アルベルト幸薄

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「好きじゃないのに」
コツコツ、コツコツ、私の靴の一定の音色が静寂の住宅街に響き渡る。ここを歩いているのは私だけ。まるでこの世界に私しかいないのではないのかと錯覚してしまう。はずだった。いつもどおりの電車に乗り、いつもの時間に最寄りの駅につく、そしていつも通りに帰路をたどるっている。だがそこに違和感がある。人だ。後ろに人がいる。偶然が重なりに重なってたまたま帰り道が同じなのだろうか?いやそんなはずはない。だっていままでこんなにも同じ人と帰り道がかぶることなんてなかった。いわゆるストーカーか?私ストーカーされるほどの魅力あったっけ?ちょっとニヤけてしまう。じゃなくて!このままだと家についてしまう。それだと私の家がどこにあるのかバレてしまうではないか。これは何か手を打たなくては。そうだ!後ろの人がストーカーか判断するには道を左に三回曲がるといいんだっけ?これでついてきたらクロだ。よし、早速十字路があるから左に曲がってみよう。私は不安と緊張を押し殺しなんとか平静を装いながら道を左に曲がった。ついてくるなと願うものの後ろの人は少し遅れて同じく左に曲がってきた。やっぱりついてきてる!あっ!また左に曲がれる道がある。三回って言ってたけどこの道もついてきたらもうクロってことでいいよね。再び左へと道を進む。いままで寄り道をせず真っ直ぐ家に帰っていたのでここはもう知らないところだ。後ろの人はやはりついてきていた。あーもうこれ完全に私のことつけてる。思い切って聞いてみようかな?今更家に帰ろうとして来た道戻ったら怪しまれるしね。
「あのーすみません。失礼なのですが私のことつけてます?」
後ろの人は男性だった。見た目は身長が高くガタイがいい。この体格で襲われたら私勝ち目ないよ。年齢は四十代前半といったところか?見たところ怪しいものは持っていなさそうだ。
「いやいやいや、つけてるなんてそんな。あっ!そこです!私の家そこです!私は佐藤と言うものです。」
怪しい。わかりやすい嘘だ。とっさに思いついた嘘でももうちょっといい嘘をつけるだろう。呆れた。
「そうなんですね〜。そこが本当にあなたのお家なら入ってくださいよ〜。私の目の前で。」
「えっと、いやその、すみませんでした!」
いきなり大声で謝られたのですこし肩が跳ねる。
「やっぱりつけてたんですね。」
「本当にすみません。僕と付き合ってください!」
「いや、この流れで私が良いですよなんて言うと思ってるんですか?」
「勢いじゃ駄目だったか。ムードが足りなかったかな?それとも理由も付けて告白したほうが伝わったかな?」
「この場で一人反省会開かないでください。そもそもあなた誰なんです?」
「私は加奈羅図 ツケルと申します。あなたを電車で見た時世界が一変しました。あなたは私の天使です。こんなに美しい人を見たことはありません。」
「へぇー。フッフッフッ。」
何、ストーカーの言葉に気持ちよくなってんだろ私
「それにしてもすごい名前ですね。あなたを名付けた人絶対狙ってますよね。親が付けたんですか?だとしたら本当に名前のとおりになってますよw」
「うわぁ、急に煽ってきた。こんな人だったのか、ちょっと相手ミスったかもな。ていうかそもそも俺ストーカーなのに全然ビビってないしなこの人。」
「え、小学生の時ってやっぱ名前いじられたりしたんすか。」
「やっぱりこの嫌な人だ。しかも今の一言で小学生時代のトラウマ蘇ったし。」
「あーその反応やっぱりいじられてたんすねw。可哀想に〜。私だったら人生やってられないですよw」
「えー、何この人ー。俺つらくなってきたよ。この人小学生のときにいじめてきた人と若干似てるし。」
「来世はいい名前つけてもらえるといいですねwでもストーカーしてる人が来世いい人生になるわけ無いか。そっかそっかwそうだよねw無駄な期待しちゃったよね。ごめんねw」
「もう、死にたい…。帰ります。もうあなたのことはつけたりしません。というかあなたのことはつけたくないです。」
「もう遅いですよ。耳をよく澄ましてみてくださいよ。」
遠くからパトカーの音が聴こえてくる。
「いつの間に。あの会話中に通報してたんですね。気づかなかった。」
「名前も馬鹿そうなのに、頭もちゃんとバカなんですねーw」
「もう嫌!早く警察来て!なんでもいいから取り敢えずこの人から離れたい!」
このあと警察が来て彼を連行していった。
「好きじゃない人に好かれるのは意外と面倒だな」
そうつぶやき私はすこしスキップぎみに自宅へと向かうのであった。

3/25/2024, 12:57:11 PM