アルベルト幸薄

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4/2/2024, 6:13:15 AM

「エイプリルフール」

「君の趣味は何?」
すこし間を置き、すでに決められていた文章をつらつらと喋る。
「はい、私の趣味はサッカーです。特技とも言えるサッカーは小学一年生のときから……」
全くの嘘である。低脂肪牛乳よりもうっすい味をした嘘だ。何ならそれを水で薄めたくらいがちょうどいいまである。小学生の時は帰りの会を終えたら誰よりも早く教室の扉に触れていた。そして一般的な小学生男子なら誰もがやったことのある趣味をしていた。それはゲームだ。現実世界なんてどうでもよかった。というよりゲームの世界が俺にとっての現実世界だ。そして学校などの現実世界はつまらないゲームだ。しかもハードモード。顔はパーツがそれぞれ孤立していて、他人のパーツから悪い部分を収集してそれをそのままくっつけたみたいな顔をしている。それに加えて友達禁止という縛りプレイもしている。
「……以上です」
「で、ではそれをどうこの会社に活かせますか?」
これも対策済みだ。自分でも薄っぺらだと自嘲してしまうほど薄い嘘なのだが。
「はい、この会社は……」
そういえばいつも嘘をついていたな。学生時代は人と喋るといっ嘘をついてしまう。自分のことを良く見せようと嘘をついてしまう。周りのやつが新作のゲームで盛り上がっているなら、俺は「そのゲームもうクリアしたよ」と、見栄を張り嘘を付く。「最後どんな感じだった?」と聞かれると、いつも焦りながら虚実を並べていた。その後、そのゲームをクリアした人は俺が嘘をついていたことに気付いていただろう。
「では、面接は以上です。最後に質問はありますか?」
「はい、入社までにしておくことは何かありますか?」
ようやく終わる。運が悪ければゲーム三昧の日々も終わりを告げる。

扉を閉めるときに音がたたないよう静かに閉める。
「彼は駄目だね。」
「ずっと黙り込んでいたからね。あのレベルでよく面接を受けようと思えるのだろうね。」
「あのレベルだと逃げずに面接を受けただけでも頑張ったと言えるんじゃないかなw」
「そうだなw」

「かなり手応えあったぞ」そうつぶやくと、受かることを確信した彼は人通りが少ない裏路地で突然立ち止まりボーっと空虚を見ている。

3/27/2024, 8:03:27 AM

「ないものねだり」
私は容姿端麗。この世に性を承ってから十五年。何不自由なく親から育てられてきた。生まれたときから美人だと村中で騒ぎになった。子供の時から私に逆らう人は誰ひとりいない、そして今もみんな私の虜。子供の時から欲しいものはすぐに回りの大人が私のために買ってくれるし、私のためなら身を持って守ってくれる。私は天賦の才を与えられたのだ。いや、空から舞い降りた天使とも言えるかもしれない。だが私はただ天賦の才を与えられただけの人間ではない。私は努力を怠らない。私はこれまでにピアノ、書道、英会話と様々な習い事をしている。それに人間関係も良好。私の周りには常に人が取り囲んでいる。いままで友達に困ったことはない。そうだ、私は完璧なのだ。完璧でなくてはならない。私は与えられた才能に頼りっきりの非凡に見せかけた凡人とは違うのだ。
「おはよう!美香ちゃん」
自己陶酔中だったので話しかけるられるまで遥の存在に気づかなかった。
「あっ、おはよう!遥ちゃん、あれ?その花の髪飾り私のとおそろいじゃない?」
「あっ!気づいた?そうだよ、美香ちゃんのその髪飾り可愛いと思ってたから昨日買ったの」
私は普段から赤色の花の髪飾りを付けて学校に通っている。私の中の最近の流行りだ。真似されるということは尊敬されている証だ。悪い気はしない。
「なんか私達双子みたいだね」
「美香ちゃんと双子だなんて私にはふさわしくないよ」
そう思っているんだったらなぜお揃いなんかにするんだ。
「自分のこと卑下しちゃだめだよ。もっと自分のこと大切にしなきゃ!」
こういうことを言って欲しかったんだろ。謙遜をしているつもりなんだろうけど欲が丸見えだ。
「えへっ。そうだよね。だめだよね」
案の定の反応だな。本当は慰めの言葉が欲しかっただけなんだな。
「えーてかなにそれー。すごいかわいい」
筆箱のことを言っているのか?そういえば数日前に新調したんだったな。
「あー筆箱のこと?数日前に新しく買ったんだー。前の筆箱チャック外れちゃったから」
「すごいかわいいよ。それどこで買ったの?」
「駅前の文房具屋さんで買ったの。他にもいっぱいかわいいの売ってたよ」
「あっ!もうそろそろで次の授業が始まるから席戻るね」
「うん」
忙しない小娘だな。最近よく私に話しかけるようになってきた。あまり言いたくないが入学当初は陰気くさい子だったのに最近になって雰囲気が変わりつつある。髪型もいままでクセがあったのに今ではストレートだ。縮毛矯正をしたのだろうな。印象がガラッと変わった。垢抜けというやつか。だがそういうのは入学する前に済ませておくものだと思うが、真相はよくわからないな。

