名勿し

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私は幼い頃から、“ショウくん”という同い年であろう
男の子と遊んでいた。

幼い頃の記憶だから、ショウくんの今の事なんて知らないし
ショウくんがいつから私のそばにいたのかも分からない。
覚えているのは最後の日、あの微笑みだけ。

頭の悪い私でも、唯一なんとなく分かるのは、
ショウくんは、あの小さな村の中で、
私しか知らない子だったという事。

これは私のショウくんに関する最後の記憶。


ある夏の日、私は地元の河原で遊んでいた。
河原のそばには神社があって、私はそこがお気に入りだった
草木が綺麗で空気が澄んでいて、行くと心が落ち着く場所。
私とショウくんはよくその神社で遊んでいた気がする。

毎回私が疲れて寝てしまうと、ショウくんは私を家まで
運んでくれた。ショウくんの腕は、私よりも細かった。

その日は河原で川切りをしたり、
石の上を飛び越えて川を渡ったり。

そんなに大きくない。とても浅い川だったから、
私達は大人の目を借りる事もなく、
裸足で駆け回った。
不思議な話かもしれないけれど、
危ないって思われるかもしれないけど、
田舎ってこんなもん。

その日は何故かとても疲れていて、夕暮れ近くになって、
ひぐらしが鳴き始めていて、通りすがりのおじちゃん。
正確に言えば私の家の斜め前のお家のおじちゃんに
「危ないからね、早く帰りなさいよ」と言われた。
私はショウくんにそろそろ帰ろうと伝えたけれど、
ショウくんは黙って、川から足を出さなくて、
私が、「どうしたの?」って聞くと

『帰らないで』

と言った。ショウくんがそんなことを言うのは初めて
だったからか、私は驚いたのを覚えている。
幼い私も、帰りたくないのは山々だった。
だからもう少しだけ、ショウくんと遊んでいる事にした。

「あとちょっとね!」

するとショウくんは嬉しそうに顔を上げた。
まぁ、顔は覚えていないのだけど。

ショウくんは私にいつもの神社で遊ぼうと言った。
ショウくんは私の手を取って神社に向かった。

それが、何かの始まりだったのか、
はたまた終わりだったのか、
神社に入った途端、
私は突然意識を無くした。

唯一覚えていたのは、
神社に入る直前、ショウくんは私にキスをした。
今思えばとんでもねぇなマセガキが。とか思ってしまう。
あの頃の純真無垢で可愛い私は何処へやら。

ショウくんは微笑んでいた。
それしか出てこない。目元も鼻元も口元も
ぼんやりとした何かのままで、本当に思い出せない。

私が目覚めたのは、と言うか発見された?のは、
それから数時間後。
帰ってくるのが遅かったせいか、近所の人が
私を探し回ってくれて、ようやく神社の木陰の下で
私を見つけたらしい。不思議な事もあるもんだ。
私が意識を失ったのは、神社の階段の鳥居の一歩入った
場所だったはずなのに。

気がつくと、ショウくんは居なくなっていた。
ショウくんの手を握っていた筈の手には、
綺麗な組紐が握られてた。これは確か…
ショウくんのミサンガだったはず。
ずっとミサンガだと思っていたのは、組紐だった。
青い水晶が付いた、綺麗な組紐。

これ以降、私はショウくんに一度も会っていない。
これ以外の記憶が無いのだ。
しかも思い出したのは今日。
私は母に電話で聞いてみた。

「ねぇ…ショウくんって覚えてる…?
 ほら、私が小さい頃よく一緒に遊んでた…」

すると母は少し考え込む様に黙って



「ショウくんって、誰?」



と、心底不思議そうに答えた。
私は、やっぱりか…と思って、電話を切った。
やはり、ショウくんは私しか知らない子だった。


こうして記憶を頼りに書き起こしている時、
つまりついさっき、ふと思い出した事がある。
後に聞いた話、私が行方不明になっていたあの数時間、
その間に私が帰る筈だった道で、アクセルとブレーキを
間違えた老人が電柱に突っ込み、その電柱が倒れるという
事故があり、幸い誰も大きな怪我はしなかったものの、
この辺では珍しい綺麗な白蛇が、轢かれて死んだそうな。




まさか………ねぇ…???

7/14/2023, 1:50:57 PM