名もなき鼓動

Open App
3/22/2026, 9:55:19 AM

「二人ぼっち」

その日はお客さんが多く、厨房内はかなり厳しい状況だった。

ラストオーダーの時間を迎え、溜まっていたオーダーも次第に減っていく。
10分程して全て捌き終わった。

ただ、この時間で上がる人もいるため、厨房内は自分ともう一人だけになってしまった。
…何も締め作業が進んでいないのに。


お互い会話をすることなく、黙々と作業を進める。




そこからどれだけの時間がかかったのかはあまり覚えていないが、普段は厨房よりも締めに時間がかかるホールが、こちらより早く締め終わったらしい。
…そう、ついに私たちは二人ぼっちになった。




定時から1時間遅れでようやく締め終わり、二人でその日の労働を労った。

その人は自分よりも2年程先輩で、自分が業務関連以外では無言を貫いてきた新人時代に、心を開くきっかけになった人である。
正直この方がいなかったら、自分はここを既に辞めていただろう。

二人で他愛もない話をする時間。
他者と関わるのが苦手な自分でも、楽しいと思える。




色々話をしている途中で突然、その方が
「連絡先交換しません?」
という趣旨のことを言ってきた。




驚いた。
けど嬉しかった。
仕事ではあまりお役に立てていない自分でも、受け入れてくれた感じがした。


連絡先を交換してその日は帰宅した。
これだけでも個人的には満足だった。


―しかし、それだけでは終わらなかった。
帰宅して約30分後だろうか、その方から連絡が来た。
驚きと、こんなに自分に構ってくれているという事実とで、よく分からない感情になった。




なぜだろう。
その時、止まっていた人生の歯車が、また動き出したような気がした。
漠然と、"何か"が起こる気がする。




仕事は大変になるが、二人ぼっちも悪くないな。

…ありがとう。

11/18/2025, 8:50:53 AM

「冬へ」

日差しの温もりと冷ややかな風。
季節の移ろいを肌で感じながら、いつも通りの日常を送る。

夏と比べると大分空が薄く、儚い色になった。
夕空のグラデーションが、より一層儚さを増す。

一年の中でもこの時期は、様々な意味で転換期なのだろう。

人間関係、勉学、業績、空、気温…

自分も昨日、とある人間関係に一度終止符を打ったばかりである。
この気候とともに冷え込み、奥深くまで隠れて眠っていく。

しかし、自分が眠りに吸い込まれるのはまだ早い。
"冷たさ"を乗り越えられるだけの栄養を蓄えなければ。



いつか暖かい空気で起こされるときを夢見ながら。
白い息を吐いて、冬へと向かう。

10/8/2025, 1:40:33 PM

「愛する、それ故に」

自分の交友関係は比較的狭い方だろう。
というのも、訳あって自ら人と関わることを避けているから。
その"訳"というのも色々含まれているのだが…1番は、自分はこの世に生きてよい存在ではない、ということだ。

自分は、過去に大きな過ちを犯した。
世間一般的に、許されない過ち。
ネットの投稿を眺めても、「死ぬべき」とされているのははっきりと分かる。
だからなるべく人との関わりを薄くして、誰からも必要とされなくなったら消えようと思っている。

しかしそんな自分に対してでも、関わってくれる人は少なからずいる。
…自分を偽っているからだけれども。
そればかりか、自分を支えてくれている感じがする。

こんな自分でも関わってくれる人たちを、幸せにしたい。
もう、誰も傷つけたくない。
関わってくれるみんなに、同じように尽くしたい。


けれども、みんなに尽くす…みんな同じくらい平等に愛するが故に、誰かを傷つけてしまうことになるのなら、、、





―自分は何のためにこの世に存在するのか、

                 も う わ か ら な い 。

9/10/2025, 4:25:19 AM

「フィルター」

自分は自分であるが、自分ではない。

誰かと話すとき、自動的に自分にフィルターがかかる。
例え親友であっても、家族であっても。
意識的にやっている訳ではない。
関わる対象が変われば、フィルターも変わる。

自分のはずなのに、自分ではない。
明るく振る舞う自分、頼られるような自分…

暗くて、無気力で、残酷。それが本来の自分。
独りのときは全て負の要素で構成されている。

社会から拒絶されるのがきっと怖いのだろう。
環境に適応するために、フィルターが負の要素を内へ留め、同時に美化する。

元の自分を受け入れてくれる人なんて実際いるのか。

本当は、そんな自分に触れて、受け入れてほしい。

このままでは、フィルターの自分が偽りの自分となる。
そうなれば、自分は何かの操り人形だ。




…苦しみと葛藤の渦に溺れて、"自分"はこの世に溶けていく。

8/23/2025, 5:04:47 AM

「Midnight Blue」

バイトの締め作業を終え、1人静けさの漂う駐輪場へ向かう。
その日は客が多く、上がりが遅くなっていた。
気がつけばあともう少しで日付が変わる。

ジャケットに手を通し、メロンソーダを片手にシート上で一息つく。
疲れた身体に沁みていく。
メロンソーダを飲み干したら、後は帰路につくのみ。

ちょっと重いヘルメットを被り、相棒…原付を走らせる。


アルバイトの過程で自分が1番楽しみにしているのが、この帰る時間である。
風を切って、日中は渋滞している道路をも颯爽と駆け抜ける。
カーブのない一本道だからか、綺麗に整備された街並みが背景となり、夜空を引き立てる。

黒のはずなのに、ただの黒ではない。
黒の中に青が混じり、深みが増している。
藍色とも言えない、全てを飲み込みそうな色。

…美しい。



―再び吸い込まれるため、今日もまた相棒と。

Next