次の日〜
教室の扉を静かに開ける。するとあたりから挨拶が飛び交う。もちろん私に向けてだ。わざわざ私から挨拶するまでもなくみんなが挨拶をしてくる。
「美香ちゃんおはよう!」
「おはよう」
「これ何かわかる?」
「私の筆箱?」
なぜ私の筆箱を持っているのだ?まさか昨日教室に置いていってしまったのか?いやそんなはずはない。
「違うよーw美香ちゃんと同じの買ったの」
「そ、そうだったんだねwびっくりしたよ」
どうやら垢抜けするために私を参考にしているようだな。それはいい判断だな。だって私は一番の美貌を持ちみんなの憧れの存在なんだから。
「びっくりさせちゃった?可愛くてつい同じの買っちゃった」
「またお揃いだね。同じのをかわいいって思うから私たち感性が似てるね」
「そうかも、私たち似てるね」
そう言い遥はにっこり笑った。その笑顔に私は一抹の不気味さを感じた。

ピアノ教室〜
今日はピアノの日だ。学校終わりにピアノ教室へと足を運ぶ。習い事が忙しく部活は入っていない。習い事でも私が一番だ。あまり人を称賛しないタイプの先生でも私だけべた褒めだ。本来ならそんなことすればみんなが私に嫉妬するのだろうけどみんなはしない。それは単純で私が圧倒的な実力を有しているからだ。まぁ、家で死にものぐるいで練習しているからなんだけどね。
「あれ?なんで遥ちゃんいるの?」
そこには遥がいた。
「私ピアノ始めてみようと思ってるんだ。」
「へ、へぇーそれは良いことだね。なんでも教えてあげるから困ったことがあったら言ってね」
「ありがとう!これからよろしくね」
流石にゾクッとした。この娘に感じていた不気味さが顕著にでてくるようになってきた。こいつはどこまで私の真似をしようとしているんだ。習い事まで真似してくるのは尋常ではない。髪飾りや筆箱までなら許容範囲だったがこれは洒落にならない。この娘とはすこし距離をおいたほうが良さそうだ。だが変に距離を置けば避けているとまわりに勘づかれ私のイメージが悪くなってしまう。この娘は厄介だ。

その後、英会話教室にも書道教室にも遥は居た。それだけでなく彼女の私物をよく観察すると私と同じ物だらけだった。この異変に気づいているのは私だけでなく友達も気づいているようだった。友達によると口癖まで似せているようだ。口癖まで似せてくるとなるといよいよ恐怖を感じる。尊敬して似せてきているだけなのかわからなくなってきた。もしかしたら私への嫉妬により恨んでいるのだろうか?

ある日の放課後〜
「どうしたの?突然呼び出して。怖い顔しないでよ」
「ねぇ、私のこと真似するのはいいけど、度が過ぎてないかしら?」
私はとうとう耐えられず直接話すことにした。あのまま真似され続けるのは気持ちが悪い。
「嫌だな〜。真似だなんて、偶然だよ。」
「偶然?とぼけないでくれる。私の私物、習い事、口癖、挙句の果てには私のインスタの投稿まで真似してるじゃない!」
そうなのだ。遥は美香がインスタを投稿するとすぐに全く同じようなものを投稿していた。
「ねぇ、今どっちが本当の美香だと思う?」
「え?」
何を言っているのだ?どっちが本当の美香?私に決まっている。そうだ、間違いない。間違いない!間違いない?あれ?目の前にいるのは私?
「ねぇ、私の真似しないでよ遥ちゃん」




これは、ないものねだりから始まった。みんなのあこがれであった美香ちゃんが羨ましくて羨ましくて仕方が無かった。容姿端麗、それでいて何でもできる。勉強も運動も芸術も、どの分野でも勝てるところがなかった。欲しい。美香ちゃんの全部が欲しい。だから、私が美香ちゃんに、美香ちゃんが私に。

