Shiro子

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8/1/2023, 12:46:32 PM

明日、もし晴れたら。
今更ではあるけれど全体的に暗め・ちょっぴり下の話が入ります。直接的では無いけれど、逆に直接的じゃないので嫌な人も多数いると思います。
苦手だったらごめんね。
お気に入りの服とスキニーにこんにゃく落とした。

夢だな、と気づく。
俺の姿は変わりないのに、アイツは子どもだった。
そんな同居人の朝は早い。
年数が経ちすぎて悲鳴をあげてきたシングルベッドから起きたと思えば、俺を置き去りにしてキッチンへと向かっていった。夢だと分かったのはアイツが子どもの姿だったからであって、その他は特に現実と変わりはなかった。ただ脳は夢の中でも寝ぼけるのか、妙にぼーっとした気分で身体を起こして目を擦っていると、やがて良い匂いが漂ってくる。
パンにケチャップとマヨネーズ塗りたくっただけのやつと梨と多分コーヒー。
俺も自分の部屋から抜け出しアイツの元に近づけば大正解で、オーブンに紅白の乗ったパンを入れている最中だった。夢の中だから当たったのか、でも現実でも割と当たっていたけれど。そんなことを考えつつ、手伝いもせず俺は椅子に腰掛けた。
腹は減っていない。けれど食欲はある。出された朝ごはんを手っ取り早く食べてしまえば何故かアイツは驚いていた。急いで黙々と食べ始めたアイツの姿をじっと目を凝らして見てみた。コーヒーが進んでしまった。堀も深くない、手も骨張ってない、髪が少し短い。見た目的に既に成長期は終わっているからか身長は変わっておらず、ほんの少しだけ俺の方が高かった。高校生の時か、或いは。
「今日は何処行こうか」
一通り支度を終えた後、アイツはそう言った。いつも通り少し目を伏せがちに問うてくるので、俺も適当に行き先を指定してやろうかとも思ったが、そもそも家の外は存在しているのだろうかと思い素っ気なく返した。
「何処でもいいよ」
「そう? 前夜祭って言い出したのはそっちなのに」
そういえば今日、何日だろうか。
「お前は行きたいところねぇの」
「特には……いや、海に行きたい」
「ロマンチストかよ。何処の海?」
悪戯っぽく笑い出した目の前の奴に、失言したなと思い知らされてしまった。
自転車を全速力で漕ぐ。
何故か外は土砂降りも土砂降りで、何故か雲はあるのに全体的に明るかった。
曲がっても曲がってもやってくるは坂道、それも上り坂だからすぐに俺の身体は悲鳴をあげた。自分一人ならまだいい。もう一人後ろにしがみついて乗っているからか体重が前にかけづらく、それなのにその元凶は煽ってくるものだから最悪だった。冷たいし、何故か寒くはないけど視界は悪いし、髪は濡れているのに服は濡れていないのが救いだが、逆に言えばなんてご都合主義な。体感三十分後、やっと俺たちは海岸についた。
体感十分で帰ったけれど。
下り坂を猛スピードで滑っていれば今度はアイツがそこに寄って欲しいそこが見たいと言い出すので仕方なくそれに付き合い、順路に戻り、の繰り返し。最早海よりウインドウショッピングの方が長いまであるかもしれない。飲み物が欲しくなれば金が無いからとサイダーを分けて飲み、すぐに飲み干してゴミ箱に捨てた。
結局帰ったのは夕方になる。
疲労困憊で少し横になっていた俺に、アイツは夕ご飯を用意しつつ度数の低い酒を持ってきた。曰く、「前夜祭なんだろう?」と。それを承諾すればまた嬉しそうにあれやこれやとテーブルに広げだす。酒につまみにサラダに肉に、プラスアルファに。
「……いいの?」
「いいのって、何が」
カシュ、と小気味良い音が連続で響いた。
「いつも嫌がる癖に」
「……ご無沙汰だからね、色々と」
「はぁ」
アイツの作る料理は、力が今より無いというだけのデメリットをものともしないくらいいつも通りで、とても美味しかった。
本人には言わなかったがきっと分かっている。
いつも通り、と言ってもそれこそご無沙汰であったし、手も混んでいたと思う。
本当に美味しかった。
「ピアス空けないの?」
なんとなしげに触られた耳がヒリつき、思わず声を上げた。構わず夢中になって触っているアイツの腕を掴みながら俺は溜息を吐く。
「空けない。それにさっき空けられんなくなった」
「それもそうか」
誰のせいだ。
毛布に適当に包まり身体を温めてみれば案外すぐ眠気はやってきた。だがそこまでで落ち着かず、結局諦めてモゾモゾと定位置に移動する。
「明日、もし晴れたら会いに来てよ」
同じく定位置に移動し始めたアイツがそう呟く。
「会いに来てって居るじゃん。ここに」
「まぁ、そうなんだけどね」
「ってか結局なんの前夜祭なのこれ」
「さぁ?」
「さぁってお前」
定位置に移動して数秒後、匂いのせいかうと、と軽く微睡み始める。寒いも無いのだから暑いも無い。二人分の体温に絆されながら目を瞑ると、意識がぼやけていくのを感じた。
夢の中で眠ればどうなるのだろうか。このまま眠ってしまえば明日大変じゃなかろうか。そもそも明日は大雨じゃなかったっけ。こいつどうなるんだろうな。あ、カレンダー見るの忘れた。
お腹の近くに柔い感触を感じ、まぁいいかと俺は全てを投げ出して息を潜めた。

