アルベルト幸薄

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「ないものねだり」
私は容姿端麗。この世に性を承ってから十五年。何不自由なく親から育てられてきた。生まれたときから美人だと村中で騒ぎになった。子供の時から私に逆らう人は誰ひとりいない、そして今もみんな私の虜。子供の時から欲しいものはすぐに回りの大人が私のために買ってくれるし、私のためなら身を持って守ってくれる。私は天賦の才を与えられたのだ。いや、空から舞い降りた天使とも言えるかもしれない。だが私はただ天賦の才を与えられただけの人間ではない。私は努力を怠らない。私はこれまでにピアノ、書道、英会話と様々な習い事をしている。それに人間関係も良好。私の周りには常に人が取り囲んでいる。いままで友達に困ったことはない。そうだ、私は完璧なのだ。完璧でなくてはならない。私は与えられた才能に頼りっきりの非凡に見せかけた凡人とは違うのだ。
「おはよう!美香ちゃん」
自己陶酔中だったので話しかけるられるまで遥の存在に気づかなかった。
「あっ、おはよう!遥ちゃん、あれ?その花の髪飾り私のとおそろいじゃない?」
「あっ!気づいた?そうだよ、美香ちゃんのその髪飾り可愛いと思ってたから昨日買ったの」
私は普段から赤色の花の髪飾りを付けて学校に通っている。私の中の最近の流行りだ。真似されるということは尊敬されている証だ。悪い気はしない。
「なんか私達双子みたいだね」
「美香ちゃんと双子だなんて私にはふさわしくないよ」
そう思っているんだったらなぜお揃いなんかにするんだ。
「自分のこと卑下しちゃだめだよ。もっと自分のこと大切にしなきゃ!」
こういうことを言って欲しかったんだろ。謙遜をしているつもりなんだろうけど欲が丸見えだ。
「えへっ。そうだよね。だめだよね」
案の定の反応だな。本当は慰めの言葉が欲しかっただけなんだな。
「えーてかなにそれー。すごいかわいい」
筆箱のことを言っているのか?そういえば数日前に新調したんだったな。
「あー筆箱のこと?数日前に新しく買ったんだー。前の筆箱チャック外れちゃったから」
「すごいかわいいよ。それどこで買ったの?」
「駅前の文房具屋さんで買ったの。他にもいっぱいかわいいの売ってたよ」
「あっ!もうそろそろで次の授業が始まるから席戻るね」
「うん」
忙しない小娘だな。最近よく私に話しかけるようになってきた。あまり言いたくないが入学当初は陰気くさい子だったのに最近になって雰囲気が変わりつつある。髪型もいままでクセがあったのに今ではストレートだ。縮毛矯正をしたのだろうな。印象がガラッと変わった。垢抜けというやつか。だがそういうのは入学する前に済ませておくものだと思うが、真相はよくわからないな。

次の日〜
教室の扉を静かに開ける。するとあたりから挨拶が飛び交う。もちろん私に向けてだ。わざわざ私から挨拶するまでもなくみんなが挨拶をしてくる。
「美香ちゃんおはよう!」
「おはよう」
「これ何かわかる?」
「私の筆箱?」
なぜ私の筆箱を持っているのだ?まさか昨日教室に置いていってしまったのか?いやそんなはずはない。
「違うよーw美香ちゃんと同じの買ったの」
「そ、そうだったんだねwびっくりしたよ」
どうやら垢抜けするために私を参考にしているようだな。それはいい判断だな。だって私は一番の美貌を持ちみんなの憧れの存在なんだから。
「びっくりさせちゃった?可愛くてつい同じの買っちゃった」
「またお揃いだね。同じのをかわいいって思うから私たち感性が似てるね」
「そうかも、私たち似てるね」
そう言い遥はにっこり笑った。その笑顔に私は一抹の不気味さを感じた。

ピアノ教室〜
今日はピアノの日だ。学校終わりにピアノ教室へと足を運ぶ。習い事が忙しく部活は入っていない。習い事でも私が一番だ。あまり人を称賛しないタイプの先生でも私だけべた褒めだ。本来ならそんなことすればみんなが私に嫉妬するのだろうけどみんなはしない。それは単純で私が圧倒的な実力を有しているからだ。まぁ、家で死にものぐるいで練習しているからなんだけどね。
「あれ?なんで遥ちゃんいるの?」
そこには遥がいた。
「私ピアノ始めてみようと思ってるんだ。」
「へ、へぇーそれは良いことだね。なんでも教えてあげるから困ったことがあったら言ってね」
「ありがとう!これからよろしくね」
流石にゾクッとした。この娘に感じていた不気味さが顕著にでてくるようになってきた。こいつはどこまで私の真似をしようとしているんだ。習い事まで真似してくるのは尋常ではない。髪飾りや筆箱までなら許容範囲だったがこれは洒落にならない。この娘とはすこし距離をおいたほうが良さそうだ。だが変に距離を置けば避けているとまわりに勘づかれ私のイメージが悪くなってしまう。この娘は厄介だ。

その後、英会話教室にも書道教室にも遥は居た。それだけでなく彼女の私物をよく観察すると私と同じ物だらけだった。この異変に気づいているのは私だけでなく友達も気づいているようだった。友達によると口癖まで似せているようだ。口癖まで似せてくるとなるといよいよ恐怖を感じる。尊敬して似せてきているだけなのかわからなくなってきた。もしかしたら私への嫉妬により恨んでいるのだろうか?

ある日の放課後〜
「どうしたの?突然呼び出して。怖い顔しないでよ」
「ねぇ、私のこと真似するのはいいけど、度が過ぎてないかしら?」
私はとうとう耐えられず直接話すことにした。あのまま真似され続けるのは気持ちが悪い。
「嫌だな〜。真似だなんて、偶然だよ。」
「偶然?とぼけないでくれる。私の私物、習い事、口癖、挙句の果てには私のインスタの投稿まで真似してるじゃない!」
そうなのだ。遥は美香がインスタを投稿するとすぐに全く同じようなものを投稿していた。
「ねぇ、今どっちが本当の美香だと思う?」
「え?」
何を言っているのだ?どっちが本当の美香?私に決まっている。そうだ、間違いない。間違いない!間違いない?あれ?目の前にいるのは私?
「ねぇ、私の真似しないでよ遥ちゃん」




これは、ないものねだりから始まった。みんなのあこがれであった美香ちゃんが羨ましくて羨ましくて仕方が無かった。容姿端麗、それでいて何でもできる。勉強も運動も芸術も、どの分野でも勝てるところがなかった。欲しい。美香ちゃんの全部が欲しい。だから、私が美香ちゃんに、美香ちゃんが私に。

3/27/2024, 8:03:27 AM