アルベルト幸薄

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「エイプリルフール」

「君の趣味は何?」
すこし間を置き、すでに決められていた文章をつらつらと喋る。
「はい、私の趣味はサッカーです。特技とも言えるサッカーは小学一年生のときから……」
全くの嘘である。低脂肪牛乳よりもうっすい味をした嘘だ。何ならそれを水で薄めたくらいがちょうどいいまである。小学生の時は帰りの会を終えたら誰よりも早く教室の扉に触れていた。そして一般的な小学生男子なら誰もがやったことのある趣味をしていた。それはゲームだ。現実世界なんてどうでもよかった。というよりゲームの世界が俺にとっての現実世界だ。そして学校などの現実世界はつまらないゲームだ。しかもハードモード。顔はパーツがそれぞれ孤立していて、他人のパーツから悪い部分を収集してそれをそのままくっつけたみたいな顔をしている。それに加えて友達禁止という縛りプレイもしている。
「……以上です」
「で、ではそれをどうこの会社に活かせますか?」
これも対策済みだ。自分でも薄っぺらだと自嘲してしまうほど薄い嘘なのだが。
「はい、この会社は……」
そういえばいつも嘘をついていたな。学生時代は人と喋るといっ嘘をついてしまう。自分のことを良く見せようと嘘をついてしまう。周りのやつが新作のゲームで盛り上がっているなら、俺は「そのゲームもうクリアしたよ」と、見栄を張り嘘を付く。「最後どんな感じだった?」と聞かれると、いつも焦りながら虚実を並べていた。その後、そのゲームをクリアした人は俺が嘘をついていたことに気付いていただろう。
「では、面接は以上です。最後に質問はありますか?」
「はい、入社までにしておくことは何かありますか?」
ようやく終わる。運が悪ければゲーム三昧の日々も終わりを告げる。

扉を閉めるときに音がたたないよう静かに閉める。
「彼は駄目だね。」
「ずっと黙り込んでいたからね。あのレベルでよく面接を受けようと思えるのだろうね。」
「あのレベルだと逃げずに面接を受けただけでも頑張ったと言えるんじゃないかなw」
「そうだなw」

「かなり手応えあったぞ」そうつぶやくと、受かることを確信した彼は人通りが少ない裏路地で突然立ち止まりボーっと空虚を見ている。

4/2/2024, 6:13:15 AM