外は雲ひとつない晴天。
鳴り響く五分毎のアラームと、不在着信だらけの電話。
何故か素っ裸で毛布ひとつ、身体中が本当に痛い。
「あーしくった、もうアイツほんと……」
丁度今出発した名古屋行きの特急列車、に乗っているであろう仕事仲間からのスタンプ連打。
鏡を見ればやはり荒らされており、隠しきれない位置に傷跡が二つ。
そして今日は、お盆。
「化けて出るなら今日出ろよ……ってか出張終わったら行くつもりだったんだけど」
もう今日は名古屋へは行かないでおこうと苦笑しつつ、適当にカップラーメンで朝ごはんを済ませて適当に身支度をした。仕事は明日で前乗りで今日行く予定だったというだけで、明日の始発で向かっても間に合いはする。線香も花も今は無いからと手持ち無沙汰に耳を触りながら外に出た。
自転車を全速力で漕ぐ。
随分と軽くなった自転車で海の横を過ぎ、アイツの居るところまで向かった。
コンビニで買った物を乱雑に並べ、夢の中で飲んだ酒を開けて真ん中に置いた。
「この寂しがり、寝坊させんじゃねぇっての」
面倒くさくなって酒を頭から注いだ。
「今日は何処行く?」
深い深い溜息をひとつ。照りつける日差しがどうも鬱陶しくて仕方がなかったが、もう連絡は済ませてあった。元々ここ暫くは働き詰めだったこともあり快く許してもらえたせいで、今日は一日何も予定が無い。
人が横を通り、妙に恥ずかしくなって首元を手で覆い隠した。
「……またウインドウショッピングは勘弁な」
風が吹く。
「はいはい」

7/31/2023, 12:26:34 PM

だから、一人でいたい。
今日バイトの制服を貰ってきて家族の前で着てみた俺に対する家族のコメント
父「キッザ○アで職業体験してる幼稚園児」
母「ウエスト病気」
妹「めっちゃちっちゃいやん」
以上

