海月 時

Open App

「お前は、綺麗だね。」
私は、クラゲを見つめていた。深いため息が出る。

「ごめんね。」
母が私に言う。私は、何も言えなかった。母は私に逢う度に、家にあったクラゲのグッズを持ってくる。私が、大好きなクラゲ。昔、言った言葉を今でも覚えていてくれたんだ。そんな、優しい母に謝らせている自分へ憎悪が募った。しかし、考えるのはもう止めた。私は、母に小さく別れを告げ、去った。

私は、死んでいる。自殺をしたのだ。ある時から世界が、人間が汚く見え始めた。自己満によって起こる戦争、絶えないイジメ、上辺の言葉を並べる大人達、全てが汚れていた。そして、私は怖くなった。いづれ、私も汚くなってしまうのだから。ならばいっそ、今の内に消えてしまおう。その思いで、自ら命を絶った。

私が死んでから、母は毎日墓参りに来てくれた。そして、気付けなくてごめんと懺悔していた。その姿を見て、私の心に後悔が募る。死んだクラゲのように、透明な綺麗なものになりたかった。しかし、実際は汚いままだ。それでも、謝る母の心は綺麗だと思った。それが、私の唯一の光だった。

悪が蔓延るこの世界、善を信じられない世界で、私は透明なものを探していく。それが、私の業だ。

5/21/2024, 3:21:00 PM