『終わりにしよう』
何度願った事だろうか。
でも気付けばまた、同じ場所にいた。
終わり。今日で終わり。
蹴りをつけたかったのに、
いつの間にか私はあの子に縋ってた。
悔しい筈なのに、憎い筈なのに、
「死ぬよりはマシだ」と考えてしまう。
死にたくない欲求から逃げたくて、
藁をも掴む思いで掴んだ矛先は、
私が憎んでやまないあの子。
でも、あの子しかいない。
私を理解してくれるのは。
こんな私を、何も言わずに見ていてくれるのは。
だからこそ憎い。
どうか私の中から出ていって欲しい。
でも出ていかれたら…私はどうなる…?
こう思う時点で、私は一向に終わりには向かえないんだ。
私は幼い頃から、“ショウくん”という同い年であろう
男の子と遊んでいた。
幼い頃の記憶だから、ショウくんの今の事なんて知らないし
ショウくんがいつから私のそばにいたのかも分からない。
覚えているのは最後の日、あの微笑みだけ。
頭の悪い私でも、唯一なんとなく分かるのは、
ショウくんは、あの小さな村の中で、
私しか知らない子だったという事。
これは私のショウくんに関する最後の記憶。
ある夏の日、私は地元の河原で遊んでいた。
河原のそばには神社があって、私はそこがお気に入りだった
草木が綺麗で空気が澄んでいて、行くと心が落ち着く場所。
私とショウくんはよくその神社で遊んでいた気がする。
毎回私が疲れて寝てしまうと、ショウくんは私を家まで
運んでくれた。ショウくんの腕は、私よりも細かった。
その日は河原で川切りをしたり、
石の上を飛び越えて川を渡ったり。
そんなに大きくない。とても浅い川だったから、
私達は大人の目を借りる事もなく、
裸足で駆け回った。
不思議な話かもしれないけれど、
危ないって思われるかもしれないけど、
田舎ってこんなもん。
その日は何故かとても疲れていて、夕暮れ近くになって、
ひぐらしが鳴き始めていて、通りすがりのおじちゃん。
正確に言えば私の家の斜め前のお家のおじちゃんに
「危ないからね、早く帰りなさいよ」と言われた。
私はショウくんにそろそろ帰ろうと伝えたけれど、
ショウくんは黙って、川から足を出さなくて、
私が、「どうしたの?」って聞くと
『帰らないで』
と言った。ショウくんがそんなことを言うのは初めて
だったからか、私は驚いたのを覚えている。
幼い私も、帰りたくないのは山々だった。
だからもう少しだけ、ショウくんと遊んでいる事にした。
「あとちょっとね!」
するとショウくんは嬉しそうに顔を上げた。
まぁ、顔は覚えていないのだけど。
ショウくんは私にいつもの神社で遊ぼうと言った。
ショウくんは私の手を取って神社に向かった。
それが、何かの始まりだったのか、
はたまた終わりだったのか、
神社に入った途端、
私は突然意識を無くした。
唯一覚えていたのは、
神社に入る直前、ショウくんは私にキスをした。
今思えばとんでもねぇなマセガキが。とか思ってしまう。
あの頃の純真無垢で可愛い私は何処へやら。
ショウくんは微笑んでいた。
それしか出てこない。目元も鼻元も口元も
ぼんやりとした何かのままで、本当に思い出せない。
私が目覚めたのは、と言うか発見された?のは、
それから数時間後。
帰ってくるのが遅かったせいか、近所の人が
私を探し回ってくれて、ようやく神社の木陰の下で
私を見つけたらしい。不思議な事もあるもんだ。
私が意識を失ったのは、神社の階段の鳥居の一歩入った
場所だったはずなのに。
気がつくと、ショウくんは居なくなっていた。
ショウくんの手を握っていた筈の手には、
綺麗な組紐が握られてた。これは確か…
ショウくんのミサンガだったはず。
ずっとミサンガだと思っていたのは、組紐だった。
青い水晶が付いた、綺麗な組紐。
これ以降、私はショウくんに一度も会っていない。
これ以外の記憶が無いのだ。
しかも思い出したのは今日。
私は母に電話で聞いてみた。
「ねぇ…ショウくんって覚えてる…?
ほら、私が小さい頃よく一緒に遊んでた…」
すると母は少し考え込む様に黙って
「ショウくんって、誰?」
と、心底不思議そうに答えた。
私は、やっぱりか…と思って、電話を切った。
やはり、ショウくんは私しか知らない子だった。
こうして記憶を頼りに書き起こしている時、
つまりついさっき、ふと思い出した事がある。
後に聞いた話、私が行方不明になっていたあの数時間、
その間に私が帰る筈だった道で、アクセルとブレーキを
間違えた老人が電柱に突っ込み、その電柱が倒れるという
事故があり、幸い誰も大きな怪我はしなかったものの、
この辺では珍しい綺麗な白蛇が、轢かれて死んだそうな。
まさか………ねぇ…???