ネタはパッと思いついたものの何パターンか書いてみてどうも気に食わなかったのでお蔵入りとし、意味の無い文の書き散らしをする。
昨日一昨日のお話が結構反応が良かった、というと反応目当てみたいで嫌だけれど、手放しに喜べてモチベーションがぐんぐん上がるから嬉しいという話がまず一つ。飽きたら辞めるし飽きなかったら続けるし、たまたま繋げようと思って世界線繋げただけで特に設定練ってなかったりするし……というか経験ありまくるとは思うが、一次創作も結局は色んな作品のn次創作の寄せ集めみたいなところはあるので所々に元ネタがあったりなかったり、そんな感じなんだけども。そして長いしさいつも。まぁ何回も鬱陶しいとは思うが飽きない限りは毎日やってるはずなので、暇つぶしくらいに見てくれる人がもし居るのならめちゃくちゃ嬉しい話。
お気に入りとか、してる人居るのかねぇ。最近爆速でハートしてくれる人いるけど、あれは運営さんの粋な計らいとかそういうやつかなぁ。メロスには仕組みが分からぬ。
どちらにせよ感謝感謝美味ヤミ。
ちょっと筆が乗ってきたのでこのまま続けてみる。
Shiro子はHSS型HSPである。診断はまだ無い。
自称である。
故に、感覚過敏である。
デカルトか何かかな?これ。
味覚は無い。視覚嗅覚聴覚触覚はある。
視覚。元々集合体恐怖症なところはあるものの、視覚情報が多すぎると酔う。くらくらする。正月に受験の息抜きでユ○バに行った際、マリ○エリアで既に限界だったけれど、どうしても○リカーに乗りたくて向かったら二時間待ちになった。密室。歩いても歩いても着かない。なんなら部屋抜け出しても部屋、効きすぎてる暖房、前を見ても横を見ても下を見ても上を見ても人人人人おろろろろ。いや吐かなかったが。マナー悪いこと承知でイヤホンつけて音漏れしない程度の大音量で音ゲーして耐えていた。
あと人が船漕いでるところ見ると世界の終わり。
嗅覚。マスクを貫通するは生ゴミの臭い、香りすぎている香水や洗剤の匂い、ナチュラルに汗と水が混ざった臭い。普通にくらくらするし同じく酔う。体育後の制汗剤パラダイスもキツいが、無い方がキツイので慣れようと必死である。
聴覚。多分一番酷い。人の寝息が気になる。呼吸音が気になる。クチャラーなど論外である。修学旅行の時に寝られないとは当然のこと、去年奇行に走りトイレの中で枕持って寝ようとした。少し寝れた。
とにかく無理な音が多すぎるのと、何でもかんでも拾うので大変である。羅列し始めたら本当にキリがない。テストの際は耳栓の許可を貰っているが正直貫通してるので意味を成してないのは秘密。
触覚。吾輩は猫である。背中を触られるのが大の苦手。誰であろうが苦手。手も人によりけり、正直妹でも苦手。たまに不慮の事故でぶつかったりすることもあるが、今日のような生理中だと本当に勘弁して欲しくなる。腹痛い。
まぁでもその生きづらさと引き換えに、物心ついた時から創作に触れている爆アドバンテージを手に入れたので一概に否定はしたくないのが正直なところである。こんな奴でも生きていけるのだから、きっとどうにかなるだろうとは思う。でもこんな奴なので中学の時の親友にまだLINEを送れていない。クソ面倒くさい拗れ方をしている、しているからこれが出来ている、うん、まだ創作で生きることは難しそう。自己分析は好きだし得意だが、それで中二の頃落ちるところまで落ちてしまったのでやめておこうと思う。今の自分が浮かばれない。
さて、ここまで読んでいる猛者は一体居るのだろうかね。俺はいつも自分で書いた短編や書き散らしを一周気に入っている時は二周三周読むが、今日はどうも読む気になんねぇや。読まなくていいよ自惚れ野郎の自分語りなんか。ねっ。
短編書くのにも慣れてきて、序破急も起承転結も何も考えていないけれどオチを作って終わらせることには成功しているのでそれだけは嬉しい。それもかなぁ。でもこれのオチは全く考えてない。
まぁつまりこういうことだ。こんな性格だから、一人でいたい。

嘘なんだけども。基本一人で居たいけれど稀にどうしても人恋しくなるのだけれども。なんなら一番親に甘える時期に妹が生まれた関係でちょっぴり拗らせてるんだけど。拗らせまくってんな。そう、親友に連絡取りたいのも無性に会いたくなってしまって謝りたくって仕方がなかったからで、自分勝手な奴なので。なので、頑張って三週間練って考えた文コピーして今から送ってきます。
ダメだ手震えてきた。ここまで見てる人、もしくは自分がいれば、また短編でもあげてる時フラッと見てあげてくれな。あと自分ならそろそろ英語の宿題に手をつけような。簿記しかしてないぞ。

追記・ちゃんと送った。しっかりパニックになった。返信まだ出しそもそも来ないかもしれないし未読無視されるかもしれないけれど、この行為自体自分の自己満なので、頑張ったと思う。風呂ー!

