海月 時

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5/27/2024, 2:33:25 PM

「地獄に堕ちろ。」
遠い昔。俺が殺し屋を営んでいた頃、誰かに言われた言葉だった。そんな事を思い出しながら、俺は今日も笑う。

「あの世でも、暴れてやるよ。」
これが、俺の最後の言葉だった。俺は、趣味で殺し屋を営んでいた。別に、人殺しの理由なんてない。ただのストレス発散だ。そんな狂った日々を過ごしていたが、ついに捕まってしまった。判決は、死刑。当たり前だ。特に驚きはしなかった。むしろ、あの世への生活を夢見ていた。俺は、笑顔で地獄へ堕ちて逝った。

『ここが、地獄か?』
辺りは真っ暗で、何もなかった。ただただ、冷たかった。
『お前はここで、侵した罪を償え。』
突然、低い声で告げられた。周りを見渡しても、誰も居ない。
『俺は何もしていない。償うことなんてない。』
声の主は、深くため息を付いた。
『ならば、二度とお天道様を拝めないだろう。』
それだけを言って、声の主は消えた。何が、罪を償えだ。上から物を言いやがって。いつか、下からの景色拝ませてやる。
『それにしても、地獄ってあるんだな。地獄があるなら、天国もあるのか?まぁ、どうでもいいか。』
独り事を言いながら、俺はこれからの事を考えた。このまま地獄で暮らすのは、退屈だ。ならば、これはどうだろうか。俺は、一つの考えを思いついた。
『天国をここに作ればいいんだ。』

俺はあれから、天国と地獄のボスを殺した。勿論、物理で殺したのではなく精神を殺した。生前に身に着けた技の一つだったので、すんなりと精神を侵食できた。今では、俺に逆らう事はない。
『天国と地獄。二つが交わった場所。これこそが、俺の王国にふさわしい。』
俺は今日も、笑い続けた。

5/26/2024, 2:41:39 PM

『今宵は月が綺麗ですね。』
「ここって、故人図書館で合ってる?」
『左様でございます。よくご存知で。』
「友達に聞いたんだ。色々相談に乗ってくれたって。」
『あの時のお方の友人でしたか。それで、ご要件は?』
「僕の相談も乗ってよ。」
『ここは死者の記憶を記す場所であって、相談室ではありませんよ?』
「知ってるよ。でも、周りの人間は誰も話を聞いてくれないんだ。仕方ないでしょ?」
『今回だけですよ。それで、相談とは?』
「僕、もうすぐ病気で死ぬんだ。」 
『左様ですか。それが何か問題でも?』
「死ぬのが怖いんだ。」
『死とは、誰しもに平等に与えられたものです。抗えませんよ?』
「そんな事は分かってる。僕は、世界から忘れられたくないんだ。」
『忘れられませんよ。そのための故人図書館です。それでも怖いのなら、月に願えば良いのです。』
「何で月?普通、星でしょ?』
『星は数え切れないほどございます。すぐに、どの星に願ったか忘れてしまいます。だから、一つしかない月に願うのです。貴方様の道標になるように。』
「なるほど。そうだね。」
『もう、怖くはありませんか?』
「うん。ありがとうね。貴方のお陰で、現実と向き合えそうだ。」
『それは良かった。』
「じゃあね。」
『貴方様の物語、楽しみにお待ちしております。』

『皆様は月に何を願いますか?またのお越しをお待ちしております。』

5/25/2024, 3:17:46 PM

「お空が泣いてるね。」
彼女が言った。俺は空を見上げた。

「私ね。もうすぐ死んじゃうんだ。」
突然、彼女から告げられた言葉。彼女は、昔から病弱だった。重い病気だとは知っていた。それでも、死ぬ事はないだろうと思っていた。それなのに、別れは自分が思うより早かった。俺の表情が固まった。彼女が、心配そうにこちらを見る。俺は、慌てて笑顔を作った。
「じゃあ、死ぬまでにたくさん思いで作ろうね。」
彼女は、大きく頷いた。

彼女は、病室で横たわっている。外は、連日の大雨だ。俺は、彼女の手を握り思い出話をたくさん話した。彼女は、ずっと笑顔で聞いていた。しかし、彼女が口を開いた。
「今までありがとう。早くこっちに来たら駄目だよ。」
そして、彼女は息を引き取った。

ここは彼女の葬式会場だ。今日も雨は振り続ける。俺は、傘を持たずに外に出た。彼女に泣き顔を見せないために。こんなに苦しいなら、いっその事死んでしまいたい。しかし、彼女の最後の言葉を思い出す。あぁ。今日も、俺は君の居ない世界で生きていく。この雨が、涙と共に君への思いを流してくれる事を、祈りながら。

5/24/2024, 3:08:59 PM

【未来の自分へ】
昔書いた手紙。過去の自分が、今の私を見たらどう思うだろうか。

「これどうする?」
母が、段ボールを持って来て言う。私は、置いてと軽く流した。段ボールを開けると、小学校の時に使っていたものが入っていた。その中に、一通の手紙を見つけた。私は、気になり開けてみた。そこには、下手な字で未来の自分へのメッセージが書かれていた。

【未来の私は、何をしていますか?私は、未来がとても楽しみです。】

短い文章を読んで、私は深いため息を吐いた。今の私か。今の私は、ただ酸素を消費する操り人形だ。社会では、思いの強さなんて関係ない。出来るか出来ないか、ただそれだけだ。暗い気持ちが、私を襲う。しかし、ある案を思いついた。

【過去の自分へ 
 世界は優しくないぞ。今仲いい人とは、上手くやれよ。
 逃げたきゃ、逃げろよ。自分だけは、守れよ。先に謝っておく。お前の人生、短いぞ。】

私は、手紙を持って飛んだ。

5/23/2024, 4:41:13 PM

『ようこそ。ここは死者の記憶が記された図書館。何かお探しで?』
「死者の記憶に興味はないよ。ただ、人生が何か知りたいだけ。」
『人生の意味ですか。それは、個人差のあるものです。確定されたものなどない、未知なるものです。』
「そっか。じゃあ、今まで生きてきたのは無駄なのか。」
『そんな事はありません。人生で、一度はあるはずです。生きていて良かったと思う瞬間が。』
「あったかな?忘れた。」
『それは、誠に残念ですね。』
「今日、死のうと思うんだ。学校でイジメに遭ってて、もう辛いんだ。生きたくないんだ。」
『左様ですか。』
「逃げるなとか言わないんだ?」
『貴方様は、止めてもらいたいのですか?残念ながら、私は止める気など毛頭ごさいません。』
「別に、止めて欲しいんじゃない。」
『ならば、早々に亡くなられては?』
「分かってる。その前に一つ良い?アンタにとって、命って何?」
『命ですか?命も人生同様、未知なものです。それ以下でもそれ以上でもごさいません。しかし…』
「何だよ。勿体ぶって。」
『この世界に生きるものは、人生からも命からも、逃げることなど不可能です。それらと我々は、常に隣り合わせです。生と死が紙一重なように。』
「へぇー。達観してんだね。」
『有難きお言葉です。』
「今日は、家に帰ろうかな。」
『おや、自殺はお辞めに?』
「うん。少し、命に向き合ってみるよ。」
『それは、残念。』
「また、いつか来るよ。」
『きっと次にお越しに来られる時は、貴方様は図書館に記されている事でしょう。』

『貴方様は、命から逃げられますか?本日も、貴方様の人生という名の物語を、お待ちしております。』

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