優越感 あの子が私より劣っていると思った時。
劣等感 あの子が私より優れていると思った時。
常に鼻先に在る劣等感を追いかけて、追いかけて、
でも結局掴めないままで。
劣等感は嫉妬心に変わって、私は誰より醜くなった。
醜く成り下がっていく私を、私は受け入れるしかなかった。
『あの子になりたい。』
そう願っている訳じゃない。
あの子になるなんて、真っ平ごめんだ。
『あの子みたいになりたい。』
あの子の真似なんてしたくない。
そもそも私はあの子が嫌いだ。
『あんな子になりたかった。』
今更遅い。
私はいつだって、あの子の性格に虐げられて、
惨めな思いをして、劣等感を抱えに抱えてる。
あの子は無意識の優越感で私を見下ろすんだ。
ほらね、これを書いている時もそう。
隣で呟き指を押さえつける。
『 』と。
クソ喰らえ。アタシはアタシで生きていく。
他の誰でもない。アタシでこの悪夢に蹴りをつけるんだ。
これまでずっと…
私は私として生きていると思ってた。
私が私であるための人生だと思ってた。
でも違った。
思えば私の人生は、あの子に支配されていた。
あの子は私の中でずっと、私を操っていた。
先輩の前、上司の前、友達の前、赤の他人に至るまで、
あの子は私の皮を被って、私という人形を動かしていた。
元々の私の性格は他人には理解され難い程に矛盾ばかりの
捻くれ者で、理解されたいとも思わないが、いざ正面きって
否定されると酷く憎悪が増す。言いたい事は言わなければ
気が済まない。他人よりも自分を優先するのが当たり前。
側からみればクズと言われても仕方ない。
私はそれすらどうでもいいと感じる人間だからだ。
でもあの子は違う。人に嫌われるのを怖がって、
世間体から外れる事を嫌がって、知らない事を知ってると
口走って、無理矢理話を合わせて自滅する。我ながら
愚かな奴だと思う。それでも、社会からの評価は
あの子の方が断然いい。どうして?
いや。当たり前か。
でもそれを理解しきれない私の性格が疼き、
自分の愚かさにまで吐き気がする。
だからこそ、私の人生はあの子が邪魔をしている
気がしてならない。確かに、あの子がいた事で、
どうにか人並みに学校生活などは送れていたし、
特に人からハブられる事もなかった。
私のままではきっと友達1人も出来なかった。
そう考えると、私の人間性が否定されている様で、
毎回毎回、最低な気分になるのだ。
最近幼馴染からこんな事を言われた
『もしかして、二重人格なんじゃない?』
二重人格?私が?
いや、違う。ありえない。
だって私はあの子も私の一部だって理解してる。と思う。
あの子あの子って差別化するから、そう思ってしまって
いるだけで。。。
これまでずっと…私は私だって…
思い込んでただけだったのかもしれない…。
1件のLINEが来ていた。
開いてみると、公式アカウントだった。
これで何度目だろうか。
私の友達は公式アカウントしか居ないのか???
正直一番萎える瞬間である。
例えばの話だが、好きな人にLINEを送ったとして、
返信を待ってる時間は永遠の様に長く感じるのに、
いざ来ると緊張して開けず、意を決して開いたら
公式アカウントだった時の気持ちレベルには萎える。
私の場合は最後に友人と話した内容すら覚えてないのだが。
唯一連絡が来るお友達が公式アカウントとか虚しいにも
程があるだろ。大丈夫か私。
それにしても愉快な脳みそは回るのであって、
公式アカウントに意味のわからない絵文字を送りまくり、
全反応を探っているのである。
これが最近の私の暇つぶしである。
スマホが友達とは全くその通りで、
お友達と話している時間よりもスマホをいじっている
時間の方が圧倒的に長いわけだから、私とスマホは
親友と言っても過言ではない。いや、恋人だ。
いやでも、恋人をトイレには連れて行かないか。
そんなことはどうだっていいのだ。
私は今先輩からの1件のLINE、
『明日空いてる?』
をフルシカトしてるのである。
正直明日は空いてる。
でももし空いてると言えば、先輩の要望が嫌だった時に
断れる免罪符が無くなってしまう。
逆に空いていないと言えば、先輩からの信頼度は下がる
だろう。それはあまり良くないと思う。
私生活に影響が出る場合が生じるからだ。
しかし本音を言えば行きたくないのである。
LINEが送られてきて3時間
もうそろそろ返さなければならない…
…………あ、素晴らしい返答を思いついた!
これを読んだ変わり者にも是非使ってみてほしい!
『時間次第では空いていますよ!』
よし………完璧だ。