ。
一旦、家に帰ってから、通学路の途中にある鳥居の前で落ち合った。

僕は君の持ってきたものを見てビックリしたよ。
表紙の文字は難しくて読めなかったけど、植物や花の精緻な絵が描かれた分厚い本。
「それ、図鑑?そんなすごい本、どうしたの?」って聞いた僕に、君は「家から持ってきたんだ。これを持って『森』を探検しようよ」といつになくはしゃいだ様子で答えた。
僕らは図鑑を持って神社の裏にある『森』(今になってみると森っていうほど大きくもなかった)を探検した。「これはきっとイトスギの木だよ」「あれはスイレンかなあ。花はないけど葉っぱの形がそっくり」なんて、まるで偉い学者さんにでもなったみたいだった。
15分もあれば一回りできてしまう『森』を僕たちは2時間もかけて探検した。

『森』から出ると、すっかり夕焼け空だったね。
「そろそろ帰ろう」と言う僕に、君は(今思えば寂しそうに)頷いた。二人の影が道路に伸びる。僕たちは今日の探検のことを話ながら歩いていた(今思えば話してたのは僕だけで、君はうんうんって相づちをついていただけだったね)。

二股に別れた道の真ん中にあるお地蔵さんの前で、僕たちは足を止めた。
僕の家は右の道。君の家は左の道。
「それじゃあ、また明日ね」僕は君に手を振ると、右の道を進もうとした。
「待って」君は僕を呼び止めると、植物図鑑を僕に押し付けるように渡す。
「それ、貸してあげる」
「こんなきれいな本、借りられないよ」
「今度会うときに返してくれればいいから」
「へんなの。明日また図書室で一緒に読めるじゃないか」
「そうだね、へんだね。でも貸してあげる」
「ふぅん…それなら借りるね。あ、明日はこれ持って公園に行ってもいいな。何か花が咲いてるといいなぁ」
「そうだね。お花、咲いてるといいね」
「よし、じゃあ明日は公園で探検しよう。じゃあ、また明日ね。バイバイ」
「バイバイ」


それが君と最後に会った日になってしまった。
その夜、君の家は火事になって、君の家族も君も、煙になって高い高い空へいってしまった。
君は、今日が僕と最後に会う日だって知ってたんだね。


でも、最後の日はその日じゃないんだよ。
ずいぶん待たせちゃったけど、僕ももうすぐ、空の向こうにいくよ。
すっかり日焼けしてしまった植物図鑑を持って、君に会いにいくよ。

6/25/2023, 11:10:25 PM

「繊細な花」という言葉から、真っ先に貴方のことを思いついた。
貴方は「繊細でもないし、まして花なんてガラじゃない」って笑い飛ばすだろうけど。

貴方はいつも皆を勇気づけ、皆も貴方を頼りにしていた。
どんな困難なことも、貴方はいつも先頭に立って飛び込んでいった。
誰かが困っているときや誰かが貴方を頼ってきたとき、貴方は躊躇いなく手を差し伸べた。

でも、
誰が貴方を勇気づけるの?
誰が貴方に手を差し伸べるの?
誰が貴方の支えになるの?

一度、酷く疲れた顔の貴方を見た。
まるで、触れたら折れてしまいそうな、繊細な花。
臆病な私は貴方を手折ってしまうのが怖くて、声をかけられなかった。


あのとき、声をかければよかった。
あのとき、貴方を抱きしめればよかった。
あのとき、「無理しないで、一人で抱えないで」って言えばよかった。

そうすれば、貴方は今も私の隣で一緒に笑っててくれたのかな。

6/23/2023, 1:21:14 PM

大人になって、子供の頃は見えなかったものがたくさん見えるようになった
背だって伸びたし、難しい本も読めるようになったし、知識も増えた。
周囲も大人で、大人の気遣いをしあって深く傷つくようなことも少なくなった。
子供の頃に憧れてたものは、概ね手が届くようになった。

一方で、子供の頃だったからこそできたこともたくさんあった。
本やゲームの登場人物に強く感情移入して、一緒に泣いたり怒ったり笑ったりできた。
良くも悪くも他人の言葉をそのまま素直に受け取れた。
新しいことを知ることは、手段ではなく目的だったし楽しかった。


子供の頃に戻りたいとは思わないけれど、
もっとあの時間を大切にすればよかったなと思うことはある。
子供の頃にこの本を読んでおけばよかった。
子供の頃に大好きだった植物や昆虫ともっと触れておけばよかった。


もう子供の頃には戻れないけど、
子供の頃にやっておけばよかったと思うことを、今からでも挑戦してみればいい。
子供の頃とはまた別の視点から眺めてみればいい。
それはそれで、子供の頃とはまた違った驚きや喜びと出会えるかもしれない。

6/22/2023, 10:32:44 AM

自分では気づいていなくても、世界は刻々と変化している。
自分で気づいたときには、自分の思っていた「日常」は遠くにいってしまっている。

何度も後悔して「今、この瞬間の『日常』を大切にしよう」とその瞬間は思うのに、どうしていつも「日常」がずっと続くと勘違いしてしまうんだろう。

貴方がずっと横にいてくれると疑ってなかった。
そんなわけなかったのに。わかりきっていたのに。

これからは、貴方のいない日常が始まる。

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