Shiro子

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明日、もし晴れたら。
今更ではあるけれど全体的に暗め・ちょっぴり下の話が入ります。直接的では無いけれど、逆に直接的じゃないので嫌な人も多数いると思います。
苦手だったらごめんね。
お気に入りの服とスキニーにこんにゃく落とした。

夢だな、と気づく。
俺の姿は変わりないのに、アイツは子どもだった。
そんな同居人の朝は早い。
年数が経ちすぎて悲鳴をあげてきたシングルベッドから起きたと思えば、俺を置き去りにしてキッチンへと向かっていった。夢だと分かったのはアイツが子どもの姿だったからであって、その他は特に現実と変わりはなかった。ただ脳は夢の中でも寝ぼけるのか、妙にぼーっとした気分で身体を起こして目を擦っていると、やがて良い匂いが漂ってくる。
パンにケチャップとマヨネーズ塗りたくっただけのやつと梨と多分コーヒー。
俺も自分の部屋から抜け出しアイツの元に近づけば大正解で、オーブンに紅白の乗ったパンを入れている最中だった。夢の中だから当たったのか、でも現実でも割と当たっていたけれど。そんなことを考えつつ、手伝いもせず俺は椅子に腰掛けた。
腹は減っていない。けれど食欲はある。出された朝ごはんを手っ取り早く食べてしまえば何故かアイツは驚いていた。急いで黙々と食べ始めたアイツの姿をじっと目を凝らして見てみた。コーヒーが進んでしまった。堀も深くない、手も骨張ってない、髪が少し短い。見た目的に既に成長期は終わっているからか身長は変わっておらず、ほんの少しだけ俺の方が高かった。高校生の時か、或いは。
「今日は何処行こうか」
一通り支度を終えた後、アイツはそう言った。いつも通り少し目を伏せがちに問うてくるので、俺も適当に行き先を指定してやろうかとも思ったが、そもそも家の外は存在しているのだろうかと思い素っ気なく返した。
「何処でもいいよ」
「そう? 前夜祭って言い出したのはそっちなのに」
そういえば今日、何日だろうか。
「お前は行きたいところねぇの」
「特には……いや、海に行きたい」
「ロマンチストかよ。何処の海?」
悪戯っぽく笑い出した目の前の奴に、失言したなと思い知らされてしまった。
自転車を全速力で漕ぐ。
何故か外は土砂降りも土砂降りで、何故か雲はあるのに全体的に明るかった。
曲がっても曲がってもやってくるは坂道、それも上り坂だからすぐに俺の身体は悲鳴をあげた。自分一人ならまだいい。もう一人後ろにしがみついて乗っているからか体重が前にかけづらく、それなのにその元凶は煽ってくるものだから最悪だった。冷たいし、何故か寒くはないけど視界は悪いし、髪は濡れているのに服は濡れていないのが救いだが、逆に言えばなんてご都合主義な。体感三十分後、やっと俺たちは海岸についた。
体感十分で帰ったけれど。
下り坂を猛スピードで滑っていれば今度はアイツがそこに寄って欲しいそこが見たいと言い出すので仕方なくそれに付き合い、順路に戻り、の繰り返し。最早海よりウインドウショッピングの方が長いまであるかもしれない。飲み物が欲しくなれば金が無いからとサイダーを分けて飲み、すぐに飲み干してゴミ箱に捨てた。
結局帰ったのは夕方になる。
疲労困憊で少し横になっていた俺に、アイツは夕ご飯を用意しつつ度数の低い酒を持ってきた。曰く、「前夜祭なんだろう?」と。それを承諾すればまた嬉しそうにあれやこれやとテーブルに広げだす。酒につまみにサラダに肉に、プラスアルファに。
「……いいの?」
「いいのって、何が」
カシュ、と小気味良い音が連続で響いた。
「いつも嫌がる癖に」
「……ご無沙汰だからね、色々と」
「はぁ」
アイツの作る料理は、力が今より無いというだけのデメリットをものともしないくらいいつも通りで、とても美味しかった。
本人には言わなかったがきっと分かっている。
いつも通り、と言ってもそれこそご無沙汰であったし、手も混んでいたと思う。
本当に美味しかった。
「ピアス空けないの?」
なんとなしげに触られた耳がヒリつき、思わず声を上げた。構わず夢中になって触っているアイツの腕を掴みながら俺は溜息を吐く。
「空けない。それにさっき空けられんなくなった」
「それもそうか」
誰のせいだ。
毛布に適当に包まり身体を温めてみれば案外すぐ眠気はやってきた。だがそこまでで落ち着かず、結局諦めてモゾモゾと定位置に移動する。
「明日、もし晴れたら会いに来てよ」
同じく定位置に移動し始めたアイツがそう呟く。
「会いに来てって居るじゃん。ここに」
「まぁ、そうなんだけどね」
「ってか結局なんの前夜祭なのこれ」
「さぁ?」
「さぁってお前」
定位置に移動して数秒後、匂いのせいかうと、と軽く微睡み始める。寒いも無いのだから暑いも無い。二人分の体温に絆されながら目を瞑ると、意識がぼやけていくのを感じた。
夢の中で眠ればどうなるのだろうか。このまま眠ってしまえば明日大変じゃなかろうか。そもそも明日は大雨じゃなかったっけ。こいつどうなるんだろうな。あ、カレンダー見るの忘れた。
お腹の近くに柔い感触を感じ、まぁいいかと俺は全てを投げ出して息を潜めた。

外は雲ひとつない晴天。
鳴り響く五分毎のアラームと、不在着信だらけの電話。
何故か素っ裸で毛布ひとつ、身体中が本当に痛い。
「あーしくった、もうアイツほんと……」
丁度今出発した名古屋行きの特急列車、に乗っているであろう仕事仲間からのスタンプ連打。
鏡を見ればやはり荒らされており、隠しきれない位置に傷跡が二つ。
そして今日は、お盆。
「化けて出るなら今日出ろよ……ってか出張終わったら行くつもりだったんだけど」
もう今日は名古屋へは行かないでおこうと苦笑しつつ、適当にカップラーメンで朝ごはんを済ませて適当に身支度をした。仕事は明日で前乗りで今日行く予定だったというだけで、明日の始発で向かっても間に合いはする。線香も花も今は無いからと手持ち無沙汰に耳を触りながら外に出た。
自転車を全速力で漕ぐ。
随分と軽くなった自転車で海の横を過ぎ、アイツの居るところまで向かった。
コンビニで買った物を乱雑に並べ、夢の中で飲んだ酒を開けて真ん中に置いた。
「この寂しがり、寝坊させんじゃねぇっての」
面倒くさくなって酒を頭から注いだ。
「今日は何処行く?」
深い深い溜息をひとつ。照りつける日差しがどうも鬱陶しくて仕方がなかったが、もう連絡は済ませてあった。元々ここ暫くは働き詰めだったこともあり快く許してもらえたせいで、今日は一日何も予定が無い。
人が横を通り、妙に恥ずかしくなって首元を手で覆い隠した。
「……またウインドウショッピングは勘弁な」
風が吹く。
「はいはい」

8/1/2023, 12:46:32 PM