(小説になってます)
体育祭には必ずリレーに選ばれる
速読が得意で読解力は人並み以上
計算問題なら朝飯前
誰とでもすぐに打ち解ける
初めて恋人ができたのは幼稚園の頃
そんな風に自分を誇れる僕は欠点がある
体育祭の練習で一番に揉め事を起こすのは自分
読解力はあるのに暗記は苦手
計算は得意だけど、人の心理の計算はミスする
自分を嫌ってる人に対しては対抗心を見せて拒する
恋人ができても期間は長くて二年ほど
そんな不完全な僕に
優しく接してくれる女性がいた
結局は僕のわがままで彼女を傷つけ喧嘩してしまった
でも、彼女は仲直りしてくれて許してくれた
その日から僕は彼女のことを一番に思いやって接した
僕の懸命なところに彼女は応えてくれた
このままなら、ずっと続くと思っていた
悪い機会は突然訪れた
ある日、彼女からストーカーの相談を受けた
それからボディーガードを必死に努めた
ある夜。いつも通り彼女を家に送る時
ナイフを持った男が無言で向こうから走ってきた
彼女を守るため男と揉み合っているうちに
僕が男を刺してしまった
それから僕は人殺しとして生きる道へ進んだ
そして彼女は心を病み障害者の道へ進んでしまった
あの夜から僕は不完全どころか
何もかも未完成なゴミクズになってしまった
私の高校の先輩は
フルーティーな香りの香水が似合う人だった。
ベビーフェイスで
明るくて笑顔で接し、思いやりがあって
誰とでもすぐに打ち解ける、
そんな人の鑑みたいな人。
私も先輩のようになりたくて必死だった。
でも、どんなに頑張っても
彼女のようにはなれなかった。
誰にでも向き不向きがあるように
人の性格って変えられないと
なんとなく思った。
そんな時、私はその先輩に相談した。
「どうしたら、先輩みたいになれますか?」
答えは一つだった。
「あなたにしか似合わない香水があるの。
その香水さえ見つけられれば、
きっとあなたは『自分らしさ』を見つけられる。
あなたにはあなたの良さがある。
それを忘れないで」
その日からさまざまな香水をテスターで試して
金木犀のような甘い懐かしい香りの香水を選んだ。
自分から別れを切り出したのは理由がある
あなたを嫌いになったからではない
私と一緒にいるとあなたは前に進めない
私があなたの本来の幸せの扉の鍵になってしまう
だから最後にもう一度だけ言葉の代わりにキスをして
「お久しぶりです」
そう言って君は事業所の玄関のドアを開けた。
声を聞いた僕たちは、みんな手を止めて振り向いた。
ここは障害者が社会に出るための練習を兼ねた、
障害者が働くための作業所だ。
君はこの作業所の卒業生だ。
君がここを旅立ってからもう三年になる。
そんな君がなぜ今になって突然訪問してきたのか疑問だ。
「久しぶりだね。元気にしてたかな?」
そう言ったのはこの作業所の責任者である坂原さんだ。
「今日はお願いがあってきたんです」
「何かな?」
君の目は泳いでいる。
簡単に言える頼み事ではないらしい。
「私の働いている本屋さんで人が足りなくて、この作業所の利用者さんを誰か一人寄越してほしいんです」
坂原さんも他の職員も驚いていたが、利用者の僕たちが一番驚いていた。
なぜなら、障害者は特にパートでも
働き口を見つけるのは、かなり困難だから。
われ先に他の利用者が立候補して君に向かう。
しかし、君の求めている人材と立候補者は合わないらしい。
君は一人の女の子に近づいた。
ほとんど誰とも話さない、うつ病の子だ。
「あなたに来て欲しいの。あなたにポップを作ってもらって宣伝してくれないかな?」
「ま、まさかその子には無理だよ」
誰もがそう思った。
でも、坂原さんは止めずに賛同した。
「彼女には人を惹きつける文章が書ける。みんな知らないけど、一度だけキャッチコピーの公募で入賞したことがあるんだよ」
僕たちは驚きを隠せない。
彼女の可能性を僕たちは奪おうとしていた。
それが障害者に対する偏見だった。
「障害者だから、これは出来ない」と。
選ばれたその女の子は笑顔で承諾した。
もちろん、君のサポート付きでの契約だが、
その子のセンス溢れるポップで売り上げは上昇したと
坂原さん宛にメールで報告してきた。
君のあの訪問を機に僕は社会で働くことの恐怖を少しずつ払拭し、勇気を持てた。
カフェの外は強い風と共に強く大粒の雨が降っている。
道ゆく人々は皆忙しく歩いている。
今、私はその嵐の天候のような境地にいる。
目の前の男は鋭い北風のような眼で私を睨んでいる。
彼は元夫だ。
結婚している当時、
私たちの間にできた一人娘の親権を奪おうとしている。
私と娘は酒豪の暴力男から逃れるために離婚した。
その理由も理解せず元夫は
娘だけでも手元に置こうとしている。
元夫は口を開く。
「俺になぎさを返せ」と。
私も口を開く。
「もうあの子を危ない目に合わせない」と。
娘の連絡先をしつこく求めてくる元夫の顔に
コップの水をかけた。
「らちが開かない」
そう吐き捨て、私は千円札を一枚置いて店を出た。
外は相変わらずゲリラ豪雨だ。
あんな男に惚れたあの頃の自分を悔やみながら
私は傘をさして雨の中でぼーっと突っ立っていた。