7/30/2023, 12:35:49 PM

澄んだ瞳。
いつもクソ長いけどよく読むなぁ、と思ったり。あとどうしても地の文から人物から男性ばかりなのでそこが課題。無意識。頑張ろうぜ本当に。
こういうお題大好きの助太郎(16)

「綺麗な目」
「いやそりゃカラコン入れてるから」
なんと的外れな。
そうじゃない、と言いかけてやっぱりやめた。今そう言ったこちらが悪い。きっと、いつか分かる。
シャワシャワと鳴く何か、ミンミンと命を削るセミたち。夏真っ盛りの真昼間。家を出る際に天気予報士は記録的な猛暑なのだと、聞き飽きたことを言っていた。
たまたま置いてあった自販機で買ったアイスもすぐに垂れて原型を留めなくなってくる。それなりのお値段なのになんて勿体ないと思うが、最早丸呑みするしかお値段通りに平らげる方法は無い。大きく一口、それを見た彼も躊躇無く残りを口に入れた。いつもの光景だった。
「やっぱ何か着けた方が」
「いいよ金の無駄。それよか誕プレに振った方がいいって」
「そう、いいならいいんだけど」
こっちが困るんだけどなぁと思いつつ、徐にスマホを取り出して時間を確認した。趣のあるお土産屋の通りにあーでもないこーでもないと難色を示すもう一人が言っていた通り、もうすっかり昼時を過ぎている。早めの昼ごはんをお互い済ましてきたので腹具合的には申し分ないが、観光地と名高いここにしては、この時間帯だと人が少ないように感じる。
「だって今日祭りやってんだもん。そっちに人吸われること見越して今日だから」
「……なるほど?」
やけに落ち着いている彼は良いお店を見つけたのかそちらに吸い寄せられていく。何も言わず。なんとなくいつも姿を追っているのですぐ俺も着いて行った。
硝子。とんぼ玉。切り絵。そういうお店。
ははぁと声を出す俺に彼は睨みを利かせ、冷房の効いた店内へと足を運んだ。今日は夏生まれの共通の友人への贈り物を探しに遠出していた。彼女は女性だから何を贈ればいいかも分からず、この前三人でここに来た際店内を見て回っていたことを思い出したのだろう。伝統だかなんだか知らないが、彼女は性格によらず綺麗なものが好きだった。
好き勝手見て回る彼に着いていく理由もそこまで無い。何か良い物が見つかるかもと思い俺も歩いてみる。
硝子細工にとんぼ玉で作ったパターナイフ、栞、ブローチ。切り絵になると今で言うタペストリーのような物からまた栞、ブローチまで様々だった。だがそうなると折角重くしてきた財布も軽くなりそうな恐ろしい値段になってくる。バイトはしているとはいえ一学生には到底手の届かぬ値段ばかりだ。
何かお探しですか? と女性の店員さんが声をかけてきたので軽く応対しつつ、全て見回った後またとんぼ玉のコーナーに戻った。
ふと、目に留まる物が一つ。
やけに安い商品が並んでいる。
その理由は一目瞭然で、他のとんぼ玉より色が分かりにくく小さく、そして金属製の指輪にひっそりと埋まっていた。他のとんぼ玉に比べれば小さいというだけであり、俺からすれば充分大きい指輪だ。隣にもうひとつあったようだが既に誰かに買われたのか空間しかない。それを手に取り、日向へと持っていて光に当ててみると綺麗な青がそこにあった。
何処が粗末品なのか、心を奪われるくらいには澄んでいるのに。
普段滅多にアクセサリーは着けない人間ではあるものの、なんだかとても好いてしまっては自分の物にしてしまうことにした。
連れの方を見やると丁度会計をしているところだった。急いでサッともう一周し、結局誕生日プレゼントには深い橙色のコップを買うことにした。きちんと硝子できちんとそれなりにする。彼がレジを済ませて店から出た後、俺もレジに並ぶ。
会計を担当してくれた人が突然笑みを零したものなので途中俺が首を捻ると、彼女はこんなことを言った。
「あぁ、ごめんなさい。さっきの青い目の方、お友達ですよね。仲が良いなと思いまして」
「……どうしてです?」
「実はこの指輪の他にもう一つ、黒いとんぼ玉の指輪があったんです。……まぁただの偶然だとは思うんですが。きっと戯言なんでお気になさらず」
ごめんなさいね、ともう一度謝った後、丁寧に梱包された物が入った袋を手渡してくれた。礼を言い外に出る。その意味は分からなかったけれど、仲が良いと言われ悪い気はしなかった。
