海月 時

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2/10/2025, 2:14:51 PM

「だから、星に願うんだ。」
そう言う彼女を、ずっと見ていたいと思った。

「君は星が好きかい?」
彼女は、僕に問う。僕はいつもと変わらずに答えた。
「嫌いだよ。」
彼女は嬉しそうに笑っていた。

彼女と僕は幼馴染だ。大学に入っても僕達の関係は変わらず、僕は未だに彼女の世話係だ。子供の頃から彼女に振り回され続けた結果、僕は彼女の行動については大体理解できるようになった。それでも、毎日のように交わすあの質問だけは理解できない。彼女はどういった意味で僕に問うのだろう。

「今日も祈ってるの?」
「もちろんさ。」
正直、星に願うのは止めて欲しい。嫉妬してしまうから。
「そういえば、君は何故星を嫌うのかな?」
言ってしまっても良いの?君が好きだから、星に嫉妬してしまっているのだと。恋敵である星が嫌いなのだと。
「本心を言ったら君は、僕を嫌いはずだよ。」
「嫌わないさ。」
「何でそう言い切れるの?」
「君が私を嫌った事はないだろ?だからさ。」
あぁ、恋とは本当に厄介。
「まぁ、君の本心は大体分かってるのだけどね。」
「えっ!?」
「君は私が好き、だから恋敵である星が嫌いなのだろ?」
「…いつから知ってた?」
「さて、いつからだったかな。」
こいつ、だから僕しか友達が居ないんだよ!

「じゃあ、あの質問って何の意図があったの?」
「君がまだ私の事を好きかの確認さ。」
「悪趣味すぎる。」
「知ってるよ。だって私は、君に好きで居て欲しいから、嫉妬して欲しいから、だから、星に願うんだ。」
あぁ、僕の惚れた彼女は、とんだ悪女のようだ。でも、目を離すことができなかった僕は、とっくに彼女に心酔しているみたいだ。

2/4/2025, 2:51:57 PM

「死にたいな〜。」
彼はそう言いながら、私の髪を撫でていた。

【俺が死んだら、すぐに忘れてくれて良いよ。】
夜中に送られていた一通のメール。私がそのメールを見たのは、夜が明けてすぐの頃だった。私はメールを閉じ、出かける準備を始めた。

前から彼の死にたがりは知っていた。病弱で難儀な生活を送ってきたからこその、思いだとも理解していた。しかし、私は彼と生きる事を諦めきれなかった。だから、無知なフリをしてきた。本当に、馬鹿だよ。君も私も。

コートを着たら、さぁ出発だ。目的地は、彼が以前買っていた墓のある墓地だ。私が自宅を出た頃には、ぼちぼち店開きが始まっていた。私は、少し花屋に寄った。
「いらっしゃいませ。どのような花をお探しですか?」
店に入ると、元気の良い声が通った。私は、定員さんに一つの花束を頼んだ。定員さんは不思議そうに、花束を包んでくれた。

彼の墓に着く頃には、すっかり日常が灯っていた。
「まさか、本当に死んじゃうんなんてね。」
返事はない。もしかしたら、彼はまだ、ここに来ていないのかもしれない。
「あのメールさ、何なの?忘れても良いなんて、君が言うなよ。」
気づいた時には、私は泣いていた。
「この花が散るまでは、覚えてやるよ。」
私はそう言い、先程買った花束、造花の花束を乱暴に置いた。

煙草を蒸す。今までは彼のために禁煙していたのに、もう禁止する理由はない。
「造花の花言葉、君は知ってるのかな。」
まぁ、良いか。何が何でも、この永遠の花束は君ので間違いないのだから。

1/27/2025, 2:56:18 PM

「地獄に堕ちろ。」
そう言う彼の瞳には、怒りと悲しみが滲んでいた。

「死にたい。」
学校の屋上から景色を眺めながら、今の感情を吐き出してみる。それを俺の親友は静かに聴いていた。いつだってそうだ。彼は俺の愚痴を聴くだけで、何も答えてはくれない。しかし、今日は違うみたいだ。
「死んでもいいよ。」
俺は心がすく思いがした。この会話が、俺と彼の最期の会話となった。

『ここは、あの世か?』
目が覚めると、何もないところに立っていた。俺の自殺は成功したようだ。
『これで自由だ。』
「それは良かったね。」
独り言のつもりが、言葉が返ってきた。声のした方を見ると、そこには鏡があった。そしてその中に、声の主、俺の親友が映っていた。どうしてここに?そういえば、彼の家は神社だったか。こういう力があるのかもしれない。
「君の今の気持ちは、最高ってところかな。でも、僕は最低な気持ちだよ。何故か分かる?」
『分かんないよ。』
「僕の親友が死んでしまったからだよ。僕のたったの一言のせいで。」
言葉に詰まる。そりゃそうだ、彼にとっては夢見の悪い話だ。
「ねぇ、僕初めて知ったよ。人間にとって一番不要なものって、勇気なんだね。」
『俺は勇気のお陰で、自由になれた。』
「そうだね。でも僕は、君の為の勇気のせいで、親友を失ったんだよ。」
彼も悩んでいたんだ。俺の為に背を押すべきか、生きていて欲しいと言うべきなのか。
『ごめん。自分勝手で。』
「許さないよ。だから、地獄に堕ちろ。」
そう言い、彼は鏡ごと消えた。