3/25/2024, 12:57:11 PM

「好きじゃないのに」
コツコツ、コツコツ、私の靴の一定の音色が静寂の住宅街に響き渡る。ここを歩いているのは私だけ。まるでこの世界に私しかいないのではないのかと錯覚してしまう。はずだった。いつもどおりの電車に乗り、いつもの時間に最寄りの駅につく、そしていつも通りに帰路をたどるっている。だがそこに違和感がある。人だ。後ろに人がいる。偶然が重なりに重なってたまたま帰り道が同じなのだろうか?いやそんなはずはない。だっていままでこんなにも同じ人と帰り道がかぶることなんてなかった。いわゆるストーカーか?私ストーカーされるほどの魅力あったっけ?ちょっとニヤけてしまう。じゃなくて!このままだと家についてしまう。それだと私の家がどこにあるのかバレてしまうではないか。これは何か手を打たなくては。そうだ!後ろの人がストーカーか判断するには道を左に三回曲がるといいんだっけ?これでついてきたらクロだ。よし、早速十字路があるから左に曲がってみよう。私は不安と緊張を押し殺しなんとか平静を装いながら道を左に曲がった。ついてくるなと願うものの後ろの人は少し遅れて同じく左に曲がってきた。やっぱりついてきてる!あっ!また左に曲がれる道がある。三回って言ってたけどこの道もついてきたらもうクロってことでいいよね。再び左へと道を進む。いままで寄り道をせず真っ直ぐ家に帰っていたのでここはもう知らないところだ。後ろの人はやはりついてきていた。あーもうこれ完全に私のことつけてる。思い切って聞いてみようかな?今更家に帰ろうとして来た道戻ったら怪しまれるしね。
「あのーすみません。失礼なのですが私のことつけてます?」
後ろの人は男性だった。見た目は身長が高くガタイがいい。この体格で襲われたら私勝ち目ないよ。年齢は四十代前半といったところか?見たところ怪しいものは持っていなさそうだ。
「いやいやいや、つけてるなんてそんな。あっ!そこです!私の家そこです!私は佐藤と言うものです。」
怪しい。わかりやすい嘘だ。とっさに思いついた嘘でももうちょっといい嘘をつけるだろう。呆れた。
「そうなんですね〜。そこが本当にあなたのお家なら入ってくださいよ〜。私の目の前で。」
「えっと、いやその、すみませんでした!」
いきなり大声で謝られたのですこし肩が跳ねる。
「やっぱりつけてたんですね。」
「本当にすみません。僕と付き合ってください!」
「いや、この流れで私が良いですよなんて言うと思ってるんですか?」
「勢いじゃ駄目だったか。ムードが足りなかったかな?それとも理由も付けて告白したほうが伝わったかな?」
「この場で一人反省会開かないでください。そもそもあなた誰なんです?」
「私は加奈羅図 ツケルと申します。あなたを電車で見た時世界が一変しました。あなたは私の天使です。こんなに美しい人を見たことはありません。」
「へぇー。フッフッフッ。」
何、ストーカーの言葉に気持ちよくなってんだろ私
「それにしてもすごい名前ですね。あなたを名付けた人絶対狙ってますよね。親が付けたんですか?だとしたら本当に名前のとおりになってますよw」
「うわぁ、急に煽ってきた。こんな人だったのか、ちょっと相手ミスったかもな。ていうかそもそも俺ストーカーなのに全然ビビってないしなこの人。」
「え、小学生の時ってやっぱ名前いじられたりしたんすか。」
「やっぱりこの嫌な人だ。しかも今の一言で小学生時代のトラウマ蘇ったし。」
「あーその反応やっぱりいじられてたんすねw。可哀想に〜。私だったら人生やってられないですよw」
「えー、何この人ー。俺つらくなってきたよ。この人小学生のときにいじめてきた人と若干似てるし。」
「来世はいい名前つけてもらえるといいですねwでもストーカーしてる人が来世いい人生になるわけ無いか。そっかそっかwそうだよねw無駄な期待しちゃったよね。ごめんねw」
「もう、死にたい…。帰ります。もうあなたのことはつけたりしません。というかあなたのことはつけたくないです。」
「もう遅いですよ。耳をよく澄ましてみてくださいよ。」
遠くからパトカーの音が聴こえてくる。
「いつの間に。あの会話中に通報してたんですね。気づかなかった。」
「名前も馬鹿そうなのに、頭もちゃんとバカなんですねーw」
「もう嫌!早く警察来て!なんでもいいから取り敢えずこの人から離れたい!」
このあと警察が来て彼を連行していった。
「好きじゃない人に好かれるのは意外と面倒だな」
そうつぶやき私はすこしスキップぎみに自宅へと向かうのであった。