「ごめん待った?」
「結構待った」
「ごめんて」
二人で軽く笑いつつ近くで飲み物を買い、二人で帰路に着いた。
何を買ったかはお互い言わなかった。俺にとっては指輪を買ったことがバレないので好都合だった。ミルクティーで喉を潤し定期を使う。軽快な音と共に改札を通り、彼のことを待った。彼はいつも電車を使わないので毎度お金を払わなければいけない。
彼の瞳は澄んでいる。わざわざカラーコンタクトなど使わずとも、ずっと綺麗だ。
恋愛感情など持っていないのだけれど、誕生日プレゼントを贈るもう一人も含めてかなり距離が近いのでそんな気持ち悪いことを思っても許される節はある。それに救われている。元々彼の裸眼は色彩が薄いのかして光には弱いが、その分周りのものを綺麗に映し出していた。
俺が青が好きなのは瞳に映る空が堪らなく綺麗だからで、夏が好きなのは空が綺麗だからだ。後輩たちや大人数でわちゃわちゃ遊ぶ際は人もそこに映る。分かりやすく楽しんでいるからこちらまで楽しく感じる。表現こそ気持ち悪いけれど、それだけの話だった。
また軽快な音が鳴る。
やっとかと言わんばかりに小走りに近づく彼に俺は苦笑しつつ後ろを指さした。
「すまん待たせた」
「俺はいいけど後ろの人待たせちゃ迷惑だよ」
派手な音を鳴らす改札機から飛び出た乗車券と、こちらを見て同じく苦笑する駅員さん。「あ」と声を出してまた駆けていく彼を横目に、保護者らしく駅員さんに軽く頭を下げた。後ろに待っていた老夫婦にも、一礼。
顔を赤らめて戻ってくる彼にまた笑みが零れる。
「おかえり。らしくないね」
俺の乗る電車と彼の乗る電車は違う。彼の乗る電車は一時間に二本走れば良い方だから、きっと焦ったのかもしれない。一番線乗り場はここで、俺の乗る路線はそれなりに本数はあるから待っているのに、彼は酷く安堵した様子だった。
瞳の奥には変に色付いた彼の親友。
「アイツに言ったら殺す」
「それ言っちゃあ言ってくれって言ってるようなもんだよ」
一番線乗り場に列車がやってきます。黄色い線の内側に……とアナウンス。
途端彼が焦ったように今日買った袋の中身を漁り始めた。なるほど何か渡したい物があるのかと近くまで近づいて待つ。
「これ」
案の定手渡されたソレは、何処か見覚えのある、見覚えしかない物だった。正確には初めましてだけれどそんなこと最早どうでもいい。息が漏れる。
「誕プレ」
電車がうるさくホームに停止し、聴き慣れた音と共に重いドアが開く。
「お前の好きな青もあったけどこっちの方が似合ってるから」
それじゃあ、と電車に乗る人々に紛れようとした彼を大声で止め、大急ぎで袋の中から取り出した小さいソレを思いっきり投げる。
落とす直前にソレを受け取った彼は一瞬戸惑ったものの、再度響いたアナウンスに気を取られ電車に乗り込んだ。その瞬間ドアが閉まって、ゆっくりと唸りをあげ始める。
仕方ない。照れ隠しにくれてやろう。
名目が無くても貰ってあげたものなのだけれど。冬生まれなのに誕プレだなんて、これまた弄りがいがある。
電車が見えなくなるまでぼおっと見送った後、四番線乗り場まで移動して俺も電車に乗り込んだ。
適当な場所に腰掛けてその透けた袋の中身を取り出してみる。
黒いとんぼ玉の指輪。
レジの人が言った意味が何となく分かってしまった気がした。
後輩に言えばきっと悪気無く煽るだろうけど、それは可哀想なのでやめておくとして。というかそれはこちらにもダメージが来るので。
これとは別に後輩を含めた六人分適当に何か見繕うかと考えつつ、そっと人差し指にその指輪をはめてみた。
本人とは大違いに、びっくりするくらいにこれは澄んでいる。綺麗だ。
お互い安いとはいえ衝動買いするくらいには大切なのだろうか、とふと考え、嬉しくなる。関係が続こうが続かまいが、モノさえあれば思い出は遺る。それを狙っていたこちらからすれば不幸中の幸いだった。
めでたい彼女には伝えてあるが、間抜けな彼にはまだ、というか伝える気は微塵も無かったから。
暫くして俺が乗っている電車もアナウンスと同時にがたんと揺れが襲い、やがて駅を抜け出した。
澄んで汚れてなどいないから怒るんだろうな。
外から鯨の咆哮が聞こえ、びゅうと突風が吹く。
指輪を今一度優しく撫でた後、静かに目を伏せた。

