海月 時

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5/22/2024, 3:09:22 PM

「好きだよ。」
僕達は、お互いを見つめながら言った。あの時はただ、この幸せが続く事を願っていた。

「付き合ってください。」
彼女への告白。彼女とは、高校に入ってから知り合った。それから、僕達はすぐに仲良くなった。気付いた時には僕は、彼女の活発さに恋をした。そして今、僕の思いを彼女に告げた。振られても良い、関係が崩れても良い、思いを告げれずに恋が終わるなんて嫌だ。彼女を見る。彼女は、戸惑った表情を見せたが、すぐに笑顔になった。
「ありがとう。私も好き。」
彼女の言葉を聞き、嬉しさが込み上がってくる。僕達は、抱き合いながら嬉し泣きをした。恋人として、これからどこに行こうか、何をしようか、たくさん話した。いつまでも幸せは続くと思っていた。

彼女が事故に遭い、意識を彷徨っている。突然呼ばれた病院で、告げられた言葉。信じられなかった。しかし、ベットで寝ている彼女を見て、現実だと分からされる。僕は、泣き叫んだ。それでも、彼女は目を覚まさない。このまま、彼女が目を覚まさなかったらと、不安が募る。嫌だ。消えないで。側に居て。叶うかも分からない言葉を囁き続けた。

ある時、彼女の親から連絡が来た。見せたいものがあると言う。僕はすぐに彼女の家へと向かった。家に着いた。玄関の前には、彼女の母親が立っていた。そして、母親のは、僕にスマホを見せた。これは、彼女のものだ。スマホの日記には、こう記されていた。
〈ずっと一緒に居たい。けれども、叶わない。終わりは、必ず来るから。それでも、私はまた明日と言ってしまう〉
まだ途中かけなのだろう。短い文章。しかし、一文字に思いが込められていた。僕は、静かに涙を流した。

未だに彼女の意識は戻らない。何度も、現実から逃げたかった。それでも、彼女の言葉が僕たちの思いを蘇らせる。僕は今日も、彼女が目覚める明日を期待してしまう。

5/21/2024, 3:21:00 PM

「お前は、綺麗だね。」
私は、クラゲを見つめていた。深いため息が出る。

「ごめんね。」
母が私に言う。私は、何も言えなかった。母は私に逢う度に、家にあったクラゲのグッズを持ってくる。私が、大好きなクラゲ。昔、言った言葉を今でも覚えていてくれたんだ。そんな、優しい母に謝らせている自分へ憎悪が募った。しかし、考えるのはもう止めた。私は、母に小さく別れを告げ、去った。

私は、死んでいる。自殺をしたのだ。ある時から世界が、人間が汚く見え始めた。自己満によって起こる戦争、絶えないイジメ、上辺の言葉を並べる大人達、全てが汚れていた。そして、私は怖くなった。いづれ、私も汚くなってしまうのだから。ならばいっそ、今の内に消えてしまおう。その思いで、自ら命を絶った。

私が死んでから、母は毎日墓参りに来てくれた。そして、気付けなくてごめんと懺悔していた。その姿を見て、私の心に後悔が募る。死んだクラゲのように、透明な綺麗なものになりたかった。しかし、実際は汚いままだ。それでも、謝る母の心は綺麗だと思った。それが、私の唯一の光だった。

悪が蔓延るこの世界、善を信じられない世界で、私は透明なものを探していく。それが、私の業だ。

5/20/2024, 3:02:32 PM

「気持ち悪い。」
彼女が言い放った言葉。僕は、静かに笑った。

「優等生くん、これお願い。」
話した事もないクラスメイトからの、雑用。〝優等生くん〟これは、皆が付けた僕のあだ名。別に嫌ではない。呼ばれるだけで、相手が勝手に優等生だと思い込んでくれる、便利なものだ。僕は、今日も笑顔で雑用を受ける。そんな僕に視線を向ける女子が居た。彼女は、僕の事をあだ名で呼ばない唯一の人。仲が良い訳では無い。ただのクラスメイトだ。それだけの関係だった。

