─夜明け前─
スマホの画面には君の名前とLINEアイコン。
…嗚呼、また夜を更かしてしまったのか。
もう何回目かわからない通話。
夜明け前の、淡い青空になるくらいまで通話することもしばしば。
なんでこんなに電話するようになったんだっけ。
…あ、そうそう。君が控えめな僕に何故か話しかけてくれて。
アニメの話とかで盛り上がって、LINEも交換して。
通話を通していくうちに、なんでも話せる仲になって。
君も、僕のことを心から信用できるやつだって言ってくれて。
でも…たまに。本当にたまに、君を殺してしまいたくなる。
いつか君が…僕のことを裏切って、嗤う日が来てしまうんじゃないかって。
今までの思い出が、すべて演技だと突きつけられるんじゃないかって。
そんな日がいつかくるのかと、話す度に怖くなって。
だからそんな日がくる前に、君を殺してしまいたい。
…きっと僕を信用してるのは本心なんだろう。
けど疑ってしまう。怖くなってしまう。
そんな僕を、君は友達と呼べるかい?
─1件のLINE─
相棒と、喧嘩した。
その相棒ってのは一緒にシェアハウスしている、俺の中で一番仲の良い奴だった。
喧嘩のきっかけは些細なことだったと思う。
そこで謝ればいかったものの、ムカついてたせいか昔のミスを指摘したんだ。
そこから段々エスカレートしてって、今までで一番大きな喧嘩になった。
自分でも、過去の話を持ち出すなんてださいって分かってた。
でも、疲れが溜まってたんだと思う。俺も、あいつも。
それから3日間、相棒は帰ってこなかった。
流石に心配になって、ずっと無視していたLINEを見た。
そこには「3日前:世界一の相棒!からの1件の通知」と示されていた。
嗚呼…たしかふざけてこんな名前にしたんだっけ。
そんなことを考えながら、その1件のLINEを見る。
そこには「○○病院 305号室」とだけ残されていた。
俺は嫌な予感がして、急いでその病院へ向かった。
一瞬、なにかの悪戯なんかじゃないかと思った。
305号室。3月5日と捉えると、俺の誕生日だった。
だから、やり返すためのドッキリだと、何処かで信じていた。
しかし現実は残酷で、そんな理想は呆気なく壊された。
病室にはベッドに横たわって、管がたくさんついた相棒の姿。
見ているだけで痛々しい相棒の姿を見て、俺は後悔した。
なにも出来ずに突っ立っていると、医師らしき人が入ってきて、
一瞬驚いた様子をしながら、別室に案内された。
相棒は、3日前。つまり、喧嘩した日に、事故にあったと。
なんでも、手にはコンビニの袋を持っていたからコンビニ帰りらしい。
「その袋を一応」と渡されたが、その中には俺と相棒が好きなアイスが1本ずつ入っていた。
同じ袋には手紙も入っていて、「ごめんな 世界一の相棒へ」と書いてあった。
─日常─
朝、雨音で目覚めた。
枕元の時計は6:00を示している。
嗚呼、そうだ。昨日は寝落ちしたんだっけ。
窓を開けっ放しにして、ベッドの上で本を読んでいたんだ。
回りを見渡すと床に落ちた数冊の本。
窓も開いているため、雨の音がしっかりと聞こえてくる。
そういえば、もうここも梅雨入りしたんだっけ。
窓の外から聞こえる、雨がトタン屋根に落ちる音、
蛙の鳴き声、木々のざわめき、車の過ぎてく音、跳ねる水溜まりの音。
早く窓を閉めないと、雨が入ってきちゃうな。
もっとこの音に耳を傾けていたいけど、これからこの音が日常になるのだから。
窓を閉めるくらい、惜しくないことだ。
さぁ、目を開けて、朝食を食べようか。
─正直─
…ふふ、貴方ってほんとに正直者ね。
普通は言い訳でもして、自分の女を手元に置いておくものなの。
…え?知らないって?
まぁ、そうよね。貴方ってそう言う人だものね。
…えぇ、勿論。知ってるに決まってるでしょ?
だって貴方を好きになった女よ?好きな人を知ってるのは当たり前。
…なんて言っても、どーせわからないでしょうけど。
あーあ、もっとマシな男に惚れとけばよかった。
…何?私の中で貴方がどんな人だったか?
んー…正直者で、ちょっと馬鹿で、でも可愛い所もあって、やっぱり馬鹿で…。
え?馬鹿って二回言った?実際そーだったしいいでしょ。
まぁとにかく、私が今まで一緒に居た中で一番楽しかった人、かしら。
貴方との日常は楽しかったわよ。思い出の物も沢山できたし。
まぁ…きっと貴方はこの後捨てるでしょうけど。
…捨てない?はぁ、口ではなんとでも言えるのよ。
とにかく、浮気した貴方とはもう付き合っていけないわ。
…そう、お別れ。もう一生会えないわ。
じゃあ最後に…私を楽しませてくれてありがと、バカ正直さん。
─快晴─
えー、実はわたくし、先日死んでしまいまして。
とても他人事のように言ってるって?いやいや、自分でも驚いてますよ勿論!
でもねぇ、その死に様がこれまた綺麗なモンで。
今日はそれを話したくて来たんですよ。
わたしが死んだ日はね、真っ青な空が広がる快晴だったんですよ。
その日は、特別大事な用があった訳でも無かったのでね、散歩に行こうと思いまして。
実はわたしの家の裏には、大きな山がありまして。
これまた見事な桜が咲いているんですよ!
しかもあまり知られていない、穴場だったんです!
だからわたしはその山をとても気に入っておりました。
勿論今年も、見事としか言えないような桜が咲いておりましたよ。
5枚の花弁が風に揺られ、その下には散った花弁の絨毯がありまして。
どうやらわたし、その桜に魅了されましてね。地面なんて見てなかったんですよ。
その先に階段があることを忘れて…。えぇ、皆さん御察しの通り、落ちてしまったのです。
薄ピンクの絨毯に、赤黒い血はとても目立ちました。
そのあとは眠るように…という感じですね。
人も居ない田舎町だったもんで、私が見つかったのかも分かりませんね。
これこそ桜の木の下には死体が埋まってる、ってモノですね。
なんと浪漫ある死に様でしょう…わたくしはとても感嘆したのです!
只でさえ綺麗な桜の下で…おっと、長く話し過ぎましたね。
長くなると止まらないので、これでわたしの最終章は終わりと言っておきましょうか。
是非貴方の死に際も、此方に来た際にお聞かせください。では、また何時か。