7/29/2023, 11:06:46 AM

嵐が来ようとも。
バイト受かった。一番くじでA賞B賞二枚抜きした。
多分これから絶対悪いこと起きる。だから今日部屋の掃除した。

ある日突然異常気象。大きい大きい台風がやってきたと思ったら、台風一過すらもなく、そもそも台風が過ぎ去ること自体なかった。
風は吹き荒れ、海も荒んだまま忙しない。毎日大雨で止むことを知らないが故に、一ヶ月もしないうちに低い土地は水没しとぷんと音すらも立てずに沈んでしまった。否、周りの音がうるさすぎて気づけば市の一つ沈んでいた、の方がきっと正しい。
どんな傘を使おうが意味が無いから雨合羽が飛ぶように売れた。交通手段なんて徒歩が今じゃ主流だ。自分の家に水が入ったら死も同然だからとホームセンターでは土や袋が飛ぶように売れた。持続可能エネルギーとか自然を使った発電など知ったこっちゃない。ダムは土砂崩れで使い物にならず、風力発電に使うプロペラは折れ、太陽光パネルなんてそもそも日が照らないのでただの置物と化している。
まるで映画だ。しかし映画と違ってしっかり食料の危機に陥っている。不作も不作、海草で食い繋ごうにもまず採りにすらいけない。まだ今は生きていけているが、いつ完全に食べ物が無くなり餓死するかとか、雨の中人同士が争うかなんて誰にも分からないそんな状態がかれこれ三ヶ月続いている。
そんな都合良くいかないのだ。
今更避難所に行こうが、人の醜さくらいしか見ることが出来ない。
台風でお天道様が荒れ始めて二週間を過ぎた辺りで海外に飛んだ富裕層は正解だった。この異常気象は日本国土のみ、あとその周辺の海くらいだからだった。ヨーロッパとかそこらに飛んでしまえばまずその影響は来ない。逃げ遅れた人々のことなど、もう知ったこっちゃないのだろう。
まぁでも、きっと次はそこらになるだろうとは思うが、今はの話だ。きっと仮説が正しいなら、残るべきは富裕層でも貧困層の上澄みでもなく、沈殿部分なのは明白にも等しい。
最近になると停電も始まった。というより停電した都度直してという非人道的なことをやらされている人のおかげでそこまで不便することはなかったが、それももうそろそろ終わりだ。今だってプツプツと途切れているから、こまめにバックアップを取っている。
こんな風に。
天罰か、何かなんだろう。天照大神とやらがまた天の岩戸に隠れたのか。どちらにせよ、台風がやってきて半年いかないうちにここも終わると俺は思う。
スパンが早まってきた気がする。
死んでから評価された、創作で生きた人々
はそれなりにいる。
これが未来の、のうのうと生きている富裕層の奴らに見つかって不思議がられるのは目に見えてる。
教えとくよ。
承認欲求がなきゃここまで続けてない。
じぶんにとってのそうさくはそれしかない。
これは天罰だ。だから自分の中で昇華した。
格好の的だ。
窓が割れようが、足が塚楼が、
食料付き用が盗まれ曜がどうなろうが
別に
嵐が来ようとも
絶対書くのをやめな

7/28/2023, 11:15:44 AM

お祭り。
当方、さっき従姉妹と従姉妹の彼氏さんが来て着付けしたばっかり。彼氏さんからしたら俺は『彼女のお父さんの妹の子どもしかも異性』という、素晴らしく取っ付き難い存在だっただろうが、実際暫く品定めしていたが、めちゃめちゃに懐いてしまった。是非そのまま結婚して欲しい。寿司連れてけ。

