華やかな着物を着た子どもらとすれ違う。
かつて自分も通った道だが、この祝福された子どもと同じ空間にいることに気後れした。
「今日は七五三か…」
散歩がてら神社に行って閑散な空気を味わおうと思ったのに、まさかおめでたい空気を浴びることになるとは。
私は逃げるようにしてその場を去る。
「こんなつもりじゃなかった。う、さむ。」
秋風は吹き荒れて空気を鳴らし、空には木の葉が舞った。
つやつやした木の葉は光を反射し、澄んだ青とくすんだ赤、鮮やかな黄色が視界で目まぐるしく踊る。
「はあ、綺麗…」
降り注いだ木の葉は、私を祝福するかのようだった。
ススキの季節には、目を痛める花も咲く。
「うわ、この辺はセイタカアワダチソウばっかり。この黄色、何度見てもどぎついわあ。」
同感だ。
母とドライブで田舎方面に走ると、大抵この花を目にする。
菜の花の黄色は好ましい。向日葵の黄色も暖かい。
なのになぜセイタカアワダチソウは嫌われるのだろう。
「でもこれだけ生えてればさ、そのうち居なくなるよ。」
セイタカアワダチソウは生えすぎると自滅する。
最初その話を聞いた時、"なるほど、強すぎる個性にふさわしい"と思った記憶がある。
哀れなセイタカアワダチソウ。
どれだけ咲こうと、秋の一員にはなれず。
黄色を持とうと、月とは並ばない花。
彼の目の前では、ひたすら寿司が跳ねている。
と言うのも、ボタンを1度押すと1度寿司が跳ねる。
それだけのゲームを続けているからだ。
他のゲームハードであれば回数をこなすことでトロフィーを得られたものの、残念ながら彼のプレイするハードにはトロフィーシステムが無く、このゲームの持つ唯一の価値すら失われている。
「はァ〜クソゲーとかいうレベルじゃねえコレ!虚無!何も生み出さない虚無!いや本当に虚無かな?この繰り返しは人生を意味しているのでは。もしくはボタンを押すことで得がたまる亜種マニ車みたいな…」
赤い顔でブツブツ呟く彼を、隣の部屋から教授とその弟子がモニターで監視していた。
「教授、これ何の研究なんスか?」
「ああこれ?クソ退屈で面白みの無いゲームをやらせた時、脳の働きがどうなるか見てんの。」
「ふーん。」
さほど興味を示さない弟子を横目に、教授は続ける。
「ちなみに今、彼は壮大なストーリーを考えているみたいだ…ふ、ぷふ…突如世界中に寿司流星群が降り地球がピンチになる中、生魚に耐性のある日本人が活躍すッぷぷぷ…」
「面白がってんじゃねえかアンタ。一般人にあんまり無意味なことさせてんなよ。アレの精神ぶっ壊れるぞ。」
教授は批判を受けたことに反感を覚えたのか、小馬鹿にするような視線で弟子を見る。
「無意味か。僕はね、どうせXでもやって使い潰すニートの無意味な時間を削り取って、研究材料という意味を持たせてあげてるんだ。これは社会貢献だろ?」
「はァ…本人がそれに意味を感じなけりゃ、何やらせようと無意味でしょーよ。本当に性格終わってんな。」
「あなた、本当にわたしとそっくりね!」
部屋の前に立っていた人物は、容姿や髪型、服装や趣味までもわたしと同じだった。
「そう?世界には自分と同じ顔の人が3人いるっていうし、今会えたのは奇跡かもね。」
不思議なことに彼女が言ったことは、まさにわたしが話そうとしていた内容だった。
「へへ、そうかも。実はわたしも同じ事考えてたんだ。ねえ、友だちにならない?」
「それはちょっと、私には難しいかな。」
「理由を聞いても?」
「それはね。」
「あなたが失敗作だから。」
わたしは、銃で頭を撃ち抜かれた。
そして私は、血溜まりの床を眺める。
「ごめんね。いくらあなたが"私"のクローンと言っても…私に似すぎているのは困るんだ。」
「今日も雨か…」
「兄貴、今日は何の雨?」
「今日はな、"柔らかい雨"だ。」
小学生の弟は、柔らかい雨と聞きぱあっと明るい顔になる。
「おっしゃ!よーし家にあるバケツ、全部外に出そ。」
「全く、そんなん貯めてどーすんだよ。」
呑気なものだ。全く…普通の雨が良かった。
「慈雨とか、涙雨とかだったらまだマシだったのにな。」
俺は傘を持ち、外に出る。
「こんなん傘でどうしろって言うんだ。」
家の外では、数え切れないほどのマシュマロが降り注いでいた。