目が覚めると
知らない場所に居て欲しかった。
しかし見えたのは自分の部屋の天井で、
昨夜見た夢もなんなら夕飯も覚えてすら居ないが、
朝と実感するには十分な倦怠感が襲う。
重たい体をなんとか起こしてベットから降りると、
未だ体は夢の中なのか、ぼんやりと浮いた感覚がする。
ふわふわとした意識の中、洗面所で顔を洗って、
初めて自分の顔とご対面する。
「こんなにブスだったか??」
私は毎回そこで脳が覚醒する。
皮肉な話だが、私の脳みそは割と回転が速い。
故に目の前の見るも無惨なブスは自分であることを
コンマ1秒で認識してしまうのだ。
朝から冴えない顔とのご対面にため息がでる。
朝起きたら知らない場所で某漫画の様な美少女に
なっていたり、イケメンに囲まれてちやほやされる
世界線は一体どこなのだろうか。
そんな世界に行けるならトラックに跳ねられようが
電車に轢かれようが私は構わないのだが…。
まぁ、行った所で私は悪役令嬢だったりするのだろうが。
そんな事を考えながら海苔と明太子で白米を包んで口に運ぶ
なんだかんだでこれが一番美味いのである。
冷たい緑茶と、先日の味噌汁を温め直したものを飲み干して
息を吐く。
さて、今日も一日が始まるわけだが、
その前に一旦、鏡の世界に入れないか確かめるため、
姿鏡に指を付けてみる。
結果は今日も指紋がつくだけだった。
まったく…ではこの忌まわしい玄関のドアを開けたら
知らない草原が…
広がっていなかった。
アスファルトである。
泣きたい。
こうして私の愉快な脳みそは、
何とか1日を消化していくのであった。
どうして大人に100%従わなくちゃいけないの?
どうして自分の意見をハッキリ言わないの?
どうして私なんかって言葉が出るの?
どうして弱い立場の人はそれを利用しようとしないの?
どうして弱いままでメソメソしているの?
どうして強くなろうと思わないの?
どうして言い訳ばっかりを作っているの?
これが私なのに。
私が本当の私なのに。
みんなが見てる人は、私じゃない。
私にとっての当たり前はいつだって誰にも理解されない。
あの子の当たり前なら……理解されるんだろうか。
でも、答えを知るのが怖いから、
書き起こすのは辞めておく。
ごめんなさい。おやすみなさい。
『綺麗だなぁ』
あの子は言った。
『人工物じゃん』
私は思った。
あの子は少し驚いてから、
『それもそうだね』と笑った。
……………チッ、
今日も私は、言葉を間違えた。
今回のお題も、私とあの子の境界線だった。
[お題]街の明かり
七夕 非常におめでたい響きだ。
織姫様と彦星様が年に一度、天の川を渡り再会する日。
でも、本当の私は思ってしまう。
何故、見ず知らずの男女の惚気話に付き合う必要がある。
何故、今日に限って短冊に願いを込める。
願いは普段から願ってこその願いにも関わらず、
人々は空を見上げてどうでも良い空想上の男女が
巡り会えたかどうかを気にするのか。
全く理解が出来ない。と。
しかし、この様な文を書く度に、
思いの丈を話そうとする度に、
やはり私は痛感する。
『私は心が欠けている。』
思えばずっとそうだった。
美しい物を見て美しいと思えるはずなのに、
人々が態々集まって見る様な物にはてんで興味を示さず
ただひたすらに気持ち悪いと思ってしまう。
人の気持ちに共感が出来ないのも、きっとそのせいだ。
夢や希望を語るのが好きだ。でもそれは私じゃない。
私の中にいるもう1人の私。
自分で作り上げた都合が良くて、愛嬌があって、
人から頼られて、側から見たら優しいねと言われるあの子だ
あの子は私を押し殺す為に居て、都合の良い時に出て来る。
何とも憎らしくて愛らしい。
本当の私は、こんなにも冷めきっているのに。
本当の私とあの子には、決定的な違いがある。
例えば、努力は報われると信じる人を見て思う価値観だ。
私の意見を綴るとなると、こうも億劫になるが、
裏で努力してると豪語すれば、
人に得意げに話す努力は努力ではないと言われ、
それをヒタ隠せば、否定好きな私は思ってしまう。
誰にも言わずに誰にも認められずにする努力がかっこいい
と思う神経がイカれているんだ。人は、承認欲求から逃げられるわけがないんだから。お前が頑張ろうが、認められなければそれでおしまい。お前だけの黒歴史だ。努力をしている自分に酔っただけの青春ごっこは、さぞ楽しかったか?と。
あの子なら、こんな事絶対に言わない。
あぁ、またやってしまった。
そして私は最悪な気分になって床に着くのだ。
夢の中で考える。あの子はどうだろう。あの子なら、
豪語する彼を見て、凄いね、えらいね、と褒めるだろうか
ひた隠す彼を見ればもっと褒めるのであろうか。
いずれにしてもどちらも努力と言う言葉に変わりはないにも関わらず、隠している方が偉いのか?
自分の意見を隠す事が人に好かれる秘訣なのか?
自分を堪える事が人に愛される秘訣なのか?
そんなわけがない。
人は誰しもエゴイストでいなければ、己を守れない。
独りに慣れていなければ、独りになった時が辛い。
あの子はきっと、独りになったら泣き崩れ、
それを羽虫どもがワラワラと鳥肌の立つ様な励ましと
形ばかりの応援をして来るんだろう。上っ面でぶりっ子
吐き気がするんだ。そんな考え方。甘ったれんな。
きっとあの子が死の淵に立たされたとしたら、
泣こうが喚こうが虚しく絶望するだけだ。
私はそれを嫌う。
人の同情も、底が知れた上っ面人情も、
他人への深い干渉も、己の心に踏み込まれる事も、
他人へ本音を話す事も、嘘の上で成り立つ人間関係も。
全部全部大っ嫌いだ。
そんな私は
今年も懲りずに七夕の短冊に
去年と同じ願いを綴る。
『あの子が私になりますように。』