「ベビーカステラください。小さい方」
お祭りに一人で来るのはやはりおかしいだろうか。そもそも人混みも特有の匂いも音ですらも苦手なのに来ること自体、おかしい。
ここ最近、妙な全能感にずっと支配されていた。
気が狂っている。狂っているから一人で来ている。そう思った。
もうすぐ花火が上がる。有料で切り売りされているただの芝生には人々が意気込んで座り、買い食いしてはその時を今か今かと待ち望んでいた。あと十分もしないうちに花火大会は始まるだろう。それまでには帰らないといけない。
「すいません、このお面貰えます? あーうん、この半面。色……は、じゃあ黄色と黒のやつで。それです。どうも」
憎たらしいとか、悲しいとか、そうは思わない。昔からそうだったが、その時はまだぼんやりこんな感じなんだろうと想像してそれを行動に移していた。祭りはこれからだ。きっとここに居続ければ楽しいだろう。金魚すくいも射的もある。よく分からないスムージーや良い肉で作った串、ヨーヨー釣り、子どもからお金を巻き上げているであろう胡散臭くて高いカードゲームくじ。一喜一憂する人々。
「ヨーヨー一つ貰えますか。あぁごめんなさい、急いでて。お金だけ渡すんで一つ貰えると助かるんですけど」
光を映さなくなった瞳、汚く染まった爪、ちぎれたヘアゴム。不慮の事故といえばそれまでだ。だからそう思わない。その現場を見ていない。見ていない故に、友達の死に対して何も思わなかった。
ガヤガヤとした空間から抜け出し、暗い道を進む。履き慣れていない革靴はすっかり土で汚れて輝きを失ってしまった。今日初めて着たスーツも上手く着ることが出来ないまま、ネクタイピンどころかネクタイ自体せず念の為持つだけ持っている。
この度はなんて言わない。悲しめないから。友達を消した奴に怒りもしない。
「やぁ、昨日ぶりじゃん」
というか、どうしてもお土産を持って行きたかった関係で葬式はとっくに終わっていた。数珠すら持って来なかったので顔すら知らない人々には怪訝そうに見られたけれど、会場に勝手に入り、ずっと棺桶の近くで座っていた彼女にとっては安心する材料になったらしい。二人に声をかけてそこに近づいた。
「……貴方でしたか」
「どうも。これお土産。こいつはともかく食欲無いとは思うけど、二人で食べてよ」
「ありがとうございます」
カロリー爆弾を彼女に押し付け、そのまま棺桶に向かった。許可も取らずに中を見る。決して安らかとは言えないソレがそこにあり、思わずうわぁと声を出した。お土産を中に、これまた勝手に入れようかと考えてそれも辞めた。ヨーヨーは濡れるしお面はこれ焼けるのだろうか。ちょっと理解し得ないのでそれもさらに押し付けておいた。
「アイツはもう帰ってった?」
棺桶から離れてベビーカステラを摘んだ彼女の隣に座った。少し顔を曇らせた後、首を縦に振った。
「そう。きっとアイツのことだから犯人探しにでも躍起になってんでしょ」
「……そう、でしょうか」
「多分。だからさ、俺の分まで悲しんどいてね。アイツはアイツなりの方法を見つけたんだから」
背中を叩いた。ぐふ、と唸ることもなく彼女は気まずそうに目を伏せる。どう慰めればいいのか分からずそのまま立ち上がり、また棺桶の前に立つ。
「もう行かれるんですか」
「うん」
「そうですか」
また中を見て、まぁいいかと顔がある辺りにお面を被せた。てっきりアイツも居るとばかり思っていたからこいつの好きな色じゃないけれど、まぁ一ヶ月はもつだろう。
「盆までには俺らもそっち行くから、勝手に連れてくなよ」
呟いて、閉める。
友達の家族も同然だった親戚に明るく声をかけ、その場を後にした。葬式会場を出てすぐに自分のスマホを取り出しネットニュースを見てみる。宗教関係から通り魔、ストーカー、生贄、そこらのオカルト的な類までざっと見た後、どうも疲弊してしまって目を伏せた。
盆までは一週間もない。その間にアイツと、もう一人共通の友人だったアイツと会う機会を作れるだろうか。何故俺が後始末をしなければいけないのかとつくづく思うが、最早どうでもいい。オカルトは信じないが約束してしまったからにはその通りにしないと、本当に、一二を争うレベルで悲しんでいる彼女を連れてかれるのは困るのだ。俺とは違って。
結局はお互いの気が済めば良くて、アイツが出来ないのなら俺が代わりにしてやってもいい。俺には彼のようなストッパーの役割なんぞ到底果たせないのは分かっていた。頭で考えるより身体で動いた方が楽で、実際俺ならきっとなんでもできる。別に俺は何がどうなろうがどうでもよくて、アイツが道を外すなら俺も外すだけだった。
彼女の目に触れないようにしさえすればなんだっていい。ちゃんと悲しめている彼女の邪魔だけしなければいい。だが邪魔していて、道連れにされないのがほんの少し気に食わないというだけで。
はぁ、と深い溜息を吐く。最早幸せなんていくら逃げても今なら特段変わらないと思った。
「今から復讐しても、後の祭りだろうにねぇ」

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