3/24/2024, 3:37:40 AM

「特別な存在」
現在時刻十一時五十六分
分針「なあ時針」
時針「なんだよ分針」
分針「起きてたか」
時針「ちょっと喋ってないからって寝た判定になんのやめろ」
分針「いいじゃんかよ。俺たちが喋れんの距離的に数分なんだから。寂しいんだよ」
時針「そうか?逆に言えば会いたくなくても一時間に絶対数分は顔を合わせることになるんだぞ」
分針「まぁ、そんなことはどうでもいいんだよ。それより俺さ落ち着きがないやつ嫌いなんだよね」
時針「それってつまりアイツのことか」
分針「そう!アイツこのこと」
時針「やめとけって。アイツ一分ごとに来るから悪口言ってるといつか出くわすぞ」
秒針「やっほー。今何話してたの?じゃあねー」
時針「ほら来た!」
分針「合ういうところが嫌いなんだよ。顔合わせるごとに挨拶してくるのうざいんだよ」
時針「確かにウザイがアイツも大変なんだよ。俺たちみたいに同じ場所にとどまることができなからそうなるのも無理はないだろ」
分針「でもよぉ〜。一分ごとに挨拶されんのいい加減にしてほしいんだよ!」
時針「待て、これくらいにしておこう」
秒針「どうもどうも。なんかさっき俺のこと言ってなかった?じゃあね〜」
時針「言わんこっちゃない。多分俺たちの会話聞かれてたぞ」
分針「この際だからはっきり嫌いって言ってやろうかな」
時針「俺は知らんぞ。時計の仕組み忘れたのか?」
分針「そっか。そんなことしたら一分ごとに気まずくなるか」
時針「そうだろ?我慢するしかない。それが俺たちの運命だ」
分針「我慢かぁー。時針は腹立たないのか?」
時針「俺はあんなやつがいるからこそ今が楽しいんだけどな。うざいけど」
秒針「おい!今俺の悪口言ってなかったか?」
時針、分針「ギクッ!?」
時針「こりゃまいったな」
分針「めんどくさいことになっちまった。どうすれば良いんだよ。これから顔合わせるたびにアイツから嫌味言われるかもしんなよ!」
時針「アイツ意外にも恨む心が強いからな。俺も覚悟しなきゃな。」
分針「今はいいかもしれないけど俺達が離れたときはもっとしんどいぞ!終わった…俺の人生終わった…」
時針「それはそうとして俺たちもうすぐで重なるな」
分針「ああ。もうすぐあれか。あれうるさいから嫌なんだよな」
時針「でも、特別な存在って感じがしていいよな。俺もその役割が良かったな」
分針「確かに。一気に人間の注目浴びれるもんな」
時針「もうそろそろか」
秒針「お前ら、さっきのこと忘れてないからな!」
鳩「俺の出番だから静かにしろ」

人「もう十二時か。そろそろ飯作るか」

3/23/2024, 9:16:58 AM

「バカみたい」
一緒にバカやってた友達は28にしてとうとう就職した。そうやってみんな俺を置いてく。大学生の頃は絶対働かない同盟を組んでいたじゃないか。これで同盟を組んでいる仲間はいなくなった。これでは俺が寂しいじゃないか。スッゲーアホくさいじゃないか。それにしてもあいつ等が揃いも揃って抜け駆けしていくとは思いもしなかったな。しかも皮肉なことに同盟のリーダーのあいつが一番最初に就職した。大学を卒業して一年も経たずに焦り始めて必死に就職活動してたっけな。みんなで裏切り者とバカにしていた二人もいなくなった。最後の裏切り者の佐々木は随分と就職活動に手こずっていたな。それはそうか。空白の五年間があるんだもんな。その五年間は友人と酒飲みまくってゲーム三昧してましたなんて言えるわけないよな。佐々木は裏切らないって思ってたんだけどなぁ。
なんか一人になると急につまらんな。ゲームも酒も。同盟って人がいて成り立つものだしこのまま一人でやってても意味ないよな。そろそろ俺も重い腰上げて就職活動ってものをしてみるかな。せっかく働くならゲーム関係の会社に就職するのはありかな。

あれ?何本気で将来のこと不安になってんだ。俺は働かないで人生の幕を閉じるって小学生の時に決めたんだぞ!危なかった。今就職する方向に人生の舵をきるところだった。俺は決して屈しないぞ。会社の犬に成り下がるわけにはいかない!

一年後〜
彼は働かなければいけないという社会の仕組みには勝てず普通に働くのであった。

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