僕の前には、彼女が居た。そしてここは、屋上だ。彼女はフェンスの向こうに居る。
「自殺なんて駄目だよ。」
僕は、彼女を止めようとした。それでも、彼女の表情は変わらない。
「綺麗事ばかり並べないで。人の気も知らないで。気持ち悪いんだよ。下手くそな笑顔作ってばっかでさ。」
彼女が発した言葉が、僕の胸に刺さる。そして、僕は笑った。バレてたのか〜。彼女は、僕を気味が悪そうに見つめる。僕は、溜めていたものを彼女に告げる。
「親の理想のために頑張ってきた事の何が悪いんだよ。」
「悪くないよ。でもそれは、自分を殺してまでする事?」
彼女の言葉を聞いて、涙が出る。僕は、今まで勘違いしていたんだ。親の言いなりになって、それが正しいと思っていたんだ。自分の愚かさに嫌気が差す。
「じゃあ、気が済んだら帰ってくれる?」
彼女は、本当に人間なんだろうか。泣いている人を邪魔者扱いして。僕は、彼女に聞いた。
「君は何で、ここに居るの?」
彼女は、少し悩みながら答えた。
「私は、星のようになりたい。光が消えても、存在は消えない。そうなりたいんだ。」
彼女は、笑顔で言った。

あれから僕は、親との縁を切った。それが、僕の自由を手に入れる方法だから。まだ、理想の自分なんて見つからない。それでも、良い。今は本当の笑顔があれば、良い。僕は今日も夜空を見上げる。彼女が笑った気がした。

5/19/2024, 4:35:25 PM

「バイバイ。」
別れの決まり文句を言う彼女。僕は君に手を振る。

「物騒だね〜。」
彼女がネットニュースを見ながら言う。最近、通り魔殺人が多発しているそうだ。
「怖いね。今日も一緒に帰ろっか。」
彼女を守るために、僕は今日も彼女の家まで送る。僕と彼女は、ただの幼馴染だ。そして僕は、彼女に片思い中である。この思いが日々大きくなるのが分かる。でも、言わない。彼女との関係を壊したくないからだ。臆病な自分にため息が出る。
「今日もありがとうね。」
彼女の家についた。僕の君だけの、時間は瞬く間に終わりを迎えた。もう少し居たい。そんな事を思いながら、僕は自宅に向かった。

数日が経った日。僕は彼女に告白しようと思う。関係が壊れるのは怖い。それでも、前には進めるはずだ。
「ずっと前から好きだ。」
彼女の目が潤んだ。そして、笑顔で言った。
「私も好き!」
喜びの余り、僕達は泣いていた。今日から彼氏彼女だ。僕達は、何時間も両片思い期間の話をした。そして、笑った。これからの話もした。どこに行きたいか、何をしたいか、たくさん話した。いつの間にか、辺りは真っ暗だ。

「「バイバイ」」
二人でそういった時、視界が揺れた。そして、地面には真っ赤な水溜りが出来ていた。僕は、倒れた。彼女の方からも倒れる音がする。本能で分かる。僕達は死ぬのだ。別れは突然来るんだな〜、なんて呑気な事を考える。僕は掠れた声で言う。
「一緒だよ。」
彼女と天国で会えるなら、死んでも良い。

5/18/2024, 2:50:37 PM

「今日も空が綺麗だね。」
私が言う。私達は笑い合った。

「死にたい。」
彼女が虚ろな目で言う。私は何も言えなかった。私と彼女は、幼馴染だ。何をするのも一緒で、よく近所の人に姉妹だと勘違いされた。太陽のような笑顔を振りまく、彼女はもう居ない。今の彼女は、死体のようだ。

彼女の両親は、中学の時に亡くなった。交通事故だった。それからは、親戚の家に預けられていると聞く。そして、そこでは虐待に遭っている。彼女の苦しみに気付いておきながら、私が手を差し伸べる事はない。私はただ見ているだけだ。そんな最低な私のそばに、彼女は居てくれる。優しくしてくれる。それが余計、私を苦しめた。少しでも、彼女のためになりたい。そして決めたんだ。
「じゃあ、一緒に死のう。」
久しぶりに見た、彼女の笑顔は泣きそうな笑顔だった。

今私達は、屋上に居る。ここで飛び降りるのだ。
「何で、一緒に死のうって言ってくれたの?」
彼女が聞く。当然の質問だ。私は答える。
「君はいつでも私のそばに居てくれた。だから、君が死ぬなら私も一緒がいいって思ったんだ。」
本当は君の事が好きで、君が居ない世界が怖いだけって言ったら、彼女はどんな顔をするだろうか。
「ありがとう。」
彼女が言う。本当に君は馬鹿な人。私の本心も知らずに。でも、いいんだ。それでこそ、私が愛した人だから。
「死んでも一緒だよ。」
私は彼女に言った。そして、私達は飛び降りた。

死を望む彼女。少し異質な恋をした私。二人の人生も、私の恋物語も、これにて終幕だ。

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