《相合傘》
「はぁ…また雨降ってる…」
「え?!今日の予報雨って言ってたっけ?」
「なんか急に降るかもみたいな予報だったよ」
「うわ〜最悪。傘持ってないよ…」
学校を出ようとした時、私たちは突然の雨に…帰る道を阻まれてしまった。かなり降ってるし、どことなく梅雨を感じさせる。
「どうする?ちょっと雨宿りする?」
「う〜ん、私は傘持ってないけどさ、そっちで実は持ってました〜ってのはない?」
「どうだろ…」
私はガサガサとカバンを漁る。…すると少し小さめだが傘が出てきた。
「あ、あった」
「ナイス!じゃあ一緒に帰ろ!相合傘で」
「小さいから多分どっちも濡れちゃうけど…いい?」
「そう言われるとそうかぁ…」
などと雨が弱まるのを待つかどうかと喋っていたら下駄箱からある男の子が出てきた。途端に彼に目を奪われた。なぜなら…彼は私の好きな人だ。よく見ると傘を持ってなさそうだ。そして手元には傘がある。チャンスではないか?彼と身体的にも精神的にも近づけるのではないか?どうしよう。考えてる内に彼はカバンを頭の上に掲げてダッシュで帰ろうとしている。もう決心しなければならない。よし、声をかけよう…!
「う〜ん、よし!やっぱ相合傘で帰ろ!今度なんか奢るから!」
「………」
「お〜い!」
「…え?あっ…そぅぃぇ…」
「ん?なんか言った?」
「な、な、何でもない!よし、帰ろう!」
…そうだった。私は彼女との相合傘が半ば決まっていた。周りを見ずに突っ走らなくてよかった。危うく友情に亀裂を入れる所だった。
そうして私は恋ではなく友情を取って相合傘で帰った。
《落下》
人間は落下を恐れているらしい。
今ある地位からの転落。株価の下落。業績の悪化。物理的な意味以外でもこのように落下はたくさん存在する。だが落下は人生に必ず付き纏ってくる。特に精神的に。
あなたは『落下』をどう対処する?
それとも一緒に落ちる?
《未来》
「強盗だ。金を出せ」
私は銀行で人質を取って金を盗もうとしている。正直、全くこんなことする気がなかった。
だが、家が火事になって一文無しとなった私にはもうこれしか残されていなかった。
ああ…何やってんだろ、私。
「おい、早く持ってこいよ!警察呼んだらコイツ殺すぞ!」
もう自分の気持ちも押し殺さなければならない。生きるためには…こうするしかない。
どこで道を間違えたのだろうか?
…などと考えていたら
「武器を下ろせ!撃つぞ!」
警察がやってきていた。やっぱりか。こうなることは薄々気づいていた。
ならば殺るしかない。さようなら、私の輝かしい未来。
さようなら、儚い命。自分でも驚くぐらいにスムーズに人質の首を切ってしまった。私の未来は…血の色―赤色になった。
とっさに持ってきていた煙幕弾を投げ、逃走した。あの頃想像していた未来とはまた違うものになってしまったなぁ…
《1年前》
私は“そのお墓”に手を合わせていた。
「最近、行けなくなっちゃってごめん…すごい久しぶりだよね」
そんなことを言いながら墓石をタオルで拭く。
「私…さ、今も頑張ってるよ。あなたのこと、全然忘れられないけど」
「…そんな愚痴言っててもしょうがないよね…」
すぐ近くのスーパーで買ってきた花を供え、コップにお茶を注いだ。
「あ…お茶じゃないほうがいいかな?あなた、ジュースとか好きだったもんね」
私は鞄をゴソゴソと漁るが…ジュースはなかった。
「ごめん…お茶しかないや」
そして、線香と蝋燭も供えた。
「さて、読みますか」
お経をいつも通り読んだ。あなたがいなくなる前は全く知らなかったのに、もう覚えちゃったよ。
…一通りお経を読み終わった後、お茶を墓石にかけてやった。
「次はジュース持ってくるからね…」
今日は…彼が亡くなって丁度1年。私の彼への想いは消える様子がない。
《好きな本》
「いきなりだけど、別れない?」
急に彼氏にそう切り出された。私に落ち度はなかったと思うのだが。
「え…なんで…?」
「なんでも何も…ちょっと事情が…」
「そうやってはぐらかすわけ?じゃあ…もういいわ。別れましょう。さようなら。」
あーあ、別れちゃった。なんであんな強い言葉を使っちゃったんだろう。もう、さっさと帰ろう。いつもより早く。
そうして、家に帰り、部屋にすぐ閉じこもってしまった。
途端に襲いかかる疑問と後悔。
「なんで突然別れようなんて言ったの?理由って何?なんで、私はあんなにも突き放したの?好きだったのに。なんで?なんで…?」
うわ言のように呟きながら机に突っ伏した。
何かが腕に当たった感覚があった。ふと見ると、日記帳だった。…これは私と彼についての日記だ。なんか彼との日々を忘れたくなくて記録していたのだ。
「…これも捨てるか」
手に取りゴミ箱へと持っていこうかと思ったが…
『私』が許さなかった。いやだ。思い出は取っておきたい。
そうして捨てずに今も取ってあり…たまに見ては思い返してしまっている。私の好きな本。自分でもホントに残念だと思うが彼との思い出の日記帳が一番好きな本だ。