クジラになりたいイルカ

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10/12/2022, 10:06:34 AM

放課後____

いつかの日記


廊下の奥から聞こえてくる雑音。黒板の端には日直の名前が書かれ、チョークが少しかすれている。

窓から仕込む淡色の光。木の葉がざわざわし始め、教室に、影をもたらす。青空の下には笑いが耐えない生徒たちが今日もいた。

学校中に鳴り響いた下校チャイムは私の耳をすーっと通り抜けた。誰もいない教室に、クラスメイトたちの残像がかすかに残っている。

私は廊下側のロッカーに背もたれをついズルズルと腰を下ろし、窓の外を見た。風が窓の隙間をうまく通り抜ける。学校の済からすみまで蝉の鳴き声が聞こえた。暑いけどどこか涼しかった。

そろそろ部活に行かなきゃ怒られる。そうわかっていても体は動かなかった。ゆっくりと一度だけ深呼吸をする。


人もない、誰もいない、そんな学校が、教室が、

少しだけ居心地がよかった。


10/10/2022, 12:50:55 PM

涙の理由____

2022/10/10 小説日記


#優しさ
私は小さい頃から「優しい」と言われてきた。昔から友達や家族にずっと言われていれば自覚はする。それに、優しくすればメリットしかなかった。私が優しくするだけで相手は笑顔になるし、私も笑顔になる。だから優しくするのは嫌じゃなかった。


#我慢
中学生になって「我慢」することが増えた。というか、幼い頃は我慢しなくても大丈夫だと思っていたからだ。でも、中学生では我慢するほうが優しいと言われる。自分の意見を我慢したほうがうまく行く。相手の言葉が矛盾していてムカついても我慢する。だから我慢するのはしょうがなかった。


#しょうがない
中学生になって「しょうがない」と思うようになった。あの子が私の悪口を言っている。でも、そうなるのは私が無意識に彼女を傷つけたからだ、しょうがない。あの子の短所は人を傷つけるけどそれは大きな長所にも変わる、しょうがない。だから自分もしょうがないと思われたかった。


#怒り
中学生になって「怒り」というものがほぼ消えた。人の短所ばかりではなく長所を見るようになったからだ。それに、どんなに嫌な思いをしても「我慢」できたし「しょうがない」と思ったんだ。自分は今でも人に優しくできているし怒りなんてほぼない人間を演じていた。だから安心していた。


#涙
「優しさ」「我慢」「しょうがない」「怒り」
全部全部、それを涙に変えるようになったのは、
いつからだっただろうか。

優しくするのが疲れて夜中に泣く。
我慢するのが限界で夜中に泣く。
しょうがないとわかっていても夜中に泣く。
溜め込んだ怒りが涙となって夜中に泣く。

週に4回は泣くようになった。
どうしてこんなふうになってしまったんだろう。


















10/9/2022, 11:40:40 AM

ココロオドル____

一昨日、ディズニーランドへ家族と行った。

なぜかあまり、楽しくなかった。反抗期とかそういうのではなく、ただ単に楽しくなかった。楽しかったのは乗り物に乗っているときだけ。それだけ。

父は計画通りに行かずにイライラしていた。母は、そんな父にイライラしていた。妹は、疲れ果てて両親に気を使い、あまり喋らなかった。そんな三人をみて悲しくなった。

別行動になったとき、父といれば母の愚痴を聞かされ、母と妹といれば父の愚痴を聞かされ。上手にはけ口になっていた私は心の中からなんとも言えないぐちゃぐちゃで黒い感情ができた。でも、普段おしゃべりな妹が二人の機嫌を損ねないように最低限、話さない姿を見るとその感情は小さくなった。大きくなったり、小さくなったり、繰り返されながら一日を過ごした。





私が一番好きなのは、帰る瞬間。おかしいかもしれないけれど昼間のワチャワチャした気分より名残惜しく切ないほうがなぜか好きだった。最後の乗り物のために列に並ぶときから門をくぐる瞬間までが私は大好きだ。