もし、地獄に堕ちたら彼とまた会えるだろうか。彼と会えるなら、まだ残された小さな勇気で、地獄に堕ちるのも悪くないと思った。

1/15/2025, 2:20:48 PM

『条件があります。』
強い口調とは裏腹に、彼女の瞳は嘆いているようだった。

『お久しぶりですね。』
そう言って微笑む彼女には、影がない。それもそのはず、彼女は先月亡くなったのだ。

不運な事故だった。歩道を歩いていた彼女に車がぶつかった。それだけの在り来りな死。しかし、それは僕を苦しめるのには十分すぎるものだった。最愛の人を、心の拠り所を無くした僕は、木偶の坊だ。

『体調でも悪いのですか?暗い顔をしてますよ。』
幽霊に心配されるなんて、何だか不思議だ。でも、自然と彼女が来た理由が分かる気がする。
「君は、僕に生きろって言いに来たの?」 
彼女は少し戸惑ったようだったが、すぐに生真面目な顔に戻った。
『肯定も否定もできません。しかし、一つ言えるのは、私はまだ貴方に笑っていて欲しい。それだけです。』
どうやって?君が居ない世界では、もう息が持たないよ。僕は君の隣だけで笑っていたいよ。
「会いに逝かせてよ。」
『…それには条件があります。』
彼女は必死に笑顔を保っているように見えた。
『一つ、精一杯生きる事。二つ、無理をしない事。』
矛盾している二つ。でも何でだろう。彼女が言うと、とても美しく聴こえる。
『最後に、笑う事。この三つを自分なりに頑張れたなら、私は貴方のもとへ再び現れます。そして、貴方と共に天国へ向かいましょう。』
僕の瞳から雫がこぼれる。世界がぼやけて見えた。そのせいだろうか。彼女も涙を零しているように見えた。

今日までの日々も、これからの日々も、彼女のために生きると僕は誓った。

1/13/2025, 2:08:01 PM

「綺麗。」
一目見た瞬間、言葉が自然と溢れた。

「はぁ、やっと放課後だ。」
ため息が出る。放課後、誰も居ない教室、そんな中、私は留まっていた。理由は一つ。絵を描くためだ。普段騒いでいる分、放課後は絵に集中しようと決めている。
「今日のは、良い出来かも。」
一人で納得し、帰る準備をしている時、窓際の机にスケッチブックが置いてあるのが見えた。私は好奇心から、スケッチブックを開いた。
「綺麗。」
そこにはまるで写真から飛び出たように美しい風景化が描かれていた。綺麗。その一言だけが、この絵には相応しいと思えた。
「おい、勝手に見んなよ。」
絵に見惚れていると、一人の男子生徒が立っていた。
「この絵描いたの、君?」
「だったら何?陽キャ様には関係ない。」
彼はそう言って、スケッチブックを取り、素早く教室から出ていった。

家に帰り、次第に苛立ってきた。確かに勝手に見たのは悪かったけど、あんな風に言わなくてもいいじゃん。絵を描く事にカーストなんて関係ないし。
「でも、本当に綺麗だった。」
あぁ、余計にムカつく。 

次の日の放課後。私は昨日の男子生徒を探した。さて、何処に居るんだ?そういえば、彼の絵、屋上からの景色だったような。ものは試しだ。行ってみよう。

「居た。」
「…何か用?」
「無愛想にも程があるでしょ。君の絵に用があるの。」
「意味分かんない。何のメリットがあるの?」
「絵を見るのに、メリットっている?…実は私も絵描くんだよね。でも、誰にも言えてない。昔、絵を描くのキモいって言われた事を引き摺ってんの。」
「いきなり何?」
「今度は、君が秘密を言う番。」
「強引すぎ。…色盲な事。絵を描くのに、障害でしかないよな。だから、いつも本当の景色は描けない。」
「そうだったんだ。ねぇ、これからは一緒に絵を描こうよ。私が君に、色を教えるよ。」
「何でそんな事…。俺に構っても意味ないよ。」
「だって、もう友達でしょ?秘密の共有したし。」
「変わってんな。…まぁ、良いよ。」
「決まりね。」

「俺に、世界の色を教えてくれよ。」
一緒に描こう。まだ見ぬ景色を。

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