そして、ディズニーランドから出ようとしたとき、『楽しかったなー』と口々に両親は言う。本当に?どう見ても楽しそうじゃなかったけど。妹にまで我慢させて。とは口が裂けても言えなかった。なぜなら妹が笑っていたからだ。夜になり始めてから気分が上がったのか、いつものおしゃべりになり、いつものようにニカと笑っていた。妹の表情を見なかったら、私の黒い感情は溢れ出ていたと思う。でも、飲み込んだ。『ねー、本当に楽しかった!』と大嘘をついた。でも、そう思い込もうと思った。

帰りの車で私は昔のことを思い出した。私が小学生の頃は、こんなんじゃなかった。あの頃に戻りたいと心の底から思った。でも、こうなったのは私のせいだ。私が成長したから。きっとこうなった。わがままだから。

でも、私が妹と同じ年齢の頃は楽しかった。妹には、昔の私と同じように楽しんでほしいというのが今の一番の願いだ。

窓から星をみて願おうとしたけれど、そんなのに頼るのはやめようと思った。せめて、次行くときは私のわがままは全部抑えて、妹も両親も心からたのしめる日にしよう。そんなことを思う私は偽善者だろうか。

10/8/2022, 1:16:08 PM

束の間の休息____


小説日記


今日の朝は、おかしな夢で目覚めた。
おかしなと言っても、普通の夢だけれど。



朝起きて、いつものように支度をし、部屋にあった紙コップに入っているレモンティーを飲み干す。少し、口の両端から冷たい液体が溢れた感覚まであった。遅刻しそうになった私は、焦って家を出た途端、目が覚めた。


時計を見ると家を出る1時間前だった。私は、唐突に安心感に包まれ、ため息をつく。よだれがたれている。いつもは、周りから自分を見ている夢なのに、今回は自分自身からみている夢だった。私の夢はいつも非現実的だったため、普通の夢を見るのはとてもおかしなことだった。自分自身から見ることも。


ベットから重い体を起こして夢と同じように準備をした。そして、レモンティーが飲みたくなりペットボトルを冷蔵庫から取り出した。そして、遅刻することなく、家を出た。外は雪が降っていた。やっと暖かくなってきたというのに今年で3度目の雪だ。もう、冬は懲り懲りだ。早く春になってほしい。
学校に行き、朝読書が始まった。やっぱり、いつもより寒くて、私は制服の上からウィンブレをきた。指先まで袖を伸ばして、小説を開く。


主人公の茜は信じられなくらい強くて我慢ができる人だった。限界を超えた茜は登校中に、大嫌いなクラスメイトの前で吐いてしまう。そのクラスメイトと公園へ行き、学校をサボろうとしていた。マスク依存症の彼女は今日は、マスクを忘れてしまったため、気分が悪くなったと言っていたけれど、それだけじゃないと思う。だって、今までたくさん我慢してきた。それが溢れてしまったんじゃないだろうか。もちろん、マスクのせいでもあるが。


結局、この先茜はどうなるのかわからないまま、チャイムが鳴り響き私は小説を閉じた。






いつも、思ってしまう。
小説を読んだり、映画やドラマ、
アニメや番組を見たりすると思ってしまう。

『いいな』と。


知ってる。知ってるよ。変だって。おかしいって。でもね、羨ましいんだ。

茜は父親と妹とは血が繋がっていなく、血の繋がりがあるグレれた兄とパートで忙しい母。妹の子守や家事を手伝っては家族のために自分の時間を削って手伝いをしている。


そんな、茜が羨ましいと思った。

私の家族は理想的過ぎる。優しく、ときには厳しい母。面白くてたくさん遊んでくれる父。可愛くて生意気な妹。恵まれすぎてる。それに比べて、勉強もスポーツも家の手伝いも、何にもできない無能な私。家族にばっかり迷惑をたくさんかけて謝罪と感謝の気持ちしかない。


ときどき、私はこの家族と本当に血が繋がっているのかと疑いたくなる。だって、両親も妹も私から見たら完璧で、ここにいていいのかと不安になってしまう。


だから、羨ましいんだ。茜が。家族のために頑張れて勉強もできる茜のほうが私の家族にふさわしい。それに、ダメダメな家族なら私もダメダメでいいんじゃないかなって思えたんだ。周りが駄目なら自分も駄目でもしょうがないと思われるんじゃないかな。でも、きっと私は茜の立場になったら、今の私が羨ましいんだろうな。結局、無いものねだりだ。きっと、家族がダメになったら私がしっかりしなきゃと思い、今よりもっと強くならなくてはいけないと思う。だから、私も茜のような家族がいれば強くなれるのかな、なんて無責任なことをいつも思っている。

今から家の手伝いや勉強する努力をすれば、私も強くなれる。でも、できない。手伝いをしても、逆に仕事を増やして迷惑を掛けるだけだ。勉強をしても、全く上達しなくて、気がつくと机の上で寝ていることが多い。hsp体質の私は学校に行くだけで疲れ果ててしまう。

『やろうとしない』のか、『できない』のか私にすらよくわからなかった。


それでも。全部わかったうえでも。

やっぱり『いいな』と思ってしまう。忙しくて強くあり続けない環境にいる茜音が。
そんなふうに思える自分はどれだけ幸せで恵まれているかがよくわかるなといつも思い知らされる。

10/7/2022, 12:01:43 PM

力を込めて___


小説日記



「先生は、どうして時々めがねを外すんですか?」

「どうしてだと思う?」

「誰の顔も何も見たくない、とかですか?」

「まぁ、そんな感じ」

「イルカは?どうしてめがね、つけないんだ?」

「嫌いだからです」


それで担任の先生との会話は終わってしまった。



私はめがねがあまり好きではない。というか、視界がはっきりしているのが嫌なだけだ。全てがくっきり見えると人の顔や目線がどんなに遠くからでもわかってしまう。そんなの怖いじゃないか。ぼやけてる世界のほうが楽に生きられる。その方がいいに決まってる。だから、私はコンタクトもめがねもつけない。何も、見たくないから。



「めがね、つけてみれば?」

そう顧問でもあり担任でもある先生に言われたのはコンサート直前だった。今回で三年生は引退する。私にとっては人生最後の楽器を吹く日かもしれない。そんな日にあんなくっきりとした世界で吹くのは怖かった。大勢のお客さんを相手に。

「でも、なんか怖いですし…笑」

「俺の指揮だけ見とけ。怖くなったら外せばいい」


眼鏡をつけてステージに上がる__



正直、とても怖かった。上がった瞬間、お客さんの目線がこちらに来ていると今やっとわかった。席に座り楽譜を開ける。スポットライトの光がいつもより眩しく感じて思わず目を細める。私は怖さと緊張で手が震える中、始まるギリギリまで眼鏡を外そうか迷っていた。

音がなり始めた。


眩しくて眩しくて、怖くて怖くて。必死に曲にしがみつく。なぜか涙が出てきそうだった。だけど、このまま下を向いて終わりたくない。その思いが一層体の中で駆け巡り私は顔を上げる。


__ゾクッ

先生と目があった瞬間、鳥肌が立つ。いつもとは違う力強さに少しだけ恐怖を覚えた。でも、それと同時に安心した。いつもこんな表情をしていたんだ。それからはずっと先生の指揮を見ながら力を込めて演奏した。



曲が終わると会場が歓声に満ち溢れ、薄暗い観客席から拍手が聞こえた。あんなに怖かったスポットライトの光ももう、なんとも思わなくなった。先生の背中がはっきりと見える。その背中はとても大きく見えた。隣のユーホニアムや同じパートのホルン。その一つ一つが輝いている。

ただただとても綺麗だと思った。


「先生、ありがとうございました」

私は力を込